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藤森が学校を休んだ。
ここ最近よく咳をしていたから、ついに熱を出したのかもしれない。
体調が気がかりだが、彼女は携帯を持っていないので連絡することもできない。
それでつい藤森の家まで来てしまったものの、インターホンを鳴らすか迷った。
授業のノートのコピーでも取ってくれば、会いにくる名目にもなったのに。
さて、どうするか。
玄関前で途方に暮れていると、家の中で大きな物音が聞こえ、ヒステリックな女の声が響いた。
「藤森…」
心臓がうるさいくらいに拍動し、嫌な汗が出るのを感じた。
鍵が開けっ放しになっていたらしくドアノブを回すと扉が開いたので、そのまま中に駆け込んだ。
「藤森!」
「……に、おうくん?」
目の前の光景に絶句した。
虚ろな目でぐったりと横たわる藤森と、彼女に馬乗りになって首に手をかけている女。
俺は藤森の母親であろうその女を突き飛ばした。
倒れ込んだ女は「なんなのよあんた!勝手に入ってきて!ふざけないで!」と叫んだ。
あんたこそふざけるな。
俺は無言で睨みつけた。
「行くぞ藤森」
女はまだ何か叫び続けていたが、無視して藤森を抱き起こし、外に出た。
女は追いかけては来なかった。
薄いパジャマ姿の彼女に自分の上着を着せ、おぶって歩いた。
藤森の体は熱くて、呼吸は苦しそうだった。
「仁王くん」
「ん?」
「なんでここに…?」
「…お前さんは見た目によらず不良娘だからのぅ、ズル休みじゃないか見張りにきた」
「ええ?ひどーい。ちゃんと、風邪ひいて寝込んでたもん」
「そうみたいじゃの。すまんすまん」
「いいよ。だって、仁王くんが来てくれなかったら、今頃お空のお星様になってたかもしれないし」
「…縁起でもないこと言うのやめんしゃい」
「いや本当に、ありがとね。そうだ、今度お礼にジュース買ってあげるよ。あ、仁王くんはコーヒーの方がいいかな?」
「藤森」
「なに?」
「無理に喋らんでええき」
「…だって、なんか喋り続けてないと、泣きそう」
「べつに泣いたっていいじゃろ」
「そう、かな。仁王くんは優しいね」
「ああ、俺は見た目によらず優しいからのぅ」
「ふふっ…うん、そうだね」
小さな嗚咽と震えが背中から伝わってきた。
俺は藤森を連れ出せたことへの安堵と、彼女を傷つけられたことへの怒りと悔しさで、感情がぐちゃぐちゃだった。
どうして藤森がこんな目に。
なんであんなことができる?
噛み締めた唇からは血の味がした。
ゆっくり遠回りをして、藤森が泣き疲れて眠った頃、自分の家に連れて行った。
突然息子がパジャマ姿の少女を連れて帰ったものだから、母親はもちろん困惑していた。
「熱があるんじゃ。頼む、助けてくれ」
もはやダメ元ではあったが、母は深く追求することもなく、すぐに布団と冷たいタオルを用意してくれた。
そして藤森の薄っすら痕が残った首元を見て顔を曇らせ、眠っている彼女の頭をそっと撫でていた。
「すまんの」
「バカね、ありがとうって言いなさいよ。あんたももう寝なさい」
「ん。ほんとに、助かったぜよ」
ベッドに倒れこむと、どっと疲れを感じた。
たしかに疲れているはずなのに、無理やり目を閉じてもその日は眠れなかった。