第一章 蒼と青の世界
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太陽を反射した白波が、心地良く船を揺らし、ゆったりとした時間が流れる。
甲板で鼻提灯を膨らますクマの隣に腰を下ろし、爽やかなレモンジュースで喉を潤した。
「ふぅ〜…冷たくて美味しい…」
島を出た私達は赤い大陸 を目指し、順調に航海を進めていた。
「お前…この寒い中、よくそんな冷たいもん飲めるな…」
呆れたように呟くのは、鍛錬を終えたクジラ。
「別に寒くないし…」
若干引いている様子の彼。
「アイリス、風邪引くぞ…ほら、これ掛けとけよ」
見兼ねたペンギンが、暖かそうな布を差し出してくれた。
「うん…ありがとう…」
優しい少年から毛布を受け取り、隣で眠るベポにも半分掛けてあげる。
心地良い温もりが、冷えた身体を優しく包む。
「寒ッ…お前…凄ェな…」
震えながら現れたのは、船のムードメーカーシャチ。
彼も大人しくなる程に、厳しい寒さが北の海全体を襲っていた。
冬島出身の男達でも、堪える寒波の到来。
皆が私を見て、不思議に思うのも仕方が無かった。
「アイリス…ちょっと来い」
不意に名を呼ばれ、声の聞こえた先に視線を向けると、不機嫌そうな少年がこちらを睨み付けている。
彼もまた、分厚い防寒着を身に纏い寒そうに身体を震わせていた。
「さ…さあ! 寒いし、そろそろ中に入ろうぜ!」
彼の纏う空気が普段と違う事を察した男達は、慌てて船内へ避難し始める。
「アイリス…ドンマイ…」
同情したような表情を浮かべ、私の肩を数回叩いたシャチ。
そう言い残すと、急ぎ足で食堂の方へ消えていった。
「ほら、早く行かないと」
船内に続く扉を開きながら、苦笑いを浮かべたイルカが少年を指差す。
「早く来い、アイリス」
不機嫌に命令を下し、ローは自室の方へ歩き始めた。
「なんなの…もう…」
溜め息を吐いた私は、仕方なく彼の後を追い歩を進めた。
パタンーーーーー。
扉が閉まり、重い沈黙が私達二人を包む。
スナメリ島を出てからというもの、新しい仲間と共に平穏な航海が続いている。
まだ次の島も見えていないし、怒られるような事をした覚えもない。
理不尽な男を真っ直ぐ見据え、文句を言ってやろうと口を動かした瞬間。
「アイリス…動くな…」
彼の掌が優しく頬を包んだ。
「……………」
頬や唇を撫でるように触診する船長。
極度の緊張からか、身体が固く硬直する。
徐々に紅く染まっていく頬と、激しく胸を打つ鼓動。
彼に気付かれないように、私は必死で平静を装った。
「お前…何も感じないのか」
突然の行動と、その問いかけに軽く怒りが湧き上がる。
複雑に交差する感情を必死で抑え、震える声を絞り出した。
「何もって…どういう意味…?」
ローは目を丸くする。
「まさか…わからないのか?」
首を傾げ、頬に添えられた掌に視線を移す。
彼の手には、溶けて小さくなった氷が握られていた。
「あ…」
漸く、状況を理解した私。
島を出てから、私の身体は正常な感覚を失っている様で、温度や痛み等、身体の外部からの刺激に限り、何も感じなくなっていた。
「どういう事だ…」
難しい顔で何冊もの医学書を取り出し、頁を捲る船長。
必死で病名を調べる彼の姿に、機嫌が悪かった訳ではないんだと気付いた。
「あの…ロー…聞いて…」
本を捲る手に、そっと掌を重ね抑止する。
「違うんだよ…ロー…わたし…病気じゃないの…」
首を横に振り、病では無いことを告げた。
「病気じゃないなら…何なんだ…」
族長から受け継いだ古書を取り出し、彼に手渡す。
「これを読んで…」
幼い頃、お祖父様が読み聞かせてくれた物語。
「……わかった…」
それは遠い昔から、一族の命運を背負った天使達が代々受継いできた遺産。
スノードロップの花紋章に纏わる由縁が記された書物。
天使族の、全ての始まりの物語。
甲板で鼻提灯を膨らますクマの隣に腰を下ろし、爽やかなレモンジュースで喉を潤した。
「ふぅ〜…冷たくて美味しい…」
島を出た私達は
「お前…この寒い中、よくそんな冷たいもん飲めるな…」
呆れたように呟くのは、鍛錬を終えたクジラ。
「別に寒くないし…」
若干引いている様子の彼。
「アイリス、風邪引くぞ…ほら、これ掛けとけよ」
見兼ねたペンギンが、暖かそうな布を差し出してくれた。
「うん…ありがとう…」
優しい少年から毛布を受け取り、隣で眠るベポにも半分掛けてあげる。
心地良い温もりが、冷えた身体を優しく包む。
「寒ッ…お前…凄ェな…」
震えながら現れたのは、船のムードメーカーシャチ。
彼も大人しくなる程に、厳しい寒さが北の海全体を襲っていた。
冬島出身の男達でも、堪える寒波の到来。
皆が私を見て、不思議に思うのも仕方が無かった。
「アイリス…ちょっと来い」
不意に名を呼ばれ、声の聞こえた先に視線を向けると、不機嫌そうな少年がこちらを睨み付けている。
彼もまた、分厚い防寒着を身に纏い寒そうに身体を震わせていた。
「さ…さあ! 寒いし、そろそろ中に入ろうぜ!」
彼の纏う空気が普段と違う事を察した男達は、慌てて船内へ避難し始める。
「アイリス…ドンマイ…」
同情したような表情を浮かべ、私の肩を数回叩いたシャチ。
そう言い残すと、急ぎ足で食堂の方へ消えていった。
「ほら、早く行かないと」
船内に続く扉を開きながら、苦笑いを浮かべたイルカが少年を指差す。
「早く来い、アイリス」
不機嫌に命令を下し、ローは自室の方へ歩き始めた。
「なんなの…もう…」
溜め息を吐いた私は、仕方なく彼の後を追い歩を進めた。
パタンーーーーー。
扉が閉まり、重い沈黙が私達二人を包む。
スナメリ島を出てからというもの、新しい仲間と共に平穏な航海が続いている。
まだ次の島も見えていないし、怒られるような事をした覚えもない。
理不尽な男を真っ直ぐ見据え、文句を言ってやろうと口を動かした瞬間。
「アイリス…動くな…」
彼の掌が優しく頬を包んだ。
「……………」
頬や唇を撫でるように触診する船長。
極度の緊張からか、身体が固く硬直する。
徐々に紅く染まっていく頬と、激しく胸を打つ鼓動。
彼に気付かれないように、私は必死で平静を装った。
「お前…何も感じないのか」
突然の行動と、その問いかけに軽く怒りが湧き上がる。
複雑に交差する感情を必死で抑え、震える声を絞り出した。
「何もって…どういう意味…?」
ローは目を丸くする。
「まさか…わからないのか?」
首を傾げ、頬に添えられた掌に視線を移す。
彼の手には、溶けて小さくなった氷が握られていた。
「あ…」
漸く、状況を理解した私。
島を出てから、私の身体は正常な感覚を失っている様で、温度や痛み等、身体の外部からの刺激に限り、何も感じなくなっていた。
「どういう事だ…」
難しい顔で何冊もの医学書を取り出し、頁を捲る船長。
必死で病名を調べる彼の姿に、機嫌が悪かった訳ではないんだと気付いた。
「あの…ロー…聞いて…」
本を捲る手に、そっと掌を重ね抑止する。
「違うんだよ…ロー…わたし…病気じゃないの…」
首を横に振り、病では無いことを告げた。
「病気じゃないなら…何なんだ…」
族長から受け継いだ古書を取り出し、彼に手渡す。
「これを読んで…」
幼い頃、お祖父様が読み聞かせてくれた物語。
「……わかった…」
それは遠い昔から、一族の命運を背負った天使達が代々受継いできた遺産。
スノードロップの花紋章に纏わる由縁が記された書物。
天使族の、全ての始まりの物語。