終焉の刻
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陽が昇り始めたと同時に、私達は攻撃を再開した。
「ここは鎮圧しました…斎藤さんは、近藤さんの元へ行ってください」
砲弾や、銃を使う新政府軍でも、鬼の私には掠り傷程度しかつけられない。
それ故、自分の持ち場は一人で十分に鎮圧出来た。
「わかった…だが、ここはもういい…新八の部隊に応援に行ってやれ…」
斎藤さんの指示に頷き、身を翻す。
「永倉さん…!大丈夫ですか…!」
激しい砲弾を受け、壊滅状態に陥っている二番隊。
「ゆきか…俺は大丈夫だが、部下達は大分やられた…やっぱ、大砲に刀じゃ歯が立たねぇ…ここを頼む…俺は近藤さんに退却を申し出てくる…!」
まだ生きている隊士を、守る事。
それは、組長である彼の務め。
「わかりました…」
彼が戻って来るまで、誰も傷付けさせない。
「やるしかない…」
私は小さく呟き、自身の紅い血を、倒れている隊士達の口に、含ませた。
「間に合って…」
意識を取り戻した彼らに指示を出し、本陣まで退却させた私。
「これで…存分に戦える…」
弾丸よりも早く。
砲弾よりも重い斬撃。
敵を全て斬り伏せ、切先に付いた汚れを払う。
完全に鎮圧した事を確認し、近藤さんの元へ急ぎ戻った。
「莫迦者…!武士の誇りを失ったのか!」
怒声を上げる局長。
「なら…あんたの言う武士の誇りとやらは…仲間を無駄死にさせる事なのかよ!」
永倉さんが、悲痛な叫びを上げる。
私は彼の隣に立ち、陣の外を指差した。
「近藤さん…武士として、敵に背を向けられないという貴方の気持ちもわかります…ですが…周りを見渡して下さい」
視線の先に映るのは、既に息絶えた沢山の隊士達。
「これは…! 俺のせい…なのか…」
言葉を失い、彼らを見つめる局長。
「散って逝った彼らの為にも…ここで判断を見誤ると、取り返しのつかない事になります…武士としてではなく、局長としての判断をして下さい」
"新撰組 局長" としての決断。
近藤さんは、悔しそうに唇を噛み、口を開いた。
「すまなかった…今更遅いかもしれぬが…撤退だ…」
局長の号令を皮切りに、幹部達は戦場に残っている隊士の元へ、撤退を告げに向かう。
「撤退だ!局長命令だ!皆撤退しろー!」
彼ら新撰組が、無事に退いて行くのを見届けた私。
彼らを追う敵兵を斬り、後方を護る。
「何…あの数は…」
視線の先に捉えたのは、羅刹の大軍。
「何故、羅刹が昼間堂々と…まさか… 雪村 綱道 …」
空を斬り、血を払う。
「皆さん…早く逃げてください…」
深く息を吸い、瞼を閉じた。
誰一人、通さない。
「ゆき一人で相手にする気か…! 大勢の羅刹の中に、お前を置いて行くなど、そんな莫迦な事できる訳がない!」
遠くに聞こえる、斎藤さんの声。
「近藤さんを逃がし、生きろと…土方さんは千鶴さんに仰っていました…二人を護りながら、無事に逃がせるのは、貴方しかいません…」
振り返り、彼の目を見つめ、微笑んで見せた。
「大丈夫…鬼の前では、羅刹など人形同然です…直ぐに戻ると…約束します」
何も言わず、俯いた斎藤さん。
「鬼は…誓いを破りません…私を信じてください」
私は宥めるように、言葉を繋げた。
「わかった…」
彼を見送り、再び羅刹に対峙する。
新撰組の後を追えないよう、言葉通り羅刹の全てを斬り伏せた。
斎藤さんとの約束を守る為。
土方さんの想いを繋ぐ為。
屍となった羅刹達を踏み越え、仲間の元へ走り出す。
辿り着いた私を、待っていたのは、大切な仲間との別れだった。
「ここに居ても、必ず追っ手は来る…トシの帰りを待って、すぐに会津ヘ向かおう」
近藤さんの提案に、首を横に振る永倉さんと、原田さん。
二人は、考え方の違いから、離隊を申し出た。
「俺達は別れても志は変わらねぇ…またすぐに会えるさ」
止めようとする千鶴を、優しく突き放す永倉さん。
「ゆき、あまり無茶するなよ…これからは俺が傍に居て、助けてやれねぇからな」
原田さんは最後に、私の頭を優しく撫で、振り返ることなく、新撰組から去って行った。
誰が間違ってる訳でもない。
世は無情。
"甲陽鎮撫隊" と、名を改めてから迎えた、最初の戦は大敗し、同時に大切な仲間を、失った。
「ここは鎮圧しました…斎藤さんは、近藤さんの元へ行ってください」
砲弾や、銃を使う新政府軍でも、鬼の私には掠り傷程度しかつけられない。
それ故、自分の持ち場は一人で十分に鎮圧出来た。
「わかった…だが、ここはもういい…新八の部隊に応援に行ってやれ…」
斎藤さんの指示に頷き、身を翻す。
「永倉さん…!大丈夫ですか…!」
激しい砲弾を受け、壊滅状態に陥っている二番隊。
「ゆきか…俺は大丈夫だが、部下達は大分やられた…やっぱ、大砲に刀じゃ歯が立たねぇ…ここを頼む…俺は近藤さんに退却を申し出てくる…!」
まだ生きている隊士を、守る事。
それは、組長である彼の務め。
「わかりました…」
彼が戻って来るまで、誰も傷付けさせない。
「やるしかない…」
私は小さく呟き、自身の紅い血を、倒れている隊士達の口に、含ませた。
「間に合って…」
意識を取り戻した彼らに指示を出し、本陣まで退却させた私。
「これで…存分に戦える…」
弾丸よりも早く。
砲弾よりも重い斬撃。
敵を全て斬り伏せ、切先に付いた汚れを払う。
完全に鎮圧した事を確認し、近藤さんの元へ急ぎ戻った。
「莫迦者…!武士の誇りを失ったのか!」
怒声を上げる局長。
「なら…あんたの言う武士の誇りとやらは…仲間を無駄死にさせる事なのかよ!」
永倉さんが、悲痛な叫びを上げる。
私は彼の隣に立ち、陣の外を指差した。
「近藤さん…武士として、敵に背を向けられないという貴方の気持ちもわかります…ですが…周りを見渡して下さい」
視線の先に映るのは、既に息絶えた沢山の隊士達。
「これは…! 俺のせい…なのか…」
言葉を失い、彼らを見つめる局長。
「散って逝った彼らの為にも…ここで判断を見誤ると、取り返しのつかない事になります…武士としてではなく、局長としての判断をして下さい」
"新撰組 局長" としての決断。
近藤さんは、悔しそうに唇を噛み、口を開いた。
「すまなかった…今更遅いかもしれぬが…撤退だ…」
局長の号令を皮切りに、幹部達は戦場に残っている隊士の元へ、撤退を告げに向かう。
「撤退だ!局長命令だ!皆撤退しろー!」
彼ら新撰組が、無事に退いて行くのを見届けた私。
彼らを追う敵兵を斬り、後方を護る。
「何…あの数は…」
視線の先に捉えたのは、羅刹の大軍。
「何故、羅刹が昼間堂々と…まさか… 雪村 綱道 …」
空を斬り、血を払う。
「皆さん…早く逃げてください…」
深く息を吸い、瞼を閉じた。
誰一人、通さない。
「ゆき一人で相手にする気か…! 大勢の羅刹の中に、お前を置いて行くなど、そんな莫迦な事できる訳がない!」
遠くに聞こえる、斎藤さんの声。
「近藤さんを逃がし、生きろと…土方さんは千鶴さんに仰っていました…二人を護りながら、無事に逃がせるのは、貴方しかいません…」
振り返り、彼の目を見つめ、微笑んで見せた。
「大丈夫…鬼の前では、羅刹など人形同然です…直ぐに戻ると…約束します」
何も言わず、俯いた斎藤さん。
「鬼は…誓いを破りません…私を信じてください」
私は宥めるように、言葉を繋げた。
「わかった…」
彼を見送り、再び羅刹に対峙する。
新撰組の後を追えないよう、言葉通り羅刹の全てを斬り伏せた。
斎藤さんとの約束を守る為。
土方さんの想いを繋ぐ為。
屍となった羅刹達を踏み越え、仲間の元へ走り出す。
辿り着いた私を、待っていたのは、大切な仲間との別れだった。
「ここに居ても、必ず追っ手は来る…トシの帰りを待って、すぐに会津ヘ向かおう」
近藤さんの提案に、首を横に振る永倉さんと、原田さん。
二人は、考え方の違いから、離隊を申し出た。
「俺達は別れても志は変わらねぇ…またすぐに会えるさ」
止めようとする千鶴を、優しく突き放す永倉さん。
「ゆき、あまり無茶するなよ…これからは俺が傍に居て、助けてやれねぇからな」
原田さんは最後に、私の頭を優しく撫で、振り返ることなく、新撰組から去って行った。
誰が間違ってる訳でもない。
世は無情。
"甲陽鎮撫隊" と、名を改めてから迎えた、最初の戦は大敗し、同時に大切な仲間を、失った。