みやこおち
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「ねぇねぇ、この辺で大きい本屋ってあるかな?」
「本屋ですか?あっちの方にあったと思うんですけど…うーん…上手く説明できないので、案内しましょうか?」
「ありがと〜お願いできる?」
「もちろんです」
「あ、その前にお茶でもしない?奢るからさ」
「いえ、礼には及びません!本屋に向かいましょう」
…なんということでしょう。
藤森さんがナンパされているところに遭遇し、思わず電柱の裏に隠れてしまいました。
しかも彼女はこれがナンパだということすらも気づいていないご様子。
今まで1人で出歩くこともなかったでしょうから、無理もありません。
「本屋は急ぎじゃないからさ。ね?お茶しようよ」
「お兄さん、喉が渇いてるんですか?」
「うーん、まぁそんな感じ?」
「きっと自販機が途中にありますよ。あの、もし自販機で買うなら、私がボタン押してみてもいいですか?ぜひ、押させてください!!」
「いや自販機はいいからさ」
「じゃあコンビニですか?いいですね、コンビニ…興味あるけどまだ行けてないので!」
変なところで少し興奮気味な藤森さん。
話が噛み合わず、派手な見た目の男性は頭を抱えています。
このまま諦めてくれればいいのですが…。
男性は、本屋の方向を指差しながら進もうとする藤森さんを引き止めていました。
そして馴れ馴れしくも肩を抱いています!
本屋に行く気もないのに、藤森さんの良心につけ込むだなんて…
レーザビームを打ち込んでやりたいところですが、それは紳士的にアウト。
平和的に解決すべく2人のもとに近づきました。
「藤森さん、待ち合わせに遅れてすみません」
「柳生くん!…待ち合わせ?」
「今日は映画にいく予定でしたね。ああ、大変です!急がないと上映時間に間に合いません。参りましょう」
「うん??とりあえずお兄さんを本屋に案内しないと…」
「なるほど。それなら私が案内しましょうか?」
少しずれた眼鏡を上げ直し男性を一瞥すると、彼は顔を引きつらせながら手を離しました。
「あ…いや…やっぱ大丈夫です」
「そうですか。では失礼します」
オロオロと私とあの男性を交互に見る藤森さん。
私は彼女の手を取り、すぐにその場から立ち去りました。
「ちょっと待って柳生くん!映画の約束なんてしてたっけ?」
「いえ、してないですよ。恋人という設定の方が割り込みやすかったので」
「あ、恋人の設定だったんだね」
「突然名前で呼んだり、手を握ってしまいすみません」
「ううん、それは大丈夫だけど…」
繋いでいた手を離すと、藤森さんは心配そうに来た道を振り返りました。
「お兄さん、本屋行けたかな?」とぽつり。
人を疑わない純粋なところは彼女の良いところでもありますか…困った人ですね。
思わず苦笑してしまいました。
「大丈夫です。あの方は本屋に行く気なんてないんですよ」
「そうなの?…あっ!じゃあまさか」
「そのまさかです」
「誘拐?」
「はい?」
「身代金なんて…うちにはもう、すずきの涙ほどしかお金ないのに」
「誰ですかすずき。すずめです」
「そう、すずめ」
「…そうじゃなくて!あれがナンパの手口なんです」
「ああ、あれナンパだったんだ!妙にお茶への執着が強いとは思ったんだよね。なにか未練でもあるような」
「呪縛霊みたいに言わないでください」
「呪縛霊!ふふ、柳生くんておもしろいこと言うね」
「藤森さんがおかしなことを言っているだけですよ!?」
私としたことが、すっかり彼女のペースに乗せられてしまいました。
「やれやれ」と言葉が漏れ出します。
しかしそう言っているわりに、不思議と嫌な気はしませんでした。
自分のペースを他人に乱されるのは嫌だったはずなのですが。
「柳生くん、助けてくれてありがとうね」
「いえ、次からは気をつけてくださいね」
「知らない人についていっちゃ駄目って言われてるから、大丈夫。ちゃんと断るよ」
「本当ですね?約束ですよ」
「アップルパイがあるからって言われてもついて行かないよ…絶対!」
「アップルパイお好きなんですね…」
「大好き」
「あ、そういえばこの近くの喫茶店のケーキが絶品なんですよ。たしかアップルパイもあったはずなんですけど。ご一緒にいかがですか?」
「そうなの?行く!」
「行っちゃダメじゃないですか!もう、言っているそばから」
「だって柳生くんは知らない人じゃないもん。友達でしょ?」
無邪気に笑いながら言う藤森さん。
友達、とストレートな表現で女子に言われるのは久しぶりな気がします。
私は男女関係なく親切にするよう心がけてはいますが、丸井くんたちのような親しみやすさがないのか、女子からは特に一線置かれているのを感じていました。
この歳では自然に男女で距離を置くのが当然だと思っていたところもあります。
こんなに当たり前のように「友達」と言われるのは、なんだかくすぐったいような温かい気持ちになりますね。
私は頷いて微笑み返しました。
「ええ、そうですね」
「じゃあさっそく行こう!」
「そっちは逆方向ですよ」
喫茶店での時間はあっという間に過ぎてしまいました。
藤森さんはあまりにも幸せそうな顔でアップルパイを頬張っていたので、相当好物なのでしょう。
本当にアップルパイで釣られないのか心配になるくらいです。
「すごい美味しかった〜添えてあるアイスクリームと食べられるのも最高だよね!」
「喜んでもらえて何よりです」
また誘ってみるとしましょうか。
私はいいんです、藤森さんの友達ですからね。
この時はまだ、友人以上の関係を望むようになるとは思ってもみなかったんです。
〜はじめてのナンパ〜
『跡部、私ナンパされちゃった!高校生に間違えられたのかな?大人っぽくなったのかも!』
『アーン?お前みたいなちんちくりんをか?そいつロリコンなんじゃねーの』
『ひどっ!』
『とりあえず警備何人かつけるか』
『それはやりすぎだよ…』
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