戦乱の刻
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暗く、重たい空から舞い落ちる雪の結晶。
辺り一面が白銀の世界に変わる。
私は、凍える手に白い息を吹きかけながら、屯所内の長い廊下を歩いていた。
あまりの寒さに耐え兼ね、巡察に出る隊士以外は皆、自室に篭っていた。
「失礼します」
屯所内、最奥の部屋。
普段、誰も近寄らない場所に位置する部屋へ、足を踏み入れる。
「寒かったでしょう…誰にも逢いませんでしたか?」
部屋の主は、いつもと変わらぬ笑顔で私を迎え入れてくれた。
「はい…この寒さでは皆、部屋から出て来ないので普段より来やすかったです」
互いに微笑み合う、山南さんと私。
「有難うございます…」
差し出された温かいお茶を一口含み、口を開いた。
「それで、山南さん…成果はありましたか?」
彼の目を見つめ、問い掛ける。
「‥‥そうですね、成功と言っていいでしょう…無事完成したようです…」
"成功" という言葉とは裏腹に、山南さんは哀しそうな表情で、答えを口にした。
「よかった…無理なお願いをしてしまって本当に申し訳ありませんでした」
私は、丁寧に頭を下げた。
「謝る必要はありません…私も貴方も、新撰組の事を想ってした事ですから」
"新撰組の為" それは確かに、皆を守りたいという想い。
けれどもし、この薬が他に渡ったら、それは世界の根底を覆してしまう程の脅威。
《完全な変若水》
飲めば純粋な鬼の力と同等の力と、治癒力を授かる薬。
昼も夜も関係なく、自身の力を操る事が出来る “完全な羅刹” 。
その力は自身の寿命ではなく、ゆきの鬼の血を配合した事によるもの。
それ故、寿命で力尽き、灰になる事もない。
私達はそれを、指で数えられる程度の僅かな量だけ生産した。
配合など、薬に関する資料は、全て廃棄し、誰の目にも触れないよう、処理を行った。
「山南さん…貴方にこれ以上迷惑はかけられません…薬は全て、私が預かります」
責任は全て私が追う、最初から、そう決めていた。
それなのに、差し出した私の掌に、半分だけ小瓶を乗せた彼は、穏やかに微笑みながら、口を開いた。
「いいえ、ゆきさん…背負う物は、重すぎると潰れてしまいます…貴方と私、半分ずつで丁度いいと思いますよ」
そう言って、残りの小瓶を懐に仕舞い込んだ彼は、私が何か言う前に、立ち上がり、何処かへ消えてしまった。
「いつも…助けて頂いてばかりです…」
小さく呟いて、彼の去って行った方角を見つめる。
「本当に…有難うございます…」
心から礼を述べた私は、静かに部屋を後にした。
(あの人に知られたら軽蔑するかな‥‥)
月灯りの中、深々と降り続く雪。
不意に浮かんだ鬼の顔を払うように、頭を二三度横に振り、私は自室へと戻った。
辺り一面が白銀の世界に変わる。
私は、凍える手に白い息を吹きかけながら、屯所内の長い廊下を歩いていた。
あまりの寒さに耐え兼ね、巡察に出る隊士以外は皆、自室に篭っていた。
「失礼します」
屯所内、最奥の部屋。
普段、誰も近寄らない場所に位置する部屋へ、足を踏み入れる。
「寒かったでしょう…誰にも逢いませんでしたか?」
部屋の主は、いつもと変わらぬ笑顔で私を迎え入れてくれた。
「はい…この寒さでは皆、部屋から出て来ないので普段より来やすかったです」
互いに微笑み合う、山南さんと私。
「有難うございます…」
差し出された温かいお茶を一口含み、口を開いた。
「それで、山南さん…成果はありましたか?」
彼の目を見つめ、問い掛ける。
「‥‥そうですね、成功と言っていいでしょう…無事完成したようです…」
"成功" という言葉とは裏腹に、山南さんは哀しそうな表情で、答えを口にした。
「よかった…無理なお願いをしてしまって本当に申し訳ありませんでした」
私は、丁寧に頭を下げた。
「謝る必要はありません…私も貴方も、新撰組の事を想ってした事ですから」
"新撰組の為" それは確かに、皆を守りたいという想い。
けれどもし、この薬が他に渡ったら、それは世界の根底を覆してしまう程の脅威。
《完全な変若水》
飲めば純粋な鬼の力と同等の力と、治癒力を授かる薬。
昼も夜も関係なく、自身の力を操る事が出来る “完全な羅刹” 。
その力は自身の寿命ではなく、ゆきの鬼の血を配合した事によるもの。
それ故、寿命で力尽き、灰になる事もない。
私達はそれを、指で数えられる程度の僅かな量だけ生産した。
配合など、薬に関する資料は、全て廃棄し、誰の目にも触れないよう、処理を行った。
「山南さん…貴方にこれ以上迷惑はかけられません…薬は全て、私が預かります」
責任は全て私が追う、最初から、そう決めていた。
それなのに、差し出した私の掌に、半分だけ小瓶を乗せた彼は、穏やかに微笑みながら、口を開いた。
「いいえ、ゆきさん…背負う物は、重すぎると潰れてしまいます…貴方と私、半分ずつで丁度いいと思いますよ」
そう言って、残りの小瓶を懐に仕舞い込んだ彼は、私が何か言う前に、立ち上がり、何処かへ消えてしまった。
「いつも…助けて頂いてばかりです…」
小さく呟いて、彼の去って行った方角を見つめる。
「本当に…有難うございます…」
心から礼を述べた私は、静かに部屋を後にした。
(あの人に知られたら軽蔑するかな‥‥)
月灯りの中、深々と降り続く雪。
不意に浮かんだ鬼の顔を払うように、頭を二三度横に振り、私は自室へと戻った。