第一章 蒼と青の世界
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
深夜、微かな物音で目を覚ました。
重い瞼を抉じ開け、ゆっくりと身体を起こす。
音の正体だと思っていた人物は、大きめのソファに横たわり、珍しく深い眠りについていた。
「ローじゃないなら…一体…」
部屋の外は雪が降っていて、幾ら何も感じない身体でも、寝間着のままでは凍ってしまいそうなので、一度服を着替えてから静かに扉を開いた。
「はァ…」
吐く息が白く染まる。
足音を立てないよう船内を見廻っていると、甲板の端に見知った人影を捉えた。
「眠れないの…?」
驚かせないように声をかけ、冷え切った身体に上着を掛けてあげる。
「ありがとう…でもアイリス…あんたは寒くないの?」
心配されるのは苦手。
身体の異常を伝えておくべきか迷ったけれど、隠し事も嫌いなので全て話す事にした。
「うん…大丈夫…私の身体…感覚を失くしちゃったみたいで…」
驚いた顔で、こちらを見詰める少女に微笑み掛ける。
「でもね…痛いとか、痒いとかも感じないから辛い事ばっかりじゃないんだよっふふ」
「ばか…笑ってる場合じゃないでしょう」
柔らかくて良い匂い。
そう思った時にはもう、私は彼女の暖かい腕の中に包まれていた。
「あんたの声が…聞こえたから…私は…戻って来れたんだ…」
「……私の声?」
少し背の高い少女を見上げ、問い掛ける。
「ずっと…夢を見てたんだ…アイツらに、家族が殺された時の夢…」
その身体は、僅かに震えていた。
「何度も、何度も同じシーンを繰り返すんだよ…」
傷付いた表情に、胸が締め付けられる。
「私は一度も戦おうとしなくて…それどころか、家族と一緒に死のうと、必死で自分を傷付けてた…」
私は彼女の身体に腕を回し、ギュっと力を込めた。
「アイリス痛いよ…大丈夫、今はあんた達がいるから…大丈夫だよ」
「当たり前だよ…自害なんて…絶対にさせないし…許さない」
小さい子供のように、しがみついて離さないでいると、少女は優しく頭を撫でてくれた。
「死ぬ度にまた同じ場所…また同じシーン…何度も繰り返すうちに、私の心は壊れていった…」
暗闇に、堕ちていく。
何時間、何日、何年、もう何回…同じ瞬間を繰り返しているのかわからなかった。
自分の喉を突き刺す度に、私を庇って死んでいく両親が視界に映る。
どうやって抜け出すのか、何故私は死ねないのかも理解出来ずにただ感情を失っていった。
そんな時、微かな声が聞こえんだ。
優しくて暖かい声。
その声が聞きたくて、私は初めて死ぬのを止めた。
(頑張って…大丈夫だから…)
誰…? どこにいるの…?
(戻ってきて…もう二度と、あなたを一人にしたりしないから)
一人は嫌…一人で生きるくらいなら…みんなと、家族と一緒に死んだほうがマシ。
その声は、私が自らを殺めようとする度に聞こえてきて、"大丈夫" って…光の中に導いてくれるんだ。
壊れていた心は、徐々に平常を取り戻した。
私は初めて武器を手に取り、庇ってくれていた両親を撥ね退けて、敵を倒したんだ。
光はどんどん強くなって、二度と同じ瞬間に戻る事はなかった。
目の前の両親は何も言わなかったけれど、優しい顔で微笑んで、天国に昇っていった。
「気がついたらあの小屋で寝ていて、あんたが現れたんだよ…アイリス」
毎日ーーー
呼び掛けてよかった。
毎晩ーーー
諦めずに声をかけ続けてよかった。
「………」
どうして泣いているのかわからない。
ただ、悲しくて嬉しくて涙が止まらなかった。
「なんで…あんたが泣くんだよ…」
彼女の腕から離れ、服の袖で涙を拭う。
「生きててくれて…ありがとう! ふふっ」
笑顔を浮かべ、今度はそっと抱き締める。
「こちらこそ…居場所をくれてありがとう」
暖かい朝の光が二人を包んだ。
「だからアイリス…あんたに…身体壊されたら私が辛いから…早く治してよ…協力…するからさ」
照れ臭そうに顔を背ける少女。
「うん…ありがとう…」
そろそろ部屋に戻ろうと、互いに背を向けた瞬間。
「もう一つだけいいかな? …"さん" 要らないから…みんなと同じように呼び捨てで呼んでくれない?」
普段はクールな女の子。
それなのに、本当はなんて可愛い人なんだろう。
「もちろん!おやすみ…イルカ!」
「アハハ…もう朝だけどね…おやすみアイリス」
周囲は既に明るくなり始めている。
漸くベッドに戻った私は、すぐに深い眠りについた。
彼女が見る夢が、これから先は幸せで溢れていますように。
そんな事を、願いながら。
重い瞼を抉じ開け、ゆっくりと身体を起こす。
音の正体だと思っていた人物は、大きめのソファに横たわり、珍しく深い眠りについていた。
「ローじゃないなら…一体…」
部屋の外は雪が降っていて、幾ら何も感じない身体でも、寝間着のままでは凍ってしまいそうなので、一度服を着替えてから静かに扉を開いた。
「はァ…」
吐く息が白く染まる。
足音を立てないよう船内を見廻っていると、甲板の端に見知った人影を捉えた。
「眠れないの…?」
驚かせないように声をかけ、冷え切った身体に上着を掛けてあげる。
「ありがとう…でもアイリス…あんたは寒くないの?」
心配されるのは苦手。
身体の異常を伝えておくべきか迷ったけれど、隠し事も嫌いなので全て話す事にした。
「うん…大丈夫…私の身体…感覚を失くしちゃったみたいで…」
驚いた顔で、こちらを見詰める少女に微笑み掛ける。
「でもね…痛いとか、痒いとかも感じないから辛い事ばっかりじゃないんだよっふふ」
「ばか…笑ってる場合じゃないでしょう」
柔らかくて良い匂い。
そう思った時にはもう、私は彼女の暖かい腕の中に包まれていた。
「あんたの声が…聞こえたから…私は…戻って来れたんだ…」
「……私の声?」
少し背の高い少女を見上げ、問い掛ける。
「ずっと…夢を見てたんだ…アイツらに、家族が殺された時の夢…」
その身体は、僅かに震えていた。
「何度も、何度も同じシーンを繰り返すんだよ…」
傷付いた表情に、胸が締め付けられる。
「私は一度も戦おうとしなくて…それどころか、家族と一緒に死のうと、必死で自分を傷付けてた…」
私は彼女の身体に腕を回し、ギュっと力を込めた。
「アイリス痛いよ…大丈夫、今はあんた達がいるから…大丈夫だよ」
「当たり前だよ…自害なんて…絶対にさせないし…許さない」
小さい子供のように、しがみついて離さないでいると、少女は優しく頭を撫でてくれた。
「死ぬ度にまた同じ場所…また同じシーン…何度も繰り返すうちに、私の心は壊れていった…」
暗闇に、堕ちていく。
何時間、何日、何年、もう何回…同じ瞬間を繰り返しているのかわからなかった。
自分の喉を突き刺す度に、私を庇って死んでいく両親が視界に映る。
どうやって抜け出すのか、何故私は死ねないのかも理解出来ずにただ感情を失っていった。
そんな時、微かな声が聞こえんだ。
優しくて暖かい声。
その声が聞きたくて、私は初めて死ぬのを止めた。
(頑張って…大丈夫だから…)
誰…? どこにいるの…?
(戻ってきて…もう二度と、あなたを一人にしたりしないから)
一人は嫌…一人で生きるくらいなら…みんなと、家族と一緒に死んだほうがマシ。
その声は、私が自らを殺めようとする度に聞こえてきて、"大丈夫" って…光の中に導いてくれるんだ。
壊れていた心は、徐々に平常を取り戻した。
私は初めて武器を手に取り、庇ってくれていた両親を撥ね退けて、敵を倒したんだ。
光はどんどん強くなって、二度と同じ瞬間に戻る事はなかった。
目の前の両親は何も言わなかったけれど、優しい顔で微笑んで、天国に昇っていった。
「気がついたらあの小屋で寝ていて、あんたが現れたんだよ…アイリス」
毎日ーーー
呼び掛けてよかった。
毎晩ーーー
諦めずに声をかけ続けてよかった。
「………」
どうして泣いているのかわからない。
ただ、悲しくて嬉しくて涙が止まらなかった。
「なんで…あんたが泣くんだよ…」
彼女の腕から離れ、服の袖で涙を拭う。
「生きててくれて…ありがとう! ふふっ」
笑顔を浮かべ、今度はそっと抱き締める。
「こちらこそ…居場所をくれてありがとう」
暖かい朝の光が二人を包んだ。
「だからアイリス…あんたに…身体壊されたら私が辛いから…早く治してよ…協力…するからさ」
照れ臭そうに顔を背ける少女。
「うん…ありがとう…」
そろそろ部屋に戻ろうと、互いに背を向けた瞬間。
「もう一つだけいいかな? …"さん" 要らないから…みんなと同じように呼び捨てで呼んでくれない?」
普段はクールな女の子。
それなのに、本当はなんて可愛い人なんだろう。
「もちろん!おやすみ…イルカ!」
「アハハ…もう朝だけどね…おやすみアイリス」
周囲は既に明るくなり始めている。
漸くベッドに戻った私は、すぐに深い眠りについた。
彼女が見る夢が、これから先は幸せで溢れていますように。
そんな事を、願いながら。