終焉の刻
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夜の帳が下り、深い霧が視界を奪う。
静まり返った場所で、ゆっくりと瞼を閉じた。
辺りに異様な殺気が漂う。
「死んでよ、ゆき」
背後から、振り下ろされた刀を咄嗟に躱し、距離を取る。
「薫君…」
あの頃の、優しい彼は、もういない。
「流石に、一発で仕留めるのは無理みたいだね…仕方ない…おいで、羅刹達」
彼が言葉を放つと、列を組んだ数百の羅刹が、闇の中から現れた。
「薫君、あなたは…」
感情のない瞳。
「ゆき、世の中は愚かしくて…汚らしくて…いつだって、俺みたいな弱者に…屈辱を強いるんだ」
羅刹達を従え、先頭に立つ。
嘗ての幼馴染は、憎しみと、怒りを宿した金色の瞳を、此方に向けた。
「真実を知りたいなら教えてやるよ…ゆき…里が滅びたのは、お前の父親のせいだ」
そんな事、ある筈がない。
私の知る父は、気高く、誇り高い男だった。
「お前の父親が指図するから…俺の親父は人間の誘いに乗らなかったんだ…そのせいで…皆が殺され…火を放たれた」
理不尽に、父ヘの恨みを語る薫。
そっと、私の肩に触れ、男の前に立ち憚る斎藤さん。
「黙って聞いていれば、勝手な事を…ゆきの父親は立派な男だ…関係ない争いに民が巻き込まれないよう計らったまでの事…」
彼の言葉に、救われた。
落ち着きを取り戻した私は、薫を睨みつける。
「煩い…!お前なんかに何がわかる…!俺の全てを奪ったのは、偉そうな総本家の連中だ…ゆき、お前を殺して、俺は…千鶴と綱道と共に、新しい鬼の里を創るんだ!お前なんて…この世に必要ない存在なんだ!」
彼はずっと、孤独だったのかも知れない。
「…煩いのは、君の方だと思うけど」
私が剣を抜く前に、斬りかかって行った沖田さん。
不意を突かれた薫は、その斬撃をギリギリのところで躱した。
「……羅刹の分際で俺の顔に傷をつけるなんて…生意気な!」
男の頬から、赤い雫が流れ落ちる。
「本当、可哀想だね…君」
金属音が鳴り響く。
殆ど互角に討ち合う二人だったが、僅かに沖田さんの速さが上回った瞬間、ゆっくりと宙に舞った薫の刀。
千鶴の持つ小太刀 "小通連" 。
それと、対に位置する太刀 "大通連" 。
代々、雪村家の誇りを受け継いで来た刀が今、主の手を離れ、地面に真っ直ぐ突き刺さる。
「ゆきちゃん、見なくていいよ…目を閉じておいて」
彼の心臓に剣先を当て、貫く寸前で私を気遣う優しい人。
「有難うございます…でも、総本家の鬼として…道を踏み外した同胞の最期を見届けるのは…私の使命…幼き日の想い出と共に、この目に焼付けます」
二度と、同じ事を繰り返さない様に。
「…強いね、君は」
視線を薫ヘ戻した沖田さんは、そのままゆっくりと、彼の心臓を貫いた。
純粋で、優しかった男の子。
彼を、復讐の鬼と変えてしまったのは、その心を、哀しみと、孤独という名の闇が、覆い隠してしまったからかも知れない。
散り際に、小さく千鶴の名を呟いた薫。
その最期の姿を、私は生涯忘れない。
静まり返った場所で、ゆっくりと瞼を閉じた。
辺りに異様な殺気が漂う。
「死んでよ、ゆき」
背後から、振り下ろされた刀を咄嗟に躱し、距離を取る。
「薫君…」
あの頃の、優しい彼は、もういない。
「流石に、一発で仕留めるのは無理みたいだね…仕方ない…おいで、羅刹達」
彼が言葉を放つと、列を組んだ数百の羅刹が、闇の中から現れた。
「薫君、あなたは…」
感情のない瞳。
「ゆき、世の中は愚かしくて…汚らしくて…いつだって、俺みたいな弱者に…屈辱を強いるんだ」
羅刹達を従え、先頭に立つ。
嘗ての幼馴染は、憎しみと、怒りを宿した金色の瞳を、此方に向けた。
「真実を知りたいなら教えてやるよ…ゆき…里が滅びたのは、お前の父親のせいだ」
そんな事、ある筈がない。
私の知る父は、気高く、誇り高い男だった。
「お前の父親が指図するから…俺の親父は人間の誘いに乗らなかったんだ…そのせいで…皆が殺され…火を放たれた」
理不尽に、父ヘの恨みを語る薫。
そっと、私の肩に触れ、男の前に立ち憚る斎藤さん。
「黙って聞いていれば、勝手な事を…ゆきの父親は立派な男だ…関係ない争いに民が巻き込まれないよう計らったまでの事…」
彼の言葉に、救われた。
落ち着きを取り戻した私は、薫を睨みつける。
「煩い…!お前なんかに何がわかる…!俺の全てを奪ったのは、偉そうな総本家の連中だ…ゆき、お前を殺して、俺は…千鶴と綱道と共に、新しい鬼の里を創るんだ!お前なんて…この世に必要ない存在なんだ!」
彼はずっと、孤独だったのかも知れない。
「…煩いのは、君の方だと思うけど」
私が剣を抜く前に、斬りかかって行った沖田さん。
不意を突かれた薫は、その斬撃をギリギリのところで躱した。
「……羅刹の分際で俺の顔に傷をつけるなんて…生意気な!」
男の頬から、赤い雫が流れ落ちる。
「本当、可哀想だね…君」
金属音が鳴り響く。
殆ど互角に討ち合う二人だったが、僅かに沖田さんの速さが上回った瞬間、ゆっくりと宙に舞った薫の刀。
千鶴の持つ小太刀 "小通連" 。
それと、対に位置する太刀 "大通連" 。
代々、雪村家の誇りを受け継いで来た刀が今、主の手を離れ、地面に真っ直ぐ突き刺さる。
「ゆきちゃん、見なくていいよ…目を閉じておいて」
彼の心臓に剣先を当て、貫く寸前で私を気遣う優しい人。
「有難うございます…でも、総本家の鬼として…道を踏み外した同胞の最期を見届けるのは…私の使命…幼き日の想い出と共に、この目に焼付けます」
二度と、同じ事を繰り返さない様に。
「…強いね、君は」
視線を薫ヘ戻した沖田さんは、そのままゆっくりと、彼の心臓を貫いた。
純粋で、優しかった男の子。
彼を、復讐の鬼と変えてしまったのは、その心を、哀しみと、孤独という名の闇が、覆い隠してしまったからかも知れない。
散り際に、小さく千鶴の名を呟いた薫。
その最期の姿を、私は生涯忘れない。