第一章 蒼と青の世界
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港に到着した私は、船体の物陰に身を潜めた。
「家族三人とも提供するんですよ…報酬は弾んで貰わないと困りますねぇ…」
最悪の光景が目に映る。
先程の海軍兵が、誘拐犯達と親しげに話し込んでいるのだ。
それどころか、保護したはずの家族を彼等に引き渡している。
「そう言われても、父親はゴミだぜ…母親とガキはソコソコの値がつくだろうがなァ…」
頬に出来た真新しい傷を擦りながら、嫌な笑みを浮かべる男。
「あなた方が…ここで好き勝手やれるのは、誰のお陰ですかねェ…なんなら、今この場で捕まえてもいいんですよ」
私は耳を疑った。
まさか、街の人が絶対の信頼を置いている海軍が、手を引いているなんて。
「腐ってる…」
怒りを堪え、震える身体を必死に抑える。
「わかった…30万でどうだ」
「それでは…50万ベリーで手を打ちましょう」
「くそっ! 海軍兵の方が質悪いなんて知ったら、この街の人間も驚くだろうな!」
取引が終わり、金を手にした海軍兵が立ち去ったのを確認した私は、素早く彼らの船に潜り混んだ。
地下へ降りる階段を見つけ、辺りの気配を探る。
「アイリス…こっちだ」
「!!!」
不意に名を呼ばれ、驚いた私は階段から転げ落ちそうになる。
「危ねェっ…!」
腕を掴まれた拍子に、相手の顔を視界に捉えた私は、安堵した。
「クジラ…なんであなたが…」
ほっと胸を撫で下ろし、息を吐く少年。
「大体の予想はつくだろうが…こんな場所に一人で行かせられるかよ」
優しくて、正義感の強い人。
彼にはもう、二度救われた。
「ありがとう…心強いよ」
人が居ない事を確認して、地下に潜り込み、拐われた人が閉じ込められている牢を発見した私達。
見つからないよう、慎重に身を潜めた。
駐屯所で保護されたはずの家族と、幼い子供、若い男女が数人囚われている。
「どこまで行くんだろう…ロー、怒るだろうな…」
激昂する船長の顔が容易に想像出来て、頭を抱える。
「ロー…って、お前の家族か?」
首を傾げるクジラに、正直に正体を明かすことにした。
「船長だよ…私…海賊なの」
衝撃の事実に飛び退く少年。
「か…海賊? お前が…? 冗談だろ…」
「本当だよ…海賊なの…黙っててゴメンなさい…」
クジラは俯き、何かを考えている様子。
「驚いた…?」
気まずそうに、頭を掻く少年。
「いや、どおりで肝が座ってるはずだ…そりゃ少しは驚いたけど…」
次の瞬間。
ドォォンーーー。
岩にぶつけたような大きな音と、揺れが起こり、どこかの島に到着した様子で、船内が慌ただしくなり始めた。
船を降り、船着き場から少し歩いたところにある、森の茂みに身を隠した私達。
「こっちに来た…」
男達は "商品" を引き連れ、森の奥に向かって歩いて行く。
静かな場所に似つかわしく無い、派手な建物が姿を現した。
「これが…闇市」
施設の側で、中の様子を探る。
オークション会場に辿り着いた客達は、躊躇いもせず次々と建物の中に入って行った。
入り口で案内をしているのは、胡散臭い笑顔の黒いスーツの男。
建物から出てきた一人の子供に気付いた彼は、その少年に深々と頭を下げた。
「あれは…まさか…!」
男達に淡々と指示を出すその姿は、紛れもなく幼馴染のカイル。
「なんで…なんでカイルが…」
動揺する私を落ち着かせるため、そっと手を握ってくれるクジラ。
「あいつを探してたのか…でも今は焦るな…後でゆっくり話を聞いてみるといい…」
余裕すらみせるその姿に、彼の強さが伺える。
「一人ずつ潰そう…俺が先に行くから、お前はタイミングを合わせて中に侵入しろ」
クジラの言葉に深く頷いた私は、言われた通り身を伏せ姿を隠す。
見張りが一人になったのを確認して、飛び出した少年は手に持っていたナイフで素早く男を床に伏せた。
「今だ…!カイル…待ってて!」
私は一瞬の隙を見て、建物の中に侵入した。
重く大きな扉の前で立ち止まり、聞き耳を立てる。
まさに、オークションの始まりの挨拶が成されている最中だった。
「捕まってる人を助けないと…」
施設内をウロウロしていると、見張りの厚い鉄格子の先に、地下に降りる階段を見つけた。
「あそこだ…でも、どうすれば…」
見張りの男が数人。
全員身体も大きく、力では到底敵いそうにもない。
「アイリス…!」
暫く悩んでいると、クジラが追いかけて来てくれた。
「知り合いには会えたのか?」
彼の問に、首を横に降る。
「ううん…先にみんなを開放しないと…オークションが始まってるの」
頷いた彼が、見張りの様子を探る。
「俺が引き付ける…お前は…」
敵陣の真っ只中に居ながら、私は油断していた。
言葉を途中で遮られ、ナイフを首元に当てられたクジラ。
「やめて…彼を離して…」
優しかった幼馴染。
目の前に現れた彼は、私の知らない顔で微笑んだ。
「久しぶり…アイリス、会いたかったよ」
カイルが指を鳴らすと、スーツ姿の男達が私を捉え、腕に手錠が嵌められる。
「くそっ!アイリス!」
床に押し付けられ、苦しそうな顔で私の名を呼ぶクジラ。
「大丈夫…すぐに助けるから…少しだけ我慢してて」
笑みを浮かべる幼馴染の顔を睨みつけ、手錠を外そうと試みた。
「暴れるな…アイリス…お前を傷付けたくないんだ…」
カイルは私の顎をなぞり、髪を掬うと、毛先にそっと口付けた。
「昔から、ずっと好きだったんだよアイリス…大人しく俺に従うなら悪いようにはしない」
禁断の実を持ち出し、お祖父様を殺め、小さな子供や平和に暮らす人を拐って売り捌く。
そして今、大切な友達にナイフを突き立てている。
変わり果てた彼の姿に、言いようのない怒りが込み上げてきて、目に涙が浮かぶ。
「泣くほど嬉しい? アイリス…」
差し出された掌に、血が滲む程の力で噛み付いた私。
「ふざけないで…!カイル になんて従わない!」
叫ぶ私の瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。
「痛いなァ…あまり俺を怒らせるなよ…」
静かな怒りを滲ませ、冷たい瞳をこちらに向けるカイル。
「あなたは…もう…私の知ってるカイルじゃない…天使族でもない…! 悪魔みたいな人…許さない…」
震える唇から、言いようのない感情が溢れだす。
「好きに言えばいい…どのみち、お前は俺に捕まったんだ…手に入れたお前をどうするかは俺が決めることさ」
勝手な言葉を並べ、身を翻す男。
彼の合図と共に、クジラは牢に連れて行かれ、私は小さな部屋に閉じ込められた。
「家族三人とも提供するんですよ…報酬は弾んで貰わないと困りますねぇ…」
最悪の光景が目に映る。
先程の海軍兵が、誘拐犯達と親しげに話し込んでいるのだ。
それどころか、保護したはずの家族を彼等に引き渡している。
「そう言われても、父親はゴミだぜ…母親とガキはソコソコの値がつくだろうがなァ…」
頬に出来た真新しい傷を擦りながら、嫌な笑みを浮かべる男。
「あなた方が…ここで好き勝手やれるのは、誰のお陰ですかねェ…なんなら、今この場で捕まえてもいいんですよ」
私は耳を疑った。
まさか、街の人が絶対の信頼を置いている海軍が、手を引いているなんて。
「腐ってる…」
怒りを堪え、震える身体を必死に抑える。
「わかった…30万でどうだ」
「それでは…50万ベリーで手を打ちましょう」
「くそっ! 海軍兵の方が質悪いなんて知ったら、この街の人間も驚くだろうな!」
取引が終わり、金を手にした海軍兵が立ち去ったのを確認した私は、素早く彼らの船に潜り混んだ。
地下へ降りる階段を見つけ、辺りの気配を探る。
「アイリス…こっちだ」
「!!!」
不意に名を呼ばれ、驚いた私は階段から転げ落ちそうになる。
「危ねェっ…!」
腕を掴まれた拍子に、相手の顔を視界に捉えた私は、安堵した。
「クジラ…なんであなたが…」
ほっと胸を撫で下ろし、息を吐く少年。
「大体の予想はつくだろうが…こんな場所に一人で行かせられるかよ」
優しくて、正義感の強い人。
彼にはもう、二度救われた。
「ありがとう…心強いよ」
人が居ない事を確認して、地下に潜り込み、拐われた人が閉じ込められている牢を発見した私達。
見つからないよう、慎重に身を潜めた。
駐屯所で保護されたはずの家族と、幼い子供、若い男女が数人囚われている。
「どこまで行くんだろう…ロー、怒るだろうな…」
激昂する船長の顔が容易に想像出来て、頭を抱える。
「ロー…って、お前の家族か?」
首を傾げるクジラに、正直に正体を明かすことにした。
「船長だよ…私…海賊なの」
衝撃の事実に飛び退く少年。
「か…海賊? お前が…? 冗談だろ…」
「本当だよ…海賊なの…黙っててゴメンなさい…」
クジラは俯き、何かを考えている様子。
「驚いた…?」
気まずそうに、頭を掻く少年。
「いや、どおりで肝が座ってるはずだ…そりゃ少しは驚いたけど…」
次の瞬間。
ドォォンーーー。
岩にぶつけたような大きな音と、揺れが起こり、どこかの島に到着した様子で、船内が慌ただしくなり始めた。
船を降り、船着き場から少し歩いたところにある、森の茂みに身を隠した私達。
「こっちに来た…」
男達は "商品" を引き連れ、森の奥に向かって歩いて行く。
静かな場所に似つかわしく無い、派手な建物が姿を現した。
「これが…闇市」
施設の側で、中の様子を探る。
オークション会場に辿り着いた客達は、躊躇いもせず次々と建物の中に入って行った。
入り口で案内をしているのは、胡散臭い笑顔の黒いスーツの男。
建物から出てきた一人の子供に気付いた彼は、その少年に深々と頭を下げた。
「あれは…まさか…!」
男達に淡々と指示を出すその姿は、紛れもなく幼馴染のカイル。
「なんで…なんでカイルが…」
動揺する私を落ち着かせるため、そっと手を握ってくれるクジラ。
「あいつを探してたのか…でも今は焦るな…後でゆっくり話を聞いてみるといい…」
余裕すらみせるその姿に、彼の強さが伺える。
「一人ずつ潰そう…俺が先に行くから、お前はタイミングを合わせて中に侵入しろ」
クジラの言葉に深く頷いた私は、言われた通り身を伏せ姿を隠す。
見張りが一人になったのを確認して、飛び出した少年は手に持っていたナイフで素早く男を床に伏せた。
「今だ…!カイル…待ってて!」
私は一瞬の隙を見て、建物の中に侵入した。
重く大きな扉の前で立ち止まり、聞き耳を立てる。
まさに、オークションの始まりの挨拶が成されている最中だった。
「捕まってる人を助けないと…」
施設内をウロウロしていると、見張りの厚い鉄格子の先に、地下に降りる階段を見つけた。
「あそこだ…でも、どうすれば…」
見張りの男が数人。
全員身体も大きく、力では到底敵いそうにもない。
「アイリス…!」
暫く悩んでいると、クジラが追いかけて来てくれた。
「知り合いには会えたのか?」
彼の問に、首を横に降る。
「ううん…先にみんなを開放しないと…オークションが始まってるの」
頷いた彼が、見張りの様子を探る。
「俺が引き付ける…お前は…」
敵陣の真っ只中に居ながら、私は油断していた。
言葉を途中で遮られ、ナイフを首元に当てられたクジラ。
「やめて…彼を離して…」
優しかった幼馴染。
目の前に現れた彼は、私の知らない顔で微笑んだ。
「久しぶり…アイリス、会いたかったよ」
カイルが指を鳴らすと、スーツ姿の男達が私を捉え、腕に手錠が嵌められる。
「くそっ!アイリス!」
床に押し付けられ、苦しそうな顔で私の名を呼ぶクジラ。
「大丈夫…すぐに助けるから…少しだけ我慢してて」
笑みを浮かべる幼馴染の顔を睨みつけ、手錠を外そうと試みた。
「暴れるな…アイリス…お前を傷付けたくないんだ…」
カイルは私の顎をなぞり、髪を掬うと、毛先にそっと口付けた。
「昔から、ずっと好きだったんだよアイリス…大人しく俺に従うなら悪いようにはしない」
禁断の実を持ち出し、お祖父様を殺め、小さな子供や平和に暮らす人を拐って売り捌く。
そして今、大切な友達にナイフを突き立てている。
変わり果てた彼の姿に、言いようのない怒りが込み上げてきて、目に涙が浮かぶ。
「泣くほど嬉しい? アイリス…」
差し出された掌に、血が滲む程の力で噛み付いた私。
「ふざけないで…!カイル になんて従わない!」
叫ぶ私の瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。
「痛いなァ…あまり俺を怒らせるなよ…」
静かな怒りを滲ませ、冷たい瞳をこちらに向けるカイル。
「あなたは…もう…私の知ってるカイルじゃない…天使族でもない…! 悪魔みたいな人…許さない…」
震える唇から、言いようのない感情が溢れだす。
「好きに言えばいい…どのみち、お前は俺に捕まったんだ…手に入れたお前をどうするかは俺が決めることさ」
勝手な言葉を並べ、身を翻す男。
彼の合図と共に、クジラは牢に連れて行かれ、私は小さな部屋に閉じ込められた。