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数年ぶりに訪れた映画館に明かりがついていることにホッとした。
レイトショーの時間は、相変わらず人がまばらでひっそりとしている。
せっかく来たし何か観て帰ろうかと、上映スケジュールを指でたどった。
彼はまだここに通ってるのだろうか。
家を出たあの日から、仁王くんとは会っていない。
あの頃は携帯電話も持っていなくて、住所を聞くのも忘れてしまったから、連絡手段も何もなかった。
もしかすると、彼は私のことを忘れてしまったかもしれない。
それでも一言お礼を言いたいのだ。
だって、ここまで生きてこれたのは仁王くんのおかげだから。
家を出てからは施設で保護してもらった。
もちろん両親は私を迎えになんて来なかったので、高校卒業まではそこで過ごすことになった。
施設は大人に監視されているようで窮屈だったけど、安全に守られていたし、気の合う人ともそれなりに出会えた。
でも、寂しかった。
別れる時は強がったくせに、仁王くんに会いたくてしかたなった。
夜になるとたまに泣きたくなって、私は自分が思っていたよりもずいぶんと子供だったんだなと思った。
高校を卒業して施設を出た。
今は一人暮らしをしながら、大学とバイト先を行ったり来たりの日々。
そして初めての長期休みに、この街に帰ってきた。
ずっと会いたかった彼を探しに。
仁王くんがまだこの街にいるかはわからないけど、何か手がかりはつかめるはずだから。
☆
映画を一本観て外に出ると、夜空にはたくさんの星が散りばめられていた。
ぼーっと見とれていると、一瞬流れ星が光った。
ああ、なんだか良いことがありそうな予感。
明日には仁王くんに会えるかもしれないな。
今日はとりあえず宿に帰ろうと歩き出す。
「藤森、」
後ろから聞こえた懐かしい声に足が止まる。
「藤森じゃろ?」
振り返れば、ひょろりとした猫背のシルエット。
あの頃よりも背が伸びて、大人びた彼が立っていた。
「仁王くん…まだこの街にいたんだね」
「待っとるって言ったじゃろ。忘れたんか?」
「ううん、そうだったね。…よかった。私、ずっと仁王くんに会いたくて」
「俺も」
震えて動けない私を、仁王くんはそっと抱きしめて、唇を重ねた。
大好き。
ありがとう。
言いたいことはたくさんあるのに言葉が詰まって出てこない。
代わりに涙ばかり溢れてくる。
仁王くんは泣きじゃくる私の頭をあやすように撫でた。
「お帰り、藤森」
それは一番聞きたかった言葉だった。
「ただいま、仁王くん」
それは一番言いたかった言葉だった。
滲んでいる星の光は、私たちを優しく包んでくれていて。
彼のあたたかい腕は、私だけを包んでくれていて。
ああ、ここが私の帰る場所なんだと思った。
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