寄せては返す波の音が、静かな浜辺に響き渡る。

少年は、ゆっくりと口を開いた。

「この島を出るための、準備が整った」

緊張状態の私達の間を、海から吹く冷たい風が、優しく吹き抜ける。

「おれには…やるべき事がある…その事を、お前たちに話しておく」

余りにも悲しい過去の話。

大切な人との出会いから別れまでを、彼は涙を堪え、語り始めた。

それは想像を遥かに超える、壮絶な過去だった。

「…絶対、許さねぇ！」

キャスケット帽を被った少年は、怒りを顕にした。

「オレ達も、是非…協力したい！」

普段は冷静な少年も、堪えきれない怒りに拳を振るわせる。

「ひどい…」

ベポは、可愛い顔が涙でぐしゃぐしゃになっていた。

「ドンキホーテ･ドフラミンゴ…」

口にするのも、腹立たしい名前。

胸の奥に、チリチリとした痛みが込み上げる。

私はそれを、必死で堪えた。

「おれが海賊になるのは…あの人の本懐を遂げるためだ…自分勝手だとは思うが…お前達について来て欲しい」

少しでもいい。

彼の力になりたいと心から思った。

「やっと海に出るんだねー！ローは今日からキャプテンだね！おれ、航海士になりたいんだ！」

無邪気な言葉に、笑みが溢れる。

「そうだな！キャプテン！俺は絶対強くなって、どこまでもついていきます！」

シャチが高らかに、腕を上げる。

「オレも、仲間を守れるような強い男になりたい」

ペンギンは、握った拳に力を込めた。

「アイリスは、どんな海賊になりたいの？」

私を見つめ、首を傾げるベポ。

「えっ…私は…」

みんな興味津々といった顔で、こちらに注目する。

彼等のように、ハッキリとした理想がある訳じゃない。

まさか自分が海賊になるなんて、思ってもいなかったから。

私の旅の目的は、全く別のところにある。

浮かんだのは、あの人の顔だった。

「私は…大切な人を救いたい」

海の向こうに見える、彼と眺めた地平線。

「未来で後悔しないために…大切な人を助けたいから…私も、みんなと同じように強くなりたい…」

ローは、口角を上げ立ち上がった。

「アイリスにも、何かありそうだが…今はいい…取るべきイスは全て取る」

彼の言葉に頷き、私も立ち上がる。

「お前達…準備はいいか？ 」

シャチ、ペンギン、ベポもキラキラと目を輝かせ立ち上がった。

「存分に暴れ回るぞ…、出航だー！！！」

｢｢｢おおおおー！！！！｣｣｣

蒼と青の空と海。

私達は拳を振り上げ、声の限り、雄叫びを上げた。