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自分で選んだだけあって、藤森は珍しく真剣な顔で映画に見入っていた。
それは別々の星に住む男女の物語。
なかなか作り込まれた世界観だった。
終盤、ふとまた藤森を見た。
彼女の目から一粒、涙がこぼれ落ちた。
スクリーンの光で照らされたそれはきらきらと瞬いて、あまりにも綺麗で、俺は思わず息を飲んだ。
結局、映画の結末はよく覚えていない。
「おもしろかったね」
「そうじゃな」
「今日はね、寝なかったよ!レイトショーを寝ないで観れるなんて、私も大人になったな」
「大人になったっていうか、今までが小学生レベル…」
「なぁに仁王くん?なんか言った!?」
「なんでもないぜよ」
藤森の涙を初めてちゃんと見たせいか、俺は内心動揺していた。
彼女はすっかりいつもの調子に戻っていて、さっきの涙は幻だったんじゃないかと思えるほどだった。
☆
映画館を後にした俺たちは、静まり返った藤森の家に忍び込んだ。
着替えた藤森はリュックを背負って部屋から出てきた。
そして、リビングのテーブルで置き手紙を書いていた。
俺たちは小声でひそひそと話した。
「捜さないでください、ぐらいじゃ弱くなか?脅し文句も書いとかんと」
「そっか。連れ戻そうとしたら警察に今までのことバラすぞ、とか?」
「おおそうじゃ。お前さんは見た目によらずおっかないのう」
「ひどっ、仁王くんが脅せって言ったのに」
「この証拠写真も添えとけば完璧じゃ。ほれ」
「え、いつの間に撮ったの…!?」
「昨日お前さんが寝とる間に撮っといた」
「うわぁ…やっぱり仁王くんが1番怖いよ」
首元の痣を映した写真を渡すと、藤森は引き気味に受け取った。
他のところも撮ろうかと思ったが、さすがに女子のパジャマをめくるのは気が引けたのでやめた。
やめておいて正解だった。
本気で嫌われるところだった。
「でも、やっぱりいいや。これはいざという時のためにとっておくよ」
「ほうか」
「うん。たぶん脅したりしなくても、ママは私を連れ戻そうとしないと思う」
藤森は写真をリュックにしまい、メモを書き直した。
『今度こそちゃんと幸せになろう』
たったそれだけ。
さらりと書いたわりに綺麗な字で書かれていた。
あれだけ理不尽な暴力を受けても、藤森は母親を嫌いになることはできないのだ。
「お前さんらしいのう」
「そう?」
「ああ」
どうかこの繊細で優しい少女が幸せになれるように。
そう願わずにはいられなかった。