みやこおち
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日曜。
午前の部活を終え、精市と帰路についていた時のことだ。
駅に着くと切符売り場でうろたえている少女が目に入り、それが藤森美春だと気づいて2人で顔を見合わせた。
元お嬢様で氷帝の跡部の婚約者だったという、噂の転校生。
実に興味深い人物だ。
「藤森さん、だよね?」
「え?あ、テニス部の…」
「部長の幸村だよ」
「柳蓮二だ」
「幸村くんと、柳くん。丸井くんたちと一緒にいるの見かけたことあるよ。こんにちは〜」
「ふふ、こんにちは。困ってたみたいだけど、どうかしたのかい」
「はっ!そうだった!切符を買おうとしてたんだけどね、行き先じゃなくて料金だけ表示されてるから、どれ買えばいいかわからなくて…」
「あそこに路線図があるだろう。目的地を探して、下に書いてある料金の切符を買えばいい」
「ほんとだ、気づかなかった。えっと…あった!」
藤森は初めて電車に乗るらしい。
期待を裏切らないといったところか。
行き先が同じ方向なので、途中まで同行することになった。
「2人は部活帰り?」
「ああ」
「藤森さんはおでかけ?」
「うん、友達のお家に遊びに…ヒイッ!?!?」
悲鳴が聞こえて振り返ると、藤森が改札のゲートに阻まれていた。
目を見開いて固まっている。
何故か切符を手に持ったままだ。
「藤森、切符を入れないと通れないぞ」
「え!?…本当だ」
「ぷっ、あはは!」
「わ、笑わないでー!」
「だってさっきの顔…!」
「幽霊でも見たかのような悲鳴だったな」
「柳くんまで…!ちゃんと2人の真似して通ろうとしたのになぁ」
「俺たちは切符ではなく定期券だからな。カードをかざして通るんだ」
「最初に聞いておけばよかったー!」
後になって恥ずかしくなってきたのか、藤森は赤い顔で頭を抱えた。
そして「それにしても改札ってあんなに勢いよく閉まるんだね…絶対に通さないという強い信念を感じたよ…」と何故か改札に感心していた。
なるほど、おもしろい着眼点を持つ女だな、と俺も変なところで感心してしまった。
「あれが彼ら(改札)の仕事だからな。だが個性もあるので、勤務態度が怠惰なものもあるそうだぞ」
「そうなんだ…十人十色だね」
「冗談だがな」
「え!?澄ました顔で冗談言うのやめて!」
どうやら何でも真に受けてしまう性格らしい。
いつか詐欺などに合わないか心配だ。
反応が良いのでからかいたくなるタイプだが、やりすぎは良くないな。
そう思ったところで、精市が妙にいい笑顔、というか悪い顔をしていることに気づいた。
からかう気満々な確率97%だ。
「藤森さん知ってた?電車の中は土足厳禁なんだよ」
「そうなの!?どうしよ、袋とか持ってこなかったなぁ…中に靴箱ある?」
「あるよ」
「よかったぁ」
「ねぇ、もし土足で電車内に足を踏み入れてしまったら…どうなると思う?」
「え…罰金、とか?」
「ううん。駅員達に取り押さえられてね…湘南の海に投げ込まれるらしいよ」
「えっ…!?こっ怖!!そうなんだ…」
「うん、だから気をつけてね」
「先に教えておいてくれてありがとう。危うくサメの餌となり海に消えるところだったよ…」
「危なかったね」
ふぅと胸をなでおろしている藤森を見て、穏やかに微笑んでいる精市。
お前は意外と演技派なんだな。
俺は口元が緩むのを手で隠して耐えていたというのに。
「精市、そろそろ電車が来るぞ。今のうちに訂正しておかないと、藤森は本当に脱ぎそうだ」
「ああたしかに。それは困るな」
「何?どういうこと?」
「ごめんね藤森さん、嘘だよ。電車で靴なんか脱がないよ」
「そうなの!?え、なんでそんな嘘を?」
「君の反応がおもしろくてつい」
「うわー!2人ともいかにも穏健派みたいな顔して、意外と意地悪なんだ…」
恨めしそうな顔をしていた藤森だったが、電車に乗ると物珍しさですぐに機嫌は直っていた。
席が1つ空いていたので座らせたが、次の駅で乗ってきた老人に譲っていた。
マナーについては特に説明する必要は無さそうだ。
藤森はつり革に掴まって楽しそうに外の風景を見ながら数駅乗り、先に降りた。
「一緒に乗ってくれてありがとう。またね!」
「気をつけてね」
「改札までに切符を用意しておくんだぞ」
「わかったー!」
ドアが閉まると、藤森はホームで大きく手を振って見送っていた。
俺たちも小さくだが振り返した。
電車が発車し藤森が遠くなって見えなくなると、精市が口を開いた。
「俺、女の子に意地悪だなんて言われたの、初めてだなぁ」
「ショックだったのか?」
「いや、なんか新鮮だなって」
「そうだな。女子をからかうなんて、つい柄にも無いことをしてしまった」
「ふふっ、ほんとおもしろい子だよね」
藤森美春、会ってみたらますます興味が湧いた。
この日から、テニスには関係のないデータがノートに増えていくことになるのだった。
〜はじめての電車〜
『もしもし跡部?』
『今時間あるか』
『あ、ごめん。今友達の家から帰るところだから、後でかけ直すね!』
『そうか。遠いなら迎えの車を出すぜ?』
『ううん、電車に乗るから大丈夫だよ』
『1人でか!?本当に大丈夫なのかよ…』
『うん、もう1人で乗れる!』
『そ、そうか…まぁ俺様も乗ろうと思えば乗れるがな』
『跡部は乗ったことないんだ』
『機会がないだけだ!』
午前の部活を終え、精市と帰路についていた時のことだ。
駅に着くと切符売り場でうろたえている少女が目に入り、それが藤森美春だと気づいて2人で顔を見合わせた。
元お嬢様で氷帝の跡部の婚約者だったという、噂の転校生。
実に興味深い人物だ。
「藤森さん、だよね?」
「え?あ、テニス部の…」
「部長の幸村だよ」
「柳蓮二だ」
「幸村くんと、柳くん。丸井くんたちと一緒にいるの見かけたことあるよ。こんにちは〜」
「ふふ、こんにちは。困ってたみたいだけど、どうかしたのかい」
「はっ!そうだった!切符を買おうとしてたんだけどね、行き先じゃなくて料金だけ表示されてるから、どれ買えばいいかわからなくて…」
「あそこに路線図があるだろう。目的地を探して、下に書いてある料金の切符を買えばいい」
「ほんとだ、気づかなかった。えっと…あった!」
藤森は初めて電車に乗るらしい。
期待を裏切らないといったところか。
行き先が同じ方向なので、途中まで同行することになった。
「2人は部活帰り?」
「ああ」
「藤森さんはおでかけ?」
「うん、友達のお家に遊びに…ヒイッ!?!?」
悲鳴が聞こえて振り返ると、藤森が改札のゲートに阻まれていた。
目を見開いて固まっている。
何故か切符を手に持ったままだ。
「藤森、切符を入れないと通れないぞ」
「え!?…本当だ」
「ぷっ、あはは!」
「わ、笑わないでー!」
「だってさっきの顔…!」
「幽霊でも見たかのような悲鳴だったな」
「柳くんまで…!ちゃんと2人の真似して通ろうとしたのになぁ」
「俺たちは切符ではなく定期券だからな。カードをかざして通るんだ」
「最初に聞いておけばよかったー!」
後になって恥ずかしくなってきたのか、藤森は赤い顔で頭を抱えた。
そして「それにしても改札ってあんなに勢いよく閉まるんだね…絶対に通さないという強い信念を感じたよ…」と何故か改札に感心していた。
なるほど、おもしろい着眼点を持つ女だな、と俺も変なところで感心してしまった。
「あれが彼ら(改札)の仕事だからな。だが個性もあるので、勤務態度が怠惰なものもあるそうだぞ」
「そうなんだ…十人十色だね」
「冗談だがな」
「え!?澄ました顔で冗談言うのやめて!」
どうやら何でも真に受けてしまう性格らしい。
いつか詐欺などに合わないか心配だ。
反応が良いのでからかいたくなるタイプだが、やりすぎは良くないな。
そう思ったところで、精市が妙にいい笑顔、というか悪い顔をしていることに気づいた。
からかう気満々な確率97%だ。
「藤森さん知ってた?電車の中は土足厳禁なんだよ」
「そうなの!?どうしよ、袋とか持ってこなかったなぁ…中に靴箱ある?」
「あるよ」
「よかったぁ」
「ねぇ、もし土足で電車内に足を踏み入れてしまったら…どうなると思う?」
「え…罰金、とか?」
「ううん。駅員達に取り押さえられてね…湘南の海に投げ込まれるらしいよ」
「えっ…!?こっ怖!!そうなんだ…」
「うん、だから気をつけてね」
「先に教えておいてくれてありがとう。危うくサメの餌となり海に消えるところだったよ…」
「危なかったね」
ふぅと胸をなでおろしている藤森を見て、穏やかに微笑んでいる精市。
お前は意外と演技派なんだな。
俺は口元が緩むのを手で隠して耐えていたというのに。
「精市、そろそろ電車が来るぞ。今のうちに訂正しておかないと、藤森は本当に脱ぎそうだ」
「ああたしかに。それは困るな」
「何?どういうこと?」
「ごめんね藤森さん、嘘だよ。電車で靴なんか脱がないよ」
「そうなの!?え、なんでそんな嘘を?」
「君の反応がおもしろくてつい」
「うわー!2人ともいかにも穏健派みたいな顔して、意外と意地悪なんだ…」
恨めしそうな顔をしていた藤森だったが、電車に乗ると物珍しさですぐに機嫌は直っていた。
席が1つ空いていたので座らせたが、次の駅で乗ってきた老人に譲っていた。
マナーについては特に説明する必要は無さそうだ。
藤森はつり革に掴まって楽しそうに外の風景を見ながら数駅乗り、先に降りた。
「一緒に乗ってくれてありがとう。またね!」
「気をつけてね」
「改札までに切符を用意しておくんだぞ」
「わかったー!」
ドアが閉まると、藤森はホームで大きく手を振って見送っていた。
俺たちも小さくだが振り返した。
電車が発車し藤森が遠くなって見えなくなると、精市が口を開いた。
「俺、女の子に意地悪だなんて言われたの、初めてだなぁ」
「ショックだったのか?」
「いや、なんか新鮮だなって」
「そうだな。女子をからかうなんて、つい柄にも無いことをしてしまった」
「ふふっ、ほんとおもしろい子だよね」
藤森美春、会ってみたらますます興味が湧いた。
この日から、テニスには関係のないデータがノートに増えていくことになるのだった。
〜はじめての電車〜
『もしもし跡部?』
『今時間あるか』
『あ、ごめん。今友達の家から帰るところだから、後でかけ直すね!』
『そうか。遠いなら迎えの車を出すぜ?』
『ううん、電車に乗るから大丈夫だよ』
『1人でか!?本当に大丈夫なのかよ…』
『うん、もう1人で乗れる!』
『そ、そうか…まぁ俺様も乗ろうと思えば乗れるがな』
『跡部は乗ったことないんだ』
『機会がないだけだ!』