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桜花乱舞の刻

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鬼姫の名前です

「「おじーちゃん、おばーちゃん、こんにちは!」」

元気に挨拶をする孫達を、優しく撫でる老夫婦。

「こんにちは、よく来たね」

二人が幸せそうに微笑むので、私も嬉しくなる。

「千馬君、千耶ちゃん、こんにちは」

里の統括は土方さん達に任せて、今日は家族水入らず。

子供達も、老夫婦を本当の祖父母のように慕っていた。

「ありがとう…千景さん」

仕事を早く済ませて、此処まで連れて来てくれた、優しい夫に礼を述べる。

「当然のことだ…」

私の頭を優しく撫でると、子供達のもとへ歩を進めた千景さん。

彼が二人と遊んでくれている間に、私は両親に、ずっと気になっていた事を問い掛けた。

「二人は…雪村 綱道 という男を知っていますか…?」

少し驚いて、顔を見合わせた後、二人はゆっくりと口を開いた。

綱道が語った彼の昔話。

彼らは、全く同じ事を語り始めた。

長い間、燻っていた疑問が解けていく。

話を聞き終えた私に、新たな疑問符が浮かんだ。

「天霧さんとは、どこで出会ったんですか? 彼は…二人を知っているようでしたよ?」

母は、肩を竦め、首を傾げる。

「天霧さん…?わからないわ…」

母とは対象的に、何かを思い出したらしい父。

「各地を転々と彷徨い歩いていた俺達が、山中に迷い込んでしまった時、危ないから近寄るなと…何も聞かず逃してくれた男がいた…思えば…彼処は鬼の里近く…彼が、天霧殿だったのかも知れないな…」

父が語り終えた直後、母は目を見開いた。

「そうだわ…あの時は怖くて名前を聞けなかったけど、あの人かもしれない…」

天霧さんなら、無闇に人を襲ったりしない。

私は答えを確信し、そして納得した。

「今度会ったとき、お礼を伝えておきますね」

微笑む老夫婦。

二人を見ていると、出会った鬼が天霧さんで良かったと、心底思う。

もしも、綱道に見つかっていたら、二人とこんな風に微笑み合う事も、出来なかっただろう。

「天霧さんに…宜しく伝えておいてね…」

夕刻の空が、茜色に染まる。

遊び疲れて眠ってしまった子供達を抱え、老夫婦に別れを告げた私達。

日が暮れてしまう前に、家路へと急ぐ。

「もし…私達の気持ちが通じていなかったら…どちらかが、綱道のようになっていたんでしょうか…」

帰り道、一生に一度の恋が叶わなかった綱道の想いを、想像して呟いた。

人の道も、鬼の道も外れてしまった男。

今は隣に居る千景さんを、彼と同じ様に失ってしまったら。

私も、深い闇の底へ堕ちてしまうかもしれない。

「俺も…お前を手に入れる事以外…周りが見えなくなっていたかも知れんな…」

突然、ポツリと呟いた夫。

互いに、ゆっくりと視線を絡ませた。

「だが…ゆき、お前が…綱道のようになる事はない」

男は、自信を含ませた笑みを浮かべる。

「何故ですか…? 私だって、同じように貴方を振り向かせようとすると思います…」

言葉の意味を理解出来ず、首を傾げる。

「お前と出会ったとしたら…いつ、どんな俺でも…お前以外の女に興味など持たぬからな…」

夕日と同じ様に、紅く染まっていく頬。

「お前は、どう在っても必ず…俺に愛される…後はお前が、素直に俺のもとに来るか…来ないかだ」

彼の金色の髪が、茜色の陽射しを受け、輝きを増す。

「そんなの…狡いです…」

私は頬を膨らまし、小さく抗議した。

「私だって…絶対、巡り逢うたびに…何度でも…貴方に恋をします」

どんな時代。

どんな境遇に置かれていても。

必ず、また恋に落ちる。

私の視線を正面から受け止め、優しく口付けを落とす千景さん。

「ならば…俺達が、綱道のようになる事は…万に一つもないということだ」

この人は本当に、いつだって。

最初の問に答えを導き出した彼は、満足そうな笑みを浮かべ身を翻した。

永遠を誓った筈の今だって、時折胸が苦しくなる程、貴方が好き。

切ない気持ちが溢れてきて、恋をしてるんだと痛感する。

ゆき

二人の宝物を抱え直し、私を呼ぶ夫。

その背を追い、隣に並んで歩み出す。

何度生まれ変わろうと、巡り逢うのは貴方がいい。

そんなことを考えながら。
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