終焉の刻
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「そんな…」
仙台城で明らかになった事実。
雪村 綱道 の最期。
千鶴は、ただ黙って俯いていた。
「父を…止めてくれてありがとうございました…」
沈黙を破り、彼女の口から小さく呟かれた言葉は意外なもので、私は目を見開いた。
「私を…責めないんですか…?」
私達にとって、彼は確かに仇だった。
けれど、彼女にとっては優しい父だったのかも知れない。
「私に…ゆきさんを、責める資格なんてありません…父は、多くの人の命を奪っていたんですから…謝るべきなのは…私の方です…」
今にも泣き出しそうな千鶴の頭を、優しく撫でる。
「…貴方も、私も痛みは同じです…私達は互いに、親も故郷も失ったのだから…」
境遇は少し違うけれど、心に負った深い傷は同じもの。
私達は見つめ合い、僅かに微笑んだ。
「ゆきさん…私、土方さんの傍に居たいです」
真っ直ぐ私を見つめる千鶴の瞳には、一片の迷いもなかった。
「…きっと…これまでとは比べものにならない程、苦しい戦いが待っています…貴方も無事では済まないかも知れません…」
その心を試すかのように、視線を絡ませ警告する。
「覚悟は出来ています…あの人の所へ、連れて行ってください」
試すような視線から、一切逃げることなく、決意を顕にした彼女。
立ち上がった風間さんは、蝦夷へ渡るための船を用立てる為、静かに部屋を後にした。
切なる想いを届けるため。
私達を乗せた船は、最北の地へと出航した。
ーーーーーーーーーーーーー
蝦夷地で開戦された海上での戦い。
敵八隻に対し、こちら側は一隻。
惨敗だった。
「くそっ…」
連日の戦いと、作戦会議によって、疲労困憊の土方さんは、乱れる心を落ち着かせる為、自室で窓の外を眺めていた。
静かに空から舞い落ちてくる白い結晶。
雪を見て想い出すのは、京の町で皆と見廻りをしていた頃の事。
懐かしい想い出に浸っていると、部屋の扉を叩く音がした。
「失礼します、土方さん…宜しいですか?」
聞き慣れた、新撰組参謀の声。
「何だ…」
振り返ったその瞬間。
「土方さん…」
視界が捉えたのは、身を案じ、幸せになって欲しいと切に願い、江戸に残して来た筈の人。
「今すぐ江戸へ帰れ」
自身の想いとは裏腹に、男は冷たく拒絶する。
「嫌です…私は自分の意志でここに来ました」
そんな土方さんに、彼女は臆することなく気持ちをぶつけた。
「土方さん、私は…貴方の事が好きです」
千鶴の強い想いは、頑なだった彼の心を溶かしていく。
「辛い事も、苦しい事も…これからは私に分けて下さい…一人で抱え込まずに頼って下さい…土方さんの傍に…置いて欲しいんです」
彼を見つめる瞳に涙が溢れていく。
「千鶴、おまえが俺の傍からいなくなると、一人で立つ事すら辛く感じられた…俺はおまえに救われていたんだろう」
漸く、想いを伝える決心のついた土方さんは、真っ直ぐ、彼女に向かい歩みを進める。
「てめぇの命をかける事に迷いは無ぇが、賭ける場所を間違えちゃいけねぇ…そう思えるようになったのは、千鶴…お前が居たからだ…俺はお前に惚れてるんだろう」
土方さんは、彼女を自分の腕に優しく閉じ込めた。
「私の存在に意味があるのなら、こんなに嬉しい事はありません…」
想いを通わせた二人を見て、穏やかに微笑んだ私達は、身を翻し、その場を後にした。
新撰組の魂と、自身の命を懸けた最期の戦いが、幕を開けるまでの僅かな時間。
私も千鶴も、最愛の人の腕の中、安らかな夜を過ごし、束の間の幸せに身を馳せた。
仙台城で明らかになった事実。
雪村 綱道 の最期。
千鶴は、ただ黙って俯いていた。
「父を…止めてくれてありがとうございました…」
沈黙を破り、彼女の口から小さく呟かれた言葉は意外なもので、私は目を見開いた。
「私を…責めないんですか…?」
私達にとって、彼は確かに仇だった。
けれど、彼女にとっては優しい父だったのかも知れない。
「私に…ゆきさんを、責める資格なんてありません…父は、多くの人の命を奪っていたんですから…謝るべきなのは…私の方です…」
今にも泣き出しそうな千鶴の頭を、優しく撫でる。
「…貴方も、私も痛みは同じです…私達は互いに、親も故郷も失ったのだから…」
境遇は少し違うけれど、心に負った深い傷は同じもの。
私達は見つめ合い、僅かに微笑んだ。
「ゆきさん…私、土方さんの傍に居たいです」
真っ直ぐ私を見つめる千鶴の瞳には、一片の迷いもなかった。
「…きっと…これまでとは比べものにならない程、苦しい戦いが待っています…貴方も無事では済まないかも知れません…」
その心を試すかのように、視線を絡ませ警告する。
「覚悟は出来ています…あの人の所へ、連れて行ってください」
試すような視線から、一切逃げることなく、決意を顕にした彼女。
立ち上がった風間さんは、蝦夷へ渡るための船を用立てる為、静かに部屋を後にした。
切なる想いを届けるため。
私達を乗せた船は、最北の地へと出航した。
ーーーーーーーーーーーーー
蝦夷地で開戦された海上での戦い。
敵八隻に対し、こちら側は一隻。
惨敗だった。
「くそっ…」
連日の戦いと、作戦会議によって、疲労困憊の土方さんは、乱れる心を落ち着かせる為、自室で窓の外を眺めていた。
静かに空から舞い落ちてくる白い結晶。
雪を見て想い出すのは、京の町で皆と見廻りをしていた頃の事。
懐かしい想い出に浸っていると、部屋の扉を叩く音がした。
「失礼します、土方さん…宜しいですか?」
聞き慣れた、新撰組参謀の声。
「何だ…」
振り返ったその瞬間。
「土方さん…」
視界が捉えたのは、身を案じ、幸せになって欲しいと切に願い、江戸に残して来た筈の人。
「今すぐ江戸へ帰れ」
自身の想いとは裏腹に、男は冷たく拒絶する。
「嫌です…私は自分の意志でここに来ました」
そんな土方さんに、彼女は臆することなく気持ちをぶつけた。
「土方さん、私は…貴方の事が好きです」
千鶴の強い想いは、頑なだった彼の心を溶かしていく。
「辛い事も、苦しい事も…これからは私に分けて下さい…一人で抱え込まずに頼って下さい…土方さんの傍に…置いて欲しいんです」
彼を見つめる瞳に涙が溢れていく。
「千鶴、おまえが俺の傍からいなくなると、一人で立つ事すら辛く感じられた…俺はおまえに救われていたんだろう」
漸く、想いを伝える決心のついた土方さんは、真っ直ぐ、彼女に向かい歩みを進める。
「てめぇの命をかける事に迷いは無ぇが、賭ける場所を間違えちゃいけねぇ…そう思えるようになったのは、千鶴…お前が居たからだ…俺はお前に惚れてるんだろう」
土方さんは、彼女を自分の腕に優しく閉じ込めた。
「私の存在に意味があるのなら、こんなに嬉しい事はありません…」
想いを通わせた二人を見て、穏やかに微笑んだ私達は、身を翻し、その場を後にした。
新撰組の魂と、自身の命を懸けた最期の戦いが、幕を開けるまでの僅かな時間。
私も千鶴も、最愛の人の腕の中、安らかな夜を過ごし、束の間の幸せに身を馳せた。