マイホーム・プラネット
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
藤森美春とはたまに話すクラスメイトといった関係で、それ以上でもそれ以下でもなかった。
そんな関係が変わり始めたのは、2ヶ月前のことだ。
☆
以前からレイトショーを観に行くことは多かったが、テニス部を引退してからは頻度が増えていた。
ある日なんとなく気分で、いつもは通らない道を遠回りして歩いていた。
途中に小さな公園があり、誰かがブランコに乗っているのが見えた。
それが制服姿の少女で、近寄ってみれば自分のクラスメイトだったのでギョッとした。
藤森は俺に気づいておらず、ぼーっとした無表情のままブランコを漕ぎ続けている。
他に誰もいない公園は静かで、キィキィとブランコの錆びた音だけが響く。
いつも人に囲まれていて笑顔を浮かべている彼女は、こうして見ると別人に見えた。
「おい」
「うわっ!?ビックリしたー、仁王くんかぁ…こんばんは」
「こんばんは、じゃなか。こんな遅くに何しとるんじゃ」
「え?見ての通りブランコで遊んでるよ」
「…早く帰りんしゃい。こんなとこに1人でおったら、危ないぜよ」
「えー、いつもここにいるから大丈夫だよ。仁王くんこそこんな時間に何してるの?」
「俺は映画館に行くとこ」
「そうなんだ。いいねぇ」
「…お前さんも行くか?」
「いいの?行く行く!私も映画久しぶりに観たいし」
「観終わったら深夜になるが…大丈夫なんか」
「うん。遅い分には大丈夫」
「…藤森は見た目によらず不良娘なんじゃの」
「ふふ、クラスのみんなには内緒だよ」
悪戯がバレた子供のように笑う藤森。
…なんだか調子が狂うな。
ため息をついていると、藤森は俺の顔を覗きこみながら「仁王くんは見た目通りの不良少年だね!」と言ってきた。
ほっとけ。
映画が観たいと言っていたくせに、藤森は序盤からすやすやと寝息をたて始めた。
だんだんと左肩が重くなってくる。
起こしてやろうかと思ったが、あまりにも安心しきったような顔で寝ているので、そっとしておいた。
エンドロールが終わって映像が消え、客席の灯りがついた。
揺すり起こすと、藤森は目を擦りながらあくびをした。
「映画おもしろかった?」
「まぁまぁ。藤森はほぼ寝てたじゃろ」
「えへへ…実は映画そんな興味なかったの、ごめん!時間つぶせたしそろそろ帰るよ」
「ほーか。それなら送ってく」
「ありがとう」
何故、こんな遅くまでふらついてるのか。
親は心配しないのか。
気になることはあったが、藤森は聞いても答えないような気がしたのでやめた。
代わりに、今日の小テストができなかっただとか、明日の食堂の日替わりはハンバーグだとか、他愛もない話をしながら夜道を2人で歩いた。
今まで知らなかったが、藤森の家はわりと近かった。
「送ってくれてありがとね、仁王くん」
「ん。また明日」
「また明日!」
小さく手を振って、藤森は家の中に入って行った。
中学生の娘がまだ帰っていないというのに、真っ暗で静かなその家に、妙な違和感を感じた。