重ね傷
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玄関のチャイムが鳴った。
蓮二が戻ってきたのだろうか。
ドアを開けると、そこにいたのは貞治だった。
「突然すまない。先程近くで蓮二に会ったんだが…話しかけようとしたら走って行ってしまったんだ。もしかしたら美春と何かあったのかと思って」
「いや…何もないよ」
「少し話せるかな」
「あ、うん。あがって」
ソファに並んで座った。
貞治は少し躊躇いがちに私に問いかけた。
「美春は蓮二と付き合っていると言ったが…俺にはどうも嘘に思えてならない」
「…どうして」
「蓮二がきみに好意を持っているのは知っていた。だがきみは…いや、なんでもない」
「え?」
「蓮二は美春の話をすると何故か後ろめたそうだし、きみは何かに怯えているようだった。やはり様子がおかしい」
「それは…」
「2人とも教えてはくれないが、どんなことがあったのか予想はついているんだ」
突然肩を押されて倒された。
両手は抑えつけられ、覆いかぶされる。
上手く息ができない。
どうしてまたこうなってしまうんだろう。
自分の学習能力の無さに嫌気がさす。
「は、離して」
「こうやって無理やり酷いことをされたんだろう?それなのに何故付き合っているだなんて…蓮二に脅されたのか?」
「違うよ。脅されてなんて、」
「じゃあ何故なんだ。蓮二のことが、好きなのか」
「……わからないっ…!」
もう嘘はつけないと思った。
でも自分でも自分の気持ちがわからない。
私は蓮二のことが好きなのか。
ずっと貞治が好きだったはずなのに。
私はどうしてしまったんだろう。
「ははっ…まさかこんな方法できみを奪われるなんて、思ってもみなかったよ」
貞治が虚ろに笑った。
私は言葉を失い、動く事ができなかった。
「だったら俺も同じようにして取り返す他ないな」
貞治は笑っているのに、頰には涙が伝っている。
ああそうか。
私と蓮二が壊してしまったのは、自分たちだけじゃなかったのだと今気づいた。
「美春…」
貞治の手が腿の傷に触れた。
今は塞がっているはずなのに、チリチリと熱く痛む。
この傷跡は、きっと消えることなどないのだろう。
何度も血を流して、その度にまた深くなっていくのだ。
私たちの、過ちの数だけ繰り返して。
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