重ね傷
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音信不通の私を親や友人が心配しているのではと思ったけど、蓮二が代わりに返信をしていたようで、その心配はなかった。
少しホッとした。
あんなことがあったなんて、絶対に誰にも知られたくない。
特に、貞治には。
ずいぶん 長い間閉じ込められていた気がするのに、実際には半月ほどで、まだまだ夏休みは続いている。
友人たちから遊びの誘いも来るが、とてもそんな気にはなれなず、体調が悪いからと断った。
蓮二からのメッセージと着信記録は見ないままにしている。
あの部屋の外では、なんでもない日常が過ぎていただけだった。
あれは夢だったんじゃないかと思えるくらいに。
だけど痛む傷が私を現実に引き戻す。
蓮二の声や感触がフラッシュバックする。
「美春」
さすがに買い物くらい行かないと。
重い腰を上げ外に出て、鍵をかけていたときだ。
今は誰よりも会いたくない人の声。
「あ…貞治」
「久しぶり。体調がよくないと言っていたから見舞いに来たんだ。買い物か?」
「うん、家に何もなくて」
「そんなことだろうと思って、色々持ってきたよ」
「わざわざごめんね。ありがとう」
化粧もせず、着ているのは部屋着のようなワンピース。
部屋もちゃんと片付けていないから躊躇ったが、せっかく来てもらったので上がってもらった。
「今お茶出すね」
「気を使わなくていいよ」
「でも…あっ!」
ふらついた私を貞治が抱きとめてくれた。
「ごめん」とすぐに離れようとしたが、また引き寄せられた。
心臓が激しく鳴っている。
「ずいぶん痩せたね」
「ちょっと食欲なくて。たぶんただの夏バテ」
「本当に?一度診てもらった方がいいんじゃないか」
「大丈夫だから」
貞治の肩を両手で押して、今度こそ体が離れた。
本当のことなんて言えない。
何も知られたくない。
貞治の眉が少し下がり、胸がちくりと痛んだ。
ごめんね、と心の中でつぶやく。
「治るまで見舞いに来続ける。必要なものがあれば買ってくるから、連絡してくれ」
「そんな、悪いよ」
「近所だしね、ついでだよ。嫌だったら早く元気になってくれ」
「嫌だなんて。貞治、ありがとうね。助かるよ」
「どういたしまして。じゃあ、お大事に」
ぽんと優しく肩を叩いて、貞治は帰って行った。