始まりの刻
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襲撃を受け、宛もなく彷徨っていた私は、優しい老夫婦に拾われ育てられた。
七年の歳月。
何処の誰ともわからない子供に、精一杯の愛情を注いでくれた二人。
彼らのお蔭で、十四になるまで、何不自由ない生活を送ることが出来た。
「本当に…お世話になりました」
旅立つことを決めた私は、二人に別れを告げる。
「道中…気をつけるんですよ」
眉を下げ、少し寂しそうに微笑む老婆。
「いつでもここへ帰っておいで…」
彼女の夫も、優しく手を握ってくれた。
「はい‥‥! 必ずまた戻って来ます‥‥」
親同然の老夫婦の元を離れるのは、本当に辛いことだった。
それでも、あの日の事、父と母のことを忘れるなんて出来ない。
二人に全てを明かし、七年の年月を過ごしたこの場所から旅立つことを決めた私は、老夫婦に別れを告げ歩き始めた。
ー止まっていた時間が、動き出すー
老夫婦の元を離れ、二月程の旅をして、漸く京へと辿り着いた。
町へ入ると程なく、商店の建ち並ぶある一角に、何やら人だかりが出来ているのを見つけた。
人混みを掻き分け、近づいてみる。
人間同士の争いには普段、決して手を出さないが、自分と変らぬ年頃の少女が、不貞浪士達に絡まれ、まさに今、目の前で斬られようとしている。
思わず溜息が洩れた。
少女に向け、振り下ろされた浪士の刀を鞘で弾く。
剣を抜き、浪士達に切先を向けた。
「怪我をしたくなければ…刀を納めてください」
少し低めの声で相手を威嚇する。
彼等は一瞬焦りの色を見せたが、すぐに剣を向き直した。
「生意気な小僧め!」
浪士の一人が、私に斬りかかって来た。
その剣を軽く避け、素早く相手を斬り伏せる。
その様子を見ていた浪士達は、一人ずつでは敵わないと思ったのか、一斉に私の周りを取り囲んだ。
(ああ…囲まれてしまいました)
鬼は、人間より遥かに治癒力が高い。
斬られた傷も一瞬で塞がってしまう為、周りを囲む見物人達に悟られないように戦うのは、少々分が悪かった。
(どうしましょう…)
解決策が見出だせないままだった私の心中を、知ってか知らずか一斉に斬りかかってきた浪士達。
(やるしか…なさそうですね…)
降り掛かる斬撃の軌道を冷静に読み、相手の剣を交わしながら受ける。
それと同時に、脇から抜いた小太刀で一人、また一人と急所を付いていった。
(鬼の力が使えたら一瞬なんですけど…)
振り下ろされたニ本の刀を受けた瞬間、後ろから斬りかかって来る浪士を視界に捉えた。
「ここまでですか‥‥‥」
覚悟を決め、強く目を瞑る。
「‥‥‥‥‥? 」
一向に襲って来ない斬撃。
不思議に思いながら、ゆっくりと瞼を開けた。
「え…?」
視界には一面の青と誠の一文字。
「君…目なんか瞑っちゃって…斬られたいの?
そんなに斬られたいなら僕が斬ってあげるよ」
揃いの羽織に、鉢巻を巻いた男達が私と浪士の間に庇うように立っていた。
(この人は一体…)
助けてくれた割に、物騒な事を言う彼に少し戸惑う私。
「…斬られたくないです…ありがとうございました」
一応、礼を述べておいた。
「そう…残念…それじゃぁ残りさっさとやっちゃうよ!僕が三人だからね…仕方なく君にニ人斬らせてあげるよ!」
嬉しそうな顔で浪士達に向き直る男。
「え…?はい…わかりました…」
よくわからない事を言って背を向けた彼に背中を預け、目の前の浪士に集中する。
今度は一瞬だった。
風を斬るかの如くニ人を地面に斬り伏せて、後ろを振り返ると、既に三人共地面に転がっていた。
「ちょっと…君達これ…片付けておいて」
同じ誠の羽織を着た人達に支持を出す男。
「わかりました!組長!」
彼らは命に従い速やかに、地に伏せる浪士達を片付け始めた。
“組長”と呼ばれた男の方に目を移すと、不思議そうな表情の彼と視線が絡む。
「君…割と強いよね…? なんで後ろを取られたくらいで焦ってたの? あんなの掠り傷程度で済んでたよね?」
鋭い視線で見つめられ、答え難い問を投げる彼から瞬時に目線を逸らす。
焦る気持ちを抑え、必死に問の答えを探していると、突然腕を掴まれた。
「君さ…ちょっとついて来て!」
強引に手を引かれ、無理矢理つれて来られたのは、町の中心からは少し離れた場所に建つ、大きな屋敷の前だった。
七年の歳月。
何処の誰ともわからない子供に、精一杯の愛情を注いでくれた二人。
彼らのお蔭で、十四になるまで、何不自由ない生活を送ることが出来た。
「本当に…お世話になりました」
旅立つことを決めた私は、二人に別れを告げる。
「道中…気をつけるんですよ」
眉を下げ、少し寂しそうに微笑む老婆。
「いつでもここへ帰っておいで…」
彼女の夫も、優しく手を握ってくれた。
「はい‥‥! 必ずまた戻って来ます‥‥」
親同然の老夫婦の元を離れるのは、本当に辛いことだった。
それでも、あの日の事、父と母のことを忘れるなんて出来ない。
二人に全てを明かし、七年の年月を過ごしたこの場所から旅立つことを決めた私は、老夫婦に別れを告げ歩き始めた。
ー止まっていた時間が、動き出すー
老夫婦の元を離れ、二月程の旅をして、漸く京へと辿り着いた。
町へ入ると程なく、商店の建ち並ぶある一角に、何やら人だかりが出来ているのを見つけた。
人混みを掻き分け、近づいてみる。
人間同士の争いには普段、決して手を出さないが、自分と変らぬ年頃の少女が、不貞浪士達に絡まれ、まさに今、目の前で斬られようとしている。
思わず溜息が洩れた。
少女に向け、振り下ろされた浪士の刀を鞘で弾く。
剣を抜き、浪士達に切先を向けた。
「怪我をしたくなければ…刀を納めてください」
少し低めの声で相手を威嚇する。
彼等は一瞬焦りの色を見せたが、すぐに剣を向き直した。
「生意気な小僧め!」
浪士の一人が、私に斬りかかって来た。
その剣を軽く避け、素早く相手を斬り伏せる。
その様子を見ていた浪士達は、一人ずつでは敵わないと思ったのか、一斉に私の周りを取り囲んだ。
(ああ…囲まれてしまいました)
鬼は、人間より遥かに治癒力が高い。
斬られた傷も一瞬で塞がってしまう為、周りを囲む見物人達に悟られないように戦うのは、少々分が悪かった。
(どうしましょう…)
解決策が見出だせないままだった私の心中を、知ってか知らずか一斉に斬りかかってきた浪士達。
(やるしか…なさそうですね…)
降り掛かる斬撃の軌道を冷静に読み、相手の剣を交わしながら受ける。
それと同時に、脇から抜いた小太刀で一人、また一人と急所を付いていった。
(鬼の力が使えたら一瞬なんですけど…)
振り下ろされたニ本の刀を受けた瞬間、後ろから斬りかかって来る浪士を視界に捉えた。
「ここまでですか‥‥‥」
覚悟を決め、強く目を瞑る。
「‥‥‥‥‥? 」
一向に襲って来ない斬撃。
不思議に思いながら、ゆっくりと瞼を開けた。
「え…?」
視界には一面の青と誠の一文字。
「君…目なんか瞑っちゃって…斬られたいの?
そんなに斬られたいなら僕が斬ってあげるよ」
揃いの羽織に、鉢巻を巻いた男達が私と浪士の間に庇うように立っていた。
(この人は一体…)
助けてくれた割に、物騒な事を言う彼に少し戸惑う私。
「…斬られたくないです…ありがとうございました」
一応、礼を述べておいた。
「そう…残念…それじゃぁ残りさっさとやっちゃうよ!僕が三人だからね…仕方なく君にニ人斬らせてあげるよ!」
嬉しそうな顔で浪士達に向き直る男。
「え…?はい…わかりました…」
よくわからない事を言って背を向けた彼に背中を預け、目の前の浪士に集中する。
今度は一瞬だった。
風を斬るかの如くニ人を地面に斬り伏せて、後ろを振り返ると、既に三人共地面に転がっていた。
「ちょっと…君達これ…片付けておいて」
同じ誠の羽織を着た人達に支持を出す男。
「わかりました!組長!」
彼らは命に従い速やかに、地に伏せる浪士達を片付け始めた。
“組長”と呼ばれた男の方に目を移すと、不思議そうな表情の彼と視線が絡む。
「君…割と強いよね…? なんで後ろを取られたくらいで焦ってたの? あんなの掠り傷程度で済んでたよね?」
鋭い視線で見つめられ、答え難い問を投げる彼から瞬時に目線を逸らす。
焦る気持ちを抑え、必死に問の答えを探していると、突然腕を掴まれた。
「君さ…ちょっとついて来て!」
強引に手を引かれ、無理矢理つれて来られたのは、町の中心からは少し離れた場所に建つ、大きな屋敷の前だった。