重ね傷
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「すまない」
目を覚ますと、蓮二は私から少し離れたところに立ったまま何度も謝った。
腿にはきれいに包帯が巻かれていた。
蓮二が手当てをしたんだろう。
「別に。これは私がやったんだし」
「いや、それも俺が原因だ。今までのことも全て…本当にすまない」
伏し目がちに震えた声で謝り続ける蓮二は、背が高いはずなのに、今はずいぶん小さく見える。
急にどうしたというのだろう。
私は妙に冷めた気持ちで、態度が一変した彼を見ていた。
気を失う前の感情の昂りは、嘘のように静まっていた。
「俺は、どんなことをしてでも美春を手に入れたかった。手段を選ばなければ可能だと思った。だが今更になって気づいた…手に入らないどころか、傷つけて壊しただけだったと」
「……」
「取り返しのつかないことをしてしまった。本当にすまなかった」
「謝られたって、許せないよ」
「ああ…そうだな。謝ったところで、償えることではないな」
「…帰る。とりあえず服と荷物返して」
渡された物をひったくるように取ると、早々に着替えて玄関に向かった。
後ろから蓮二がおずおずとついてくるのがわかったが、見向きもせずドアを開けた。
「待ってくれ、美春」
「触らないで!」
肩に触れた手を反射的に振り払った。
蓮二は行き場を失った手を、握りしめて下ろした。
「…すまない。足の怪我だが、病院で」
「診てもらえるわけないでしょ。なんて説明すればいいかわからないし」
「ならせめて、俺にまた手当てをさせて欲しい。他にもできることがあればなんでもする。なんでも言ってくれ」
「ずいぶん必死だね。そんなことしても、私許さないのに」
「許されるとは思っていない。美春…すまなかった」
もう聞き飽きた言葉を繰り返す蓮二を睨みつけ、私は出て行った。
追われているわけでもないのに、とにかく走った。
息を切らして家に着くと、そのままベッドに倒れ込んだ。
眠りたくて目を閉じるが、しんと静まり返った空間に不安になってくる。
「蓮二…」
落ち着け、ここは自分の家なんだから。
蓮二なんていなくても大丈夫。
そう自分に言い聞かせても、涙が止まらない。
私はテレビや音楽などとにかく音の鳴るものをつけまくり、無理やり目を閉じていた。