終焉の刻
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
長い睫毛を涙に濡らす、愛しい女。
辛い夢を見ているのか、時折苦しそうな表情を浮かべる。
優しく髪を撫で、涙を拭ってやれても、夢の中まで助けに行ってやれない無力さに、苛立ちを覚えた。
「もう時間がない…ゆき…行くぞ…」
深夜、敵の目から逃れる様に闇に紛れ、道を進む。
ゆきが探していた、二人を見つける為。
自分にとってはどうでもよかったが、目を醒ました時、二人にもしもの事があったら、辛い思いをするのはゆき。
これ以上、愛する女にそんな思いをさせたくない一心で腰を上げ、辺りを探し歩いていた。
奥深く進んだ道の先。
ぼんやりと、薄桃に煌く一本の桜の木が、視界に映った。
僅かに感じる人の気配。
敵か、味方か。
ゆっくりと、その場所へ向け、歩みを進める。
「風間さん…」
桜の木の下、探していた二人が支え合うように寄り添い、此方を振り向いた。
「ゆき…!」
男が焦りの色をみせる。
「貴様、生きていたのか…案ずるな…ゆきは、気を失っているだけだ」
安堵する男女を横目に見やり、月明かりに照らされた、満開の桜へ視線を移す。
「お前達の生き急ぐ様はまるで、一瞬の間に散ってしまう桜のようだな…」
人間とは、脆く、儚く、滑稽な生き物だ。
「生き急いでるわけじゃねぇよ…ただ…必要とされるものが多かっただけだ…新撰組が理想とする武士の道は、険しいんでな」
俺の言葉に、僅かに笑んだ男は、言葉を続ける。
「武士の紛い者と言われてきた自分達だが…その信念も貫けば、本物になれるはず…俺には守らなきゃならねぇものがある…!だから、たとえ羅刹になろうが、鬼が相手だろうが…負けられねぇんだよ…!」
男の奥底にある、誠の魂。
「 "羅刹" という、紛い物の名は、貴様の生き様にふさわしくないようだな…」
小さく言葉を吐きながら、女を抱く腕に、力を込める。
「貴様は最早、一人の鬼だ…武士として、鬼とも違わぬ、誇り高き信念を見せてもらった…貴様に、鬼としての名をくれてやろう…"薄桜鬼" だ」
千年桜の枝先から舞う、美しい花弁。
風に乗った、一片の花びらがゆきの頬へ、静かに舞い落ちる。
「鬼として、認められる為に…戦ってきた訳じゃねぇんだがな…」
耳に届いた、美しい名。
私は思わず、それを口にした。
「薄桜鬼…」
暗闇から光に導かれ、浮上する意識。
重い瞼をゆっくり開くと、映ったのは、月夜に浮かぶ夜桜の花弁が、緩やかな風を纏い、無数に舞散る情景。
そして、桜を従え一層妖艶な姿を魅せる、愛しい男。
「風間さん…」
動かした唇は、直ぐに男のそれと重なった。
「ゆき…」
何度も耳にしている筈の、彼の声。
苦しい程に愛しさが募り、涙が溢れる。
「一人にして…ごめんなさい」
謝罪の言葉に、一瞬目を丸くした男は、直ぐに目を細め、口角を上げた。
「…約束を破った罰だ…一生、俺の傍に縛りつけておくか…」
少し意地悪な事を口にして、包み込むように、優しく私を抱き寄せる風間さん。
「これから先は、一生…貴方の傍から離れません…」
満開の桜の下、静かに愛を誓った私達。
「夜明けが来る前に行くぞ…」
歩き始めた彼の後ろに、寄り添い歩む。
「土方さん…千鶴さん…行きましょう…私達なら変わり逝く時代の中でも…きっと、生き抜いていけます…」
二人を振り返り、深く頷いて見せた。
「そうだな…俺達なら大丈夫だ」
土方さんが微笑む。
「はい…!見届けましょう…新しい時代を…皆で」
白みだす空を見上げれば、浮かぶのは、新撰組の誠の旗。
私達の目に映る、新撰組の装束を纏った隊士たちの姿。
時代に抗い、純粋に、刀一本で闘う事を貫いた誠の武士。
最期まで共に戦えたことは、私にとって、生涯の誇り。
日が昇る。
人々を導いていく、新しい日の光が。
辛い夢を見ているのか、時折苦しそうな表情を浮かべる。
優しく髪を撫で、涙を拭ってやれても、夢の中まで助けに行ってやれない無力さに、苛立ちを覚えた。
「もう時間がない…ゆき…行くぞ…」
深夜、敵の目から逃れる様に闇に紛れ、道を進む。
ゆきが探していた、二人を見つける為。
自分にとってはどうでもよかったが、目を醒ました時、二人にもしもの事があったら、辛い思いをするのはゆき。
これ以上、愛する女にそんな思いをさせたくない一心で腰を上げ、辺りを探し歩いていた。
奥深く進んだ道の先。
ぼんやりと、薄桃に煌く一本の桜の木が、視界に映った。
僅かに感じる人の気配。
敵か、味方か。
ゆっくりと、その場所へ向け、歩みを進める。
「風間さん…」
桜の木の下、探していた二人が支え合うように寄り添い、此方を振り向いた。
「ゆき…!」
男が焦りの色をみせる。
「貴様、生きていたのか…案ずるな…ゆきは、気を失っているだけだ」
安堵する男女を横目に見やり、月明かりに照らされた、満開の桜へ視線を移す。
「お前達の生き急ぐ様はまるで、一瞬の間に散ってしまう桜のようだな…」
人間とは、脆く、儚く、滑稽な生き物だ。
「生き急いでるわけじゃねぇよ…ただ…必要とされるものが多かっただけだ…新撰組が理想とする武士の道は、険しいんでな」
俺の言葉に、僅かに笑んだ男は、言葉を続ける。
「武士の紛い者と言われてきた自分達だが…その信念も貫けば、本物になれるはず…俺には守らなきゃならねぇものがある…!だから、たとえ羅刹になろうが、鬼が相手だろうが…負けられねぇんだよ…!」
男の奥底にある、誠の魂。
「 "羅刹" という、紛い物の名は、貴様の生き様にふさわしくないようだな…」
小さく言葉を吐きながら、女を抱く腕に、力を込める。
「貴様は最早、一人の鬼だ…武士として、鬼とも違わぬ、誇り高き信念を見せてもらった…貴様に、鬼としての名をくれてやろう…"薄桜鬼" だ」
千年桜の枝先から舞う、美しい花弁。
風に乗った、一片の花びらがゆきの頬へ、静かに舞い落ちる。
「鬼として、認められる為に…戦ってきた訳じゃねぇんだがな…」
耳に届いた、美しい名。
私は思わず、それを口にした。
「薄桜鬼…」
暗闇から光に導かれ、浮上する意識。
重い瞼をゆっくり開くと、映ったのは、月夜に浮かぶ夜桜の花弁が、緩やかな風を纏い、無数に舞散る情景。
そして、桜を従え一層妖艶な姿を魅せる、愛しい男。
「風間さん…」
動かした唇は、直ぐに男のそれと重なった。
「ゆき…」
何度も耳にしている筈の、彼の声。
苦しい程に愛しさが募り、涙が溢れる。
「一人にして…ごめんなさい」
謝罪の言葉に、一瞬目を丸くした男は、直ぐに目を細め、口角を上げた。
「…約束を破った罰だ…一生、俺の傍に縛りつけておくか…」
少し意地悪な事を口にして、包み込むように、優しく私を抱き寄せる風間さん。
「これから先は、一生…貴方の傍から離れません…」
満開の桜の下、静かに愛を誓った私達。
「夜明けが来る前に行くぞ…」
歩き始めた彼の後ろに、寄り添い歩む。
「土方さん…千鶴さん…行きましょう…私達なら変わり逝く時代の中でも…きっと、生き抜いていけます…」
二人を振り返り、深く頷いて見せた。
「そうだな…俺達なら大丈夫だ」
土方さんが微笑む。
「はい…!見届けましょう…新しい時代を…皆で」
白みだす空を見上げれば、浮かぶのは、新撰組の誠の旗。
私達の目に映る、新撰組の装束を纏った隊士たちの姿。
時代に抗い、純粋に、刀一本で闘う事を貫いた誠の武士。
最期まで共に戦えたことは、私にとって、生涯の誇り。
日が昇る。
人々を導いていく、新しい日の光が。