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仁王くんは静かに相槌をうちながら私の話を聞いていた。
空はだんだんと薄暗くなっていた。
「今まで、よく頑張った。もう十分じゃ」
「うん」
「2人でどこか遠くに逃げんか。もう誰にも、お前さんを傷つけさせん」
「…」
2人で逃げる。
中学生2人で、逃避行か。
非現実的だけど、すごく甘美な響きだ。
「やっぱり仁王くんは見かけによらずロマンチストだよね」と茶化そうと思ったけど、あまりに真剣な顔で言うので、私は何も言えず曖昧に笑った。
家を出るにしても、着替えと荷物が必要だ。
ママが眠った頃を見計らって家に帰ることにした。
それまではまだ時間があるので、一旦仁王くんの家に戻り、仁王くんのお母さんに挨拶をすることにした。
「本当にお世話になりました」
「待って、まだここにいてもいいのよ?そんなに急いで出ていかなくたって…」
「ありがとうございます。でも大丈夫です!すっかり元気になったので」
「そう…?またいつでも、遊びに来てね」
「はい」
感謝してもしきれない。
やっぱり、あんな素敵なお母さんから仁王くんを奪えないなと思った。
仁王くんにはちゃんと帰るべき家があるのだ。
「なぁ、最後にあの映画館行かん?」
「あ…ごめん。私今お金持ってないからダメだ」
「へーきじゃ。今まで貯めてたやつ全部持ってきたからの」
「…仁王くん、あの」
「これだけあればしばらくは持つじゃろ。心配せんでええ」
ぽんぽんと優しく頭をなでられた。
それから先に歩いて行ってしまう猫背の後ろ姿について、いつもの映画館へと向かった。
映画館の入り口には、上映している映画のポスターがたくさん飾られている。
その中の一つを見て思わず足を止めた。
おそらく主人公であろう綺麗な銀髪の男の子が、仁王くんに見えたから。
「なんじゃ、それが気になるんか」
「うん。観てみたいかも」
「俺もそれでええよ。けど、藤森はどうせ寝るんじゃろ」
「絶対に寝ない!…という自信はない」
「ふっ、なんじゃそれ。まぁいつものことか」
仁王くんは呆れたように笑って、チケットを取りに行ってくれた。
今日はお昼頃まで寝ていたし、寝不足でもない。
なにより、仁王くんとここで映画を観れるのたぶん最後だ。
思い出として残るように、今日は起きていようと思った。