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いつもあの公園にいると藤森が言っていたのは本当だった。
あの日から、俺は夜になると公園に通うのが日課になった。
クラスメイトの女子が夜遅くに1人でいるなんて知ってしまったら、ジェントルマンな相方でなくともさすがに放っておけない。
「よっ」
「あ、仁王くん!」
俺を見つけると、藤森はいつも嬉しそうにブンブン手を振ってきた。
ふと、昔公園にいた野良猫に餌をあげたら、懐かれたことを思い出した。
藤森との過ごし方はだいたい2パターンだった。
映画館でレイトショー観るか(藤森はやはり映画に興味はないようでほぼ寝ていたが。)、そのまま公園でジュースを飲みながら喋っているかだ。(藤森はココアだのイチゴミルクだの、甘ったるそうな飲み物ばかり飲んでいた。子供舌じゃのうとからかうと、コーヒーばっかり飲むなんて仁王くんはかっこつけだね!と言い返された。)
「藤森ー」
「なに?」
「そんなブランコ漕いだら危ないぜよ。やめんしゃい」
「どうして?平気だよ!」
「パンツ見えとるけど」
「…仁王くんのエッチ!!」
「せっかく教えてやったんに」
藤森に会いに行っていたのは、ボランティア精神のようなものだった。
それがいつから変わったのか、明確にはわからない。
いつのまにか藤森と過ごす夜の時間を心待ちにしている自分がいた。
お互い冗談を言ってからかい合ったり、他愛のない話をだらだらとする時間。
彼女の屈託のない笑顔。
無防備な少し幼くみえる寝顔。
また明日、と別れる時の手の振り方。
全てが妙に心地良くて、愛おしいと思えた。
学校では相変わらずあまり話さなかったが、その分2人だけの時間が特別なものに感じた。
藤森に好意を抱いていることに気づいてからは、もっと彼女のことを知りたくなった。
何かを抱えているのなら、力になりたい。
たまたま見えてしまった足の痣からなんとなく予想はついていた。
だが、核心をつくことはできずにいた。
人の秘密を暴くのは得意だったはずなのに、暴けば何かが壊れてしまいそうで動けなかった。
☆
いつものように藤森を送って行ったときのことだ。
その日は珍しくまだ家に明かりがついており、家の中で人影が動いていた。
「藤森?」
「…」
藤森の足はぴたりと止まり動かない。
顔は強張り、握りしめられた手は微かに震えていた。
明らかに様子がおかしかった。
「…なんだか、もう少し散歩でもしたい気分になってきたのう。藤森、付き合いんしゃい」
「え?」
「今日は星が良く見えてきれいじゃき。堪能せんと損じゃろ?」
「…ふふっ。仁王くんて見た目によらずロマンチストなんだね」
「お前さんは一言余計ナリ」
「あはは、じょーだんだよ!仁王くんは、意外と優しいよね」
「気のせいじゃろ」
「あ、照れてる?」
「プリッ」
下手くそな笑みを浮かべる藤森の手を取って、歩き出した。
まるで恋人同士のように手を繋いで。
「本当にきれいだねぇ」
「ああ、そうじゃな」
ゆっくりと歩いて回って戻る頃には、いつものように家は真っ暗だった。