戦乱の刻
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京へ入ろうとした、幕府軍と薩摩兵との間に、諍いが起こり、発砲した事がきっかけで開戦。
総勢1万5000の幕府軍と、僅か5000の薩摩連合軍との闘いが幕を開けた。
明らかな兵力差により、幕府軍側が有利だと、誰もが思っていた。
しかし、薩摩連合軍は、最新鋭の砲弾や鉄砲を所持しており、剣で戦う幕府軍は、最新兵器の前に圧倒され、撤退を余儀なくされる。
「淀藩に、撤退の救援を要請したいが…俺がここを離れる訳にもいかねぇ」
土方さんは、困難を極め、窮地に立たされた新撰組を、どうにか救おうと、一人思い悩んでいた。
「私が行きます!私に行かせてください」
そんな彼を助けたい一心で、千鶴は手を上げる。
「千鶴…お前には無理だ」
否定する副長に、更に勢いを増し、抗議する千鶴。
「無理じゃありません!私も土方さんの為に…皆さんの為に、何か力になりたいんです!」
強い意思を宿した彼女の瞳。
私はそんな彼女を助けたいと思い、立ち上がった。
「土方さん、私が一緒に行きます」
眉間に皺を寄せ、溜息を吐く土方さん。
「ゆき、千鶴が戦場に出る事が、どれだけ危険かわかって言ってんのか」
鋭い双眼に睨まれた私は、それに動じる事なく、言葉を続ける。
「承知しています…だからこそ、私が一緒に行くと申し出ています」
互いに一歩も引かず、視線を絡ませる二人。
「トシさん、私もお二人に同行しましょう」
黙って様子を伺っていた幹部の一人が、私と千鶴の強い味方になってくれた。
「井上さんまで‥‥」
諦めたように、深く息を吐く副長。
彼が同行の提案をしてくれたお陰で、千鶴の願いは届き、私達は伝令を任される事になった。
「土方さん、有難うございます!私…必ずやり遂げます!」
嬉しそうに、頭を下げる千鶴。
「必ず無事に戻って来いよ」
土方さんは彼女の髪を撫でると、優しい笑みを浮かべた。
当の本人達は、気付いているのか、いないのか。
他人の感情に疎い私でも、二人の瞳に宿る、一つの想いを汲み取る事ができた。
この任務は、何があっても必ず成し遂げる。
千鶴の秘めた想いを、成就させてあげたい。
「千鶴さん、貴方の事は私が必ず守ります」
二人の為に、私は強い想いで走り出す。
決して、後ろを振り返る事なく、淀藩に向け、足早に歩を進めた。
ーーーーーーーーーーーーーー
山道付近に到着した私達は、言い知れぬ違和感を感じ、辺りを見回した。
既に、淀藩陣営の近くだというのに、其処に居る筈の兵が、全く見当たらない。
「井上さん‥‥これは」
足を止める私達。
「既に…寝返っていたようですね…」
森に潜む気配を捉え、二人で千鶴を囲むようにして、立ち塞ぐ。
「あれは‥‥錦の旗…!」
此方に銃口を向ける、淀藩の兵士を視界に捉えた。
「そういう事ですか‥‥井上さん…千鶴さんを連れて引き返してください」
二人を守る為、半歩前に出た私。
井上さんは、更に一歩踏み出し、静かに口を開いた。
「早く逃げなさい…そして、トシさんに伝えてくれ…力不足で申し訳ない…最後まで共に在れなかった事を許してほしい…」
瞼を閉じる井上さん。
「こんな私を…京まで一緒に連れてきてくれて…最後まで…夢を見させてくれて、感謝している…とね」
まるで、遺言のような言葉。
井上さんは、穏やかに笑っていた。
「だめです…!!井上さんも一緒に…!」
飛び出そうとする千鶴を止め、引き摺る様に身を翻した私。
「ゆきさん!離して!井上さんを見殺しにする気ですか!」
彼女の言葉に、思わず拳を握り締めた。
「では千鶴さん…貴方は、井上さんの…武士としての誇りを、踏みにじる気ですか」
俯く千鶴。
「でも‥‥ゆきさん…」
彼女は声を殺し、涙を流した。
「彼を見殺しになんてしません…貴方を無事に届けたら、すぐに助けに行くつもりです」
彼女を見つめ、頷きながら諭す様に語りかける。
「それなら、私は一人で戻れます!行ってください、ゆきさん」
本当は、私だってあの場に残りたかった。
言い出したら引き下がらない千鶴に押され、私は井上さんを助けに戻ることにした。
先程の場所へと、辿り着いた瞬間。
「……………!」
無情にも、地に伏せた男の胸に、鋭い刀が突き立てられた。
私は考えるよりも先に、鬼の力を開放し、その場に居た淀藩の兵士達を、全て容赦なく斬り伏せた。
「井上さん、飲んでください!」
御守にと、渡していた小瓶を、彼の懐から取り出し、蓋を開けて口へ流し込む。
「何故‥‥何故飲まないんですか!早くしないと貴方は‥‥」
井上さんは、首を横に振り、変若水を全て吐き出した。
「い…や…井上さん…何故…」
溢れる雫が、腕に抱えた男の頬や額に、一滴また一滴、静かに零れ落ちる。
「私は大切な人達を護り、戦って散る事を決めたんだ…ゆきさん…すまない‥‥有難う‥‥」
信じられない程、穏やかな表情で最後の想いを語る井上さん。
堂々たる武士の散り様。
森の奥に、敵の兵士達を捉えてはいたが、私は動かなくなった彼を抱えたまま、その手を離す事が出来なかった。
総勢1万5000の幕府軍と、僅か5000の薩摩連合軍との闘いが幕を開けた。
明らかな兵力差により、幕府軍側が有利だと、誰もが思っていた。
しかし、薩摩連合軍は、最新鋭の砲弾や鉄砲を所持しており、剣で戦う幕府軍は、最新兵器の前に圧倒され、撤退を余儀なくされる。
「淀藩に、撤退の救援を要請したいが…俺がここを離れる訳にもいかねぇ」
土方さんは、困難を極め、窮地に立たされた新撰組を、どうにか救おうと、一人思い悩んでいた。
「私が行きます!私に行かせてください」
そんな彼を助けたい一心で、千鶴は手を上げる。
「千鶴…お前には無理だ」
否定する副長に、更に勢いを増し、抗議する千鶴。
「無理じゃありません!私も土方さんの為に…皆さんの為に、何か力になりたいんです!」
強い意思を宿した彼女の瞳。
私はそんな彼女を助けたいと思い、立ち上がった。
「土方さん、私が一緒に行きます」
眉間に皺を寄せ、溜息を吐く土方さん。
「ゆき、千鶴が戦場に出る事が、どれだけ危険かわかって言ってんのか」
鋭い双眼に睨まれた私は、それに動じる事なく、言葉を続ける。
「承知しています…だからこそ、私が一緒に行くと申し出ています」
互いに一歩も引かず、視線を絡ませる二人。
「トシさん、私もお二人に同行しましょう」
黙って様子を伺っていた幹部の一人が、私と千鶴の強い味方になってくれた。
「井上さんまで‥‥」
諦めたように、深く息を吐く副長。
彼が同行の提案をしてくれたお陰で、千鶴の願いは届き、私達は伝令を任される事になった。
「土方さん、有難うございます!私…必ずやり遂げます!」
嬉しそうに、頭を下げる千鶴。
「必ず無事に戻って来いよ」
土方さんは彼女の髪を撫でると、優しい笑みを浮かべた。
当の本人達は、気付いているのか、いないのか。
他人の感情に疎い私でも、二人の瞳に宿る、一つの想いを汲み取る事ができた。
この任務は、何があっても必ず成し遂げる。
千鶴の秘めた想いを、成就させてあげたい。
「千鶴さん、貴方の事は私が必ず守ります」
二人の為に、私は強い想いで走り出す。
決して、後ろを振り返る事なく、淀藩に向け、足早に歩を進めた。
ーーーーーーーーーーーーーー
山道付近に到着した私達は、言い知れぬ違和感を感じ、辺りを見回した。
既に、淀藩陣営の近くだというのに、其処に居る筈の兵が、全く見当たらない。
「井上さん‥‥これは」
足を止める私達。
「既に…寝返っていたようですね…」
森に潜む気配を捉え、二人で千鶴を囲むようにして、立ち塞ぐ。
「あれは‥‥錦の旗…!」
此方に銃口を向ける、淀藩の兵士を視界に捉えた。
「そういう事ですか‥‥井上さん…千鶴さんを連れて引き返してください」
二人を守る為、半歩前に出た私。
井上さんは、更に一歩踏み出し、静かに口を開いた。
「早く逃げなさい…そして、トシさんに伝えてくれ…力不足で申し訳ない…最後まで共に在れなかった事を許してほしい…」
瞼を閉じる井上さん。
「こんな私を…京まで一緒に連れてきてくれて…最後まで…夢を見させてくれて、感謝している…とね」
まるで、遺言のような言葉。
井上さんは、穏やかに笑っていた。
「だめです…!!井上さんも一緒に…!」
飛び出そうとする千鶴を止め、引き摺る様に身を翻した私。
「ゆきさん!離して!井上さんを見殺しにする気ですか!」
彼女の言葉に、思わず拳を握り締めた。
「では千鶴さん…貴方は、井上さんの…武士としての誇りを、踏みにじる気ですか」
俯く千鶴。
「でも‥‥ゆきさん…」
彼女は声を殺し、涙を流した。
「彼を見殺しになんてしません…貴方を無事に届けたら、すぐに助けに行くつもりです」
彼女を見つめ、頷きながら諭す様に語りかける。
「それなら、私は一人で戻れます!行ってください、ゆきさん」
本当は、私だってあの場に残りたかった。
言い出したら引き下がらない千鶴に押され、私は井上さんを助けに戻ることにした。
先程の場所へと、辿り着いた瞬間。
「……………!」
無情にも、地に伏せた男の胸に、鋭い刀が突き立てられた。
私は考えるよりも先に、鬼の力を開放し、その場に居た淀藩の兵士達を、全て容赦なく斬り伏せた。
「井上さん、飲んでください!」
御守にと、渡していた小瓶を、彼の懐から取り出し、蓋を開けて口へ流し込む。
「何故‥‥何故飲まないんですか!早くしないと貴方は‥‥」
井上さんは、首を横に振り、変若水を全て吐き出した。
「い…や…井上さん…何故…」
溢れる雫が、腕に抱えた男の頬や額に、一滴また一滴、静かに零れ落ちる。
「私は大切な人達を護り、戦って散る事を決めたんだ…ゆきさん…すまない‥‥有難う‥‥」
信じられない程、穏やかな表情で最後の想いを語る井上さん。
堂々たる武士の散り様。
森の奥に、敵の兵士達を捉えてはいたが、私は動かなくなった彼を抱えたまま、その手を離す事が出来なかった。