終焉の刻
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鈍い銃の音が、辺り一帯に鳴り響く。
私達は馬を走らせ、弁天台場へ援軍に向かっていた。
「土方さん…!」
一瞬の出来事だった。
落馬した男の名を叫び、駆け寄った千鶴。
「いや…嫌です…土方さん…!」
愛する女の身を案じ、逃げろと命じる土方さん。
「頼む…逃げ…てくれ…」
千鶴は、首を横に振り、離れようとしなかった。
「平助君…島田さん達の居る、五稜郭まで行けば…道は開けます…二人をお願いします」
平助君に二人を託し、私と山南さんは、素早く剣を抜いた。
銃の照準を此方に向ける兵士が、遠くに見える。
「山南さん…気をつけてください」
四方を塞がれた私達。
「私なら大丈夫です…羅刹ですから」
二人同時に、襲い来る敵の渦へと、飛び込んだ。
私達が斬り合いをしている間、風間さんが銃を構えた敵兵達を、順番に壊滅させていく。
作戦は見事に成功し、その場にいた敵を全て一掃し終えた私達は、急いで千鶴達の後を追った。
五稜郭で待っていたのは、苦戦を強いられている、島田さんの部隊。
「平助君が見当たらない…」
湧き上がる不安を一旦抑え、今は目前で戦う隊士達の援護に回った私達。
劣勢だった戦況も、私と風間さんという鬼の参入により、直ぐに優勢となり、逃げる為の退路も無事、確保した。
「私は大鳥さんに、この事を伝えてきます…船が残っているかも、確認しておきます…ゆきさんは…土方さん達を探して来てください」
柔らかな笑みを浮かべ、山南さんが口を開く。
「わかりました…ですがもし、一刻待っても私達が戻らなかったら、先に、退却してください…折角の退路が…無駄になってしまう前に」
男は、目を見開いた。
だが、この人は、 新撰組の参謀総長。
「わかりました…その時は…先に退却します…」
新撰組の為なら、最良の策を取ってくれるに違いない。
「行きましょう…風間さん」
身を翻した私は、山道沿いに歩を進め、平助君達を見つける為、駆け出した。
来た道を引き返しても、一向に姿は見当たらない。
まさかとは思いながらも、森の中へ足を運ぶ。
一歩ずつ、奥へ向かい歩みを進めていると、探している人物の姿を、漸く視界に捉えた私。
「平助君…!」
数十の兵士に、取り囲まれている男。
気配すら感じ取れない、一緒にいた筈の二人。
私は直ぐに、この場の状況を飲み込んだ。
平助君に向かい、一斉に襲い掛かる数十の刃。
私は思わず、飛び出していた。
「ゆき…!!!」
愛しい男の声が、静かな森の中に木霊する。
平助君を庇うように覆い被さり、全ての斬撃を受けた私。
「な…んで……ゆき…なんで!」
遠くに聞こえる、泣きそうな声。
身体は熱を帯び、回復しようと黄金の光を放ち始めた。
徐々に、霞んでくる視界。
風間さんの剣により、数十居た敵は、既に地に伏している。
「風間さん…」
紅い雫を払い、刀を鞘に収めた男。
その優美な姿を最期に写し、私は深い暗闇へと、墜ちていった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「どけ…邪魔だ」
自身の身体から光を放ち、必死に生きようとする女を、腕に抱く。
「貴様…何をしている…早く行け…行かぬなら殺すぞ」
涙を流しながら、ゆきの名を何度も叫ぶ男に、新撰組が退路を確保した事を告げる。
ゆきが身を呈して護った男。
殺してしまいそうになる衝動を抑える為、直ぐにでも、視界から外したかった。
腕の中、女から放たれる光が、徐々に収まっていく。
傷は全て癒えている。
それなのに、一向に目を開かない愛しい女。
生死を確かめれば、規則正しい音を刻む彼女の心音に安堵した。
少し、血を流し過ぎたのかも知れない。
「目を開けろ…ゆき…戻ってきたら仕置だ…覚悟しておけ…」
冷たくなった彼女の唇に、触れるだけの口付けを落とし、彷徨い歩く。
暫く進んだ所で、小さな小屋を見つけた。
「あの場所に似ているな…」
囲炉裏に火を焚べ、部屋を暖める。
自身の羽織を床に広げ、彼女を寝かせた。
横になり、女の頭の下に腕を通す。
愛しい女の名を囁きながら、額、頬、唇と、何度も、何度も口付けた。
「俺を追いてどこに行っている…傍にいろと言った筈だ…ゆき…言う事を聞けぬのか…」
切ない声色をかき消す様に、外から強い雨音が響き渡る。
山南という男と、交した約束。
時刻は、とうに過ぎていた。
私達は馬を走らせ、弁天台場へ援軍に向かっていた。
「土方さん…!」
一瞬の出来事だった。
落馬した男の名を叫び、駆け寄った千鶴。
「いや…嫌です…土方さん…!」
愛する女の身を案じ、逃げろと命じる土方さん。
「頼む…逃げ…てくれ…」
千鶴は、首を横に振り、離れようとしなかった。
「平助君…島田さん達の居る、五稜郭まで行けば…道は開けます…二人をお願いします」
平助君に二人を託し、私と山南さんは、素早く剣を抜いた。
銃の照準を此方に向ける兵士が、遠くに見える。
「山南さん…気をつけてください」
四方を塞がれた私達。
「私なら大丈夫です…羅刹ですから」
二人同時に、襲い来る敵の渦へと、飛び込んだ。
私達が斬り合いをしている間、風間さんが銃を構えた敵兵達を、順番に壊滅させていく。
作戦は見事に成功し、その場にいた敵を全て一掃し終えた私達は、急いで千鶴達の後を追った。
五稜郭で待っていたのは、苦戦を強いられている、島田さんの部隊。
「平助君が見当たらない…」
湧き上がる不安を一旦抑え、今は目前で戦う隊士達の援護に回った私達。
劣勢だった戦況も、私と風間さんという鬼の参入により、直ぐに優勢となり、逃げる為の退路も無事、確保した。
「私は大鳥さんに、この事を伝えてきます…船が残っているかも、確認しておきます…ゆきさんは…土方さん達を探して来てください」
柔らかな笑みを浮かべ、山南さんが口を開く。
「わかりました…ですがもし、一刻待っても私達が戻らなかったら、先に、退却してください…折角の退路が…無駄になってしまう前に」
男は、目を見開いた。
だが、この人は、 新撰組の参謀総長。
「わかりました…その時は…先に退却します…」
新撰組の為なら、最良の策を取ってくれるに違いない。
「行きましょう…風間さん」
身を翻した私は、山道沿いに歩を進め、平助君達を見つける為、駆け出した。
来た道を引き返しても、一向に姿は見当たらない。
まさかとは思いながらも、森の中へ足を運ぶ。
一歩ずつ、奥へ向かい歩みを進めていると、探している人物の姿を、漸く視界に捉えた私。
「平助君…!」
数十の兵士に、取り囲まれている男。
気配すら感じ取れない、一緒にいた筈の二人。
私は直ぐに、この場の状況を飲み込んだ。
平助君に向かい、一斉に襲い掛かる数十の刃。
私は思わず、飛び出していた。
「ゆき…!!!」
愛しい男の声が、静かな森の中に木霊する。
平助君を庇うように覆い被さり、全ての斬撃を受けた私。
「な…んで……ゆき…なんで!」
遠くに聞こえる、泣きそうな声。
身体は熱を帯び、回復しようと黄金の光を放ち始めた。
徐々に、霞んでくる視界。
風間さんの剣により、数十居た敵は、既に地に伏している。
「風間さん…」
紅い雫を払い、刀を鞘に収めた男。
その優美な姿を最期に写し、私は深い暗闇へと、墜ちていった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「どけ…邪魔だ」
自身の身体から光を放ち、必死に生きようとする女を、腕に抱く。
「貴様…何をしている…早く行け…行かぬなら殺すぞ」
涙を流しながら、ゆきの名を何度も叫ぶ男に、新撰組が退路を確保した事を告げる。
ゆきが身を呈して護った男。
殺してしまいそうになる衝動を抑える為、直ぐにでも、視界から外したかった。
腕の中、女から放たれる光が、徐々に収まっていく。
傷は全て癒えている。
それなのに、一向に目を開かない愛しい女。
生死を確かめれば、規則正しい音を刻む彼女の心音に安堵した。
少し、血を流し過ぎたのかも知れない。
「目を開けろ…ゆき…戻ってきたら仕置だ…覚悟しておけ…」
冷たくなった彼女の唇に、触れるだけの口付けを落とし、彷徨い歩く。
暫く進んだ所で、小さな小屋を見つけた。
「あの場所に似ているな…」
囲炉裏に火を焚べ、部屋を暖める。
自身の羽織を床に広げ、彼女を寝かせた。
横になり、女の頭の下に腕を通す。
愛しい女の名を囁きながら、額、頬、唇と、何度も、何度も口付けた。
「俺を追いてどこに行っている…傍にいろと言った筈だ…ゆき…言う事を聞けぬのか…」
切ない声色をかき消す様に、外から強い雨音が響き渡る。
山南という男と、交した約束。
時刻は、とうに過ぎていた。