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「昔はね、ママはとても穏やかな人だったんだよ。でも、パパが私たちを捨てて出て行ってから、人が変わっちゃったの」
他所に女を作って自分を捨てた夫。
残ったのは、そんな夫によく似た顔の娘。
ママは精神を病んでしまった。
突然癇癪を起こしては私に暴力を振るい、ふと正気に戻ると「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣きながら謝る。
私は痣や傷だらけの自分よりも、ママがかわいそうに思えた。
「パパが出てってから、一年後くらいかな。ママに新しい恋人ができて、その人と再婚した。ママの精神も安定してきてね、しばらくは平和だったなぁ」
平穏な日々が戻ってきた。
ママがまた私に優しく笑いかけてくれることが何よりも嬉しかった。
今度こそ幸せになれると思った。
「でも、新しい父親も不倫してさ。ママってほんとに男見る目ないよね。また不安定になって…私に当たるようになった。だから私、なるべくママに会わないように生活することにしたの」
中学生になった私はそれなりに自己防衛を覚えた。
ママは毎日睡眠剤を飲むので眠りが深い。
だからママが寝てから家に帰り、ママが起きる前に家を出れば、顔を合わすこともなく過ごせた。
「暴力を受けるのは減ったけど、家に帰れないっていうのもなかなか辛くってさ。放課後友達といても、夜になれば1人ぼっちだったから」
新しい父親はママの暴力を止めてはくれなかったけど、お金だけはくれたので、放課後は友達と遊んで過ごすことができた。
だけど夜になればみんなは当たり前のように家に帰る。
私は、帰れない。
どうして私だけ?
夜の公園で1人ブランコに乗っていると、自分がひどく惨めに思えて辛かった。
「もう死んじゃおうかなって思った。そう思った日に、偶然仁王くんに会ったの」
友達は好きだったけど、明るく振る舞う毎日に疲れてきてしまった。
もう終わりにしたい。
明日なんて来なくてもいい。
そう思った日に、仁王くんが私を見つけてくれた。
いつもひとりぼっちだった夜の時間に、仁王くんがいた。
そして「また明日」と言ってくれた。
ああ、また明日も仁王くんに会いたいなぁと思った。
「それから毎日公園に来てくれたよね。仁王くんて見た目によらず律儀だなぁって笑っちゃった。…すごく、嬉しかったの。もう少し頑張ってみようって思えた」
映画はあんまり興味がなかったけど、安心して眠れるあの時間が好きだった。
仁王くんとお喋りをしていると自然と笑えた。
夜は嫌いだったはずなのに、いつのまにか1番楽しみな時間になっていて。
どんどん彼のことが好きになった。
「昨日もいつも通り仁王くんに会えるって思ってたんだけど。朝起きたら、熱で起きれなくて。そうこうしてるうちにママが起きてきちゃった。抵抗する力もなかったから、癇癪起こしたママにやられ放題で」
ママは私のところに来て何かを言ってきたけど、熱で意識が朦朧としている私にはまともに返事をすることができなかった。
それが気に入らなかったのかはわからないが、ママは突然大声で怒鳴り出した。
布団から引きずり出され、叩かれ、首を絞められた。
息苦しさと恐怖と悲しみで涙が溢れ、視界がぼやけた。
私、死ぬのかな。
仁王くんにまた会いたかったな。
そう思った時、私の名前を呼ぶ声がした。
「死にたくないって思った。前は死んじゃいたいって思ってたくせにね。そしたら仁王くんが助けてくれたんだよ。…ありがとう、仁王くん」
家を出る寸前、ママの方を振り返った。
一瞬だけ見えた、ほっとしたような、泣きそうな顔が頭から離れない。
ああ、私たちは一緒にいてはいけないんだ、と思った。