始まりの刻
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屋敷の中に通され、座って待つよう命じられた私は、諦めたように大人しくその場に腰を下ろした。
目の前に、二人の男が現れ鎮座する。
「近藤さん! 隊士を募集してるって言ってたからちゃんと腕が立つ子を連れて来てあげたよ!」
私をここまで引っ張ってきた男が、嬉しそうに口を開いた。
「大方…総司が無理に連れて来てしまったんだろう…すまなかった」
近藤さんと呼ばれる優しそうな目をした男が、溜息を吐きながら頭を下げる。
「ハァ…何考えてんだ…総司」
近藤さんの横で、更に深く溜息を吐く男の眉間に皺が寄る。
「総司…こいつは女だろう‥‥」
刹那、心臓が脈を打つ。
上手く男装していた筈なのに、見破られていた事に焦りを覚える私。
「はあ?何言ってるの…土方さん…僕は男にしか見えないけど?」
総司という男は首を傾げ、怪訝そうな表情を浮かべた。
「トシ…それは失礼じゃないか…」
近藤さんも不思議そうな顔で隣の男を見遣る。
「近藤さん…あんたもか‥‥」
再び深い溜息を吐き、こちらに鋭い双眼を向ける男。
「男装なんかしやがって…おまえは一体何者だ」
刺すような視線を向けられ少々臆したが、私は姿勢を正し、目の前の三人に向かって丁寧に頭を下げた。
「私は… 一ノ瀬 ゆき と申します」
顔を上げ、眉間に皺を寄せた髪の長い男の目を見つめ、口を開く。
「先程…京の町で浪士達と斬り合いになった際…囲まれてしまったところを、彼に助けていただきました」
呆れたような表情を浮かべる土方という男。
「ハァ…斬り合いっておまえ‥‥」
彼に小言を言われそうになり、即座に言葉を続けた。
「この方に…助けて頂いて本当に感謝しています…そして…貴方の仰る通り私は女です」
最初に驚きの声を上げたのは、助けてくれた人だった。
「何…ほんとに女なの? 態々…男物の着物なんか着て…君、変わってるね」
変に思われても、それは当然の事。
女が男物の着物を纏っているなんて、普通では有り得ない。
「こら総司! 失礼を言って申し訳ない」
見るからに怪しい私に、丁寧に頭を下げてくれる優しい男。
「いえ…怪しまれるのは当然の事…女の身では…旅も十分に出来ないのではと…自ら呉服屋で用意した着物なのです…」
真剣な眼差しで、私を見つめる近藤さん。
「なる程…それで…何故…態々一人で旅をしているんだい?」
返答に困り、俯く私。
「‥‥‥‥‥」
男は畳を見つめる私に、優しく問いかける。
「何か…言えない事情が有るんだね?」
暫く続いた沈黙。
私は、意を決し少しだけ事情を話す事にした。
幼い頃、住んでいた里が襲われた事。
そして、京に来る前に江戸で得た、その襲撃に対する少しの手掛かりについてを語った。
話終えると、先程まで微笑んでいたその顔は神妙な面持ちへと変わった。
「そうか‥‥嘸かし辛かっただろう‥‥」
自分の事のように、辛そうな表情を浮かべる近藤さん。
「いえ…先程話した通り…私を拾ってくださった方は…とても情に深く…まるで実の子の様に育ててくださったので幸せでした‥‥」
真剣に、私の話に耳を傾ける彼に、微笑みかけながら、言葉を続けた。
「ですが‥‥やはり…その日の事は忘れる事ができず…真実を探る為…旅に出る事を決めました」
ずっと、何か考えている様子の男が、眉間に皺を寄せたまま口を開く。
「真実って…何か手掛かりはあるのか?」
彼の問に、深く頷く。
「江戸で… "雪村 綱道" という男の名を耳にしました…その男なら…何らかの手掛かりを知っている筈なので…京に居るという噂を聞き…探しに来ました」
三人は目を見開き、私を見る。
「 雪村 綱道 だと‥‥!」
驚いた表情のまま、固まる彼らに問いかける。
「 雪村 綱道 を…ご存知なんですか?」
我に返った近藤さんが口を開く。
「 その事だが‥‥」
近藤さんは気まずそうに、隣に座る男に目線を移す。
「実は…ある事情があってオレ達、新撰組も "雪村 綱道" を探している所なんだ」
驚いた私は、近藤さんと土方さんを交互に見遣る。
「え‥‥貴方達もですか‥‥?」
同時に、頷く二人。
「そうだ…!もし君が良ければなんだけど…オレ達と一緒に探さないか?」
近藤さんの誘いに驚いたのは、私よりも土方さんの方だった。
「おい!近藤さん!正気か…?」
彼の言葉に深く頷く近藤さん。
「同じ人物を探しているんだ…皆で探すほうが見つかるのも早い!それに…今は隊士も足りてない…剣を扱えるなら協力してくれると助かるんだ…トシもそう思わないか?」
何か諦めたように、土方さんは私を見つめ、口を開いた。
「ハァ…あんたがそこまで言うならわかった…その代わりゆき、おまえも新撰組の一員として此処に置くんだ…例外なく法度は守ってもらう…いいな?」
私も彼を見つめ、深く頷いた。
「わかりました…それでは…お世話になります」
こうして私は、新撰組に隊士として身を置く事となった。
目の前に、二人の男が現れ鎮座する。
「近藤さん! 隊士を募集してるって言ってたからちゃんと腕が立つ子を連れて来てあげたよ!」
私をここまで引っ張ってきた男が、嬉しそうに口を開いた。
「大方…総司が無理に連れて来てしまったんだろう…すまなかった」
近藤さんと呼ばれる優しそうな目をした男が、溜息を吐きながら頭を下げる。
「ハァ…何考えてんだ…総司」
近藤さんの横で、更に深く溜息を吐く男の眉間に皺が寄る。
「総司…こいつは女だろう‥‥」
刹那、心臓が脈を打つ。
上手く男装していた筈なのに、見破られていた事に焦りを覚える私。
「はあ?何言ってるの…土方さん…僕は男にしか見えないけど?」
総司という男は首を傾げ、怪訝そうな表情を浮かべた。
「トシ…それは失礼じゃないか…」
近藤さんも不思議そうな顔で隣の男を見遣る。
「近藤さん…あんたもか‥‥」
再び深い溜息を吐き、こちらに鋭い双眼を向ける男。
「男装なんかしやがって…おまえは一体何者だ」
刺すような視線を向けられ少々臆したが、私は姿勢を正し、目の前の三人に向かって丁寧に頭を下げた。
「私は… 一ノ瀬 ゆき と申します」
顔を上げ、眉間に皺を寄せた髪の長い男の目を見つめ、口を開く。
「先程…京の町で浪士達と斬り合いになった際…囲まれてしまったところを、彼に助けていただきました」
呆れたような表情を浮かべる土方という男。
「ハァ…斬り合いっておまえ‥‥」
彼に小言を言われそうになり、即座に言葉を続けた。
「この方に…助けて頂いて本当に感謝しています…そして…貴方の仰る通り私は女です」
最初に驚きの声を上げたのは、助けてくれた人だった。
「何…ほんとに女なの? 態々…男物の着物なんか着て…君、変わってるね」
変に思われても、それは当然の事。
女が男物の着物を纏っているなんて、普通では有り得ない。
「こら総司! 失礼を言って申し訳ない」
見るからに怪しい私に、丁寧に頭を下げてくれる優しい男。
「いえ…怪しまれるのは当然の事…女の身では…旅も十分に出来ないのではと…自ら呉服屋で用意した着物なのです…」
真剣な眼差しで、私を見つめる近藤さん。
「なる程…それで…何故…態々一人で旅をしているんだい?」
返答に困り、俯く私。
「‥‥‥‥‥」
男は畳を見つめる私に、優しく問いかける。
「何か…言えない事情が有るんだね?」
暫く続いた沈黙。
私は、意を決し少しだけ事情を話す事にした。
幼い頃、住んでいた里が襲われた事。
そして、京に来る前に江戸で得た、その襲撃に対する少しの手掛かりについてを語った。
話終えると、先程まで微笑んでいたその顔は神妙な面持ちへと変わった。
「そうか‥‥嘸かし辛かっただろう‥‥」
自分の事のように、辛そうな表情を浮かべる近藤さん。
「いえ…先程話した通り…私を拾ってくださった方は…とても情に深く…まるで実の子の様に育ててくださったので幸せでした‥‥」
真剣に、私の話に耳を傾ける彼に、微笑みかけながら、言葉を続けた。
「ですが‥‥やはり…その日の事は忘れる事ができず…真実を探る為…旅に出る事を決めました」
ずっと、何か考えている様子の男が、眉間に皺を寄せたまま口を開く。
「真実って…何か手掛かりはあるのか?」
彼の問に、深く頷く。
「江戸で… "雪村 綱道" という男の名を耳にしました…その男なら…何らかの手掛かりを知っている筈なので…京に居るという噂を聞き…探しに来ました」
三人は目を見開き、私を見る。
「 雪村 綱道 だと‥‥!」
驚いた表情のまま、固まる彼らに問いかける。
「 雪村 綱道 を…ご存知なんですか?」
我に返った近藤さんが口を開く。
「 その事だが‥‥」
近藤さんは気まずそうに、隣に座る男に目線を移す。
「実は…ある事情があってオレ達、新撰組も "雪村 綱道" を探している所なんだ」
驚いた私は、近藤さんと土方さんを交互に見遣る。
「え‥‥貴方達もですか‥‥?」
同時に、頷く二人。
「そうだ…!もし君が良ければなんだけど…オレ達と一緒に探さないか?」
近藤さんの誘いに驚いたのは、私よりも土方さんの方だった。
「おい!近藤さん!正気か…?」
彼の言葉に深く頷く近藤さん。
「同じ人物を探しているんだ…皆で探すほうが見つかるのも早い!それに…今は隊士も足りてない…剣を扱えるなら協力してくれると助かるんだ…トシもそう思わないか?」
何か諦めたように、土方さんは私を見つめ、口を開いた。
「ハァ…あんたがそこまで言うならわかった…その代わりゆき、おまえも新撰組の一員として此処に置くんだ…例外なく法度は守ってもらう…いいな?」
私も彼を見つめ、深く頷いた。
「わかりました…それでは…お世話になります」
こうして私は、新撰組に隊士として身を置く事となった。