戦乱の刻
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三条制札を守った事により、幕府から報奨金を得た新撰組は、島原で宴会を開いていた。
その宴会場で、“角屋に 雪村 綱道 が出入りしている” との情報を得た私達。
真相を探る為、私と千鶴が角屋の芸子達に混ざり、潜入する事となった。
「ゆきさんまで付き合わせてしまって…申し訳ありません…」
潜入したいと、手を上げた千鶴が小さく呟く。
「そんな顔しないでください…その着物、凄く似合ってますよ」
優しく微笑んで見せる私。
「本当ですか‥‥?嬉しいです…ゆきさん…ありがとうございます」
千鶴の芸子姿は本当に可愛くて、潜入中に酔っ払いに絡まれないか心配だったので、平助君に護衛を頼む事にした。
「おうっ!任せとけ!」
意気込む彼に千鶴を預け、私も急いで着替える。
「ゆきさんの着物はこれです…!」
千鶴が町で仲良くなった千という女の子と、君菊という角屋の芸子さんが着物を貸してくれ、着付けも手伝ってくれた。
「出来ました…!千鶴ちゃんも可愛かったけど…ゆきさん…凄く綺麗です!」
賛辞の言葉と、久し振りの女の装いに照れた私は、俯きながら礼を述べる。
「ありがとうございます…本当に助かりました」
豪華な着物の家紋に、見覚えがある。
気にはなったが、今は大切な任務中だった為、いずれ詳しく尋ねようと、何も聞かず私は部屋を後にした。
「斎藤さん、お待たせしました」
部屋の外で、待っていてくれた斎藤さんと合流する。
「ゆき…!」
私も、千鶴の後を追い、座敷へ向かおうと歩を進めるが、同行する筈の斎藤さんが、何故かその場から動こうとしない。
「斎藤さん?」
近くまで戻り、彼の顔を覗き込む。
「ちょっと待ってくれ…!」
凄い勢いで私に背を向け、何やら呟き始めた斎藤さん。
「よし…もう大丈夫だ!ゆき、行くぞ」
漸く此方を向き、一歩踏み出そうとした彼だったが、目が合うと、再び背を向けてしまった。
「ゆき、すまないが先に行っててくれ‥‥」
何やら大変そうな斎藤さんを置いて、私は攘夷浪士達が居る座敷へと、歩を進める。
目的の場所へは、あと一つ角を曲がれば着くというところで、思わぬ人と出くわしてしまった。
「ゆき、何故そんな格好をしている…新撰組は何を考えている」
無表情で在りながら、僅かに怒気を含ませた男の声に、焦りを覚える。
「風間さん…! これは…」
理由を述べようとしたが叶わず、近くの使われていない座敷へと、無理矢理腕を引かれる。
「離してくださいっ…!風間さん!」
勢い良く組み敷かれ、真紅の双眼に睨まれた私。
吸い込まれるような瞳に、動けずにいると、一泊の間を置いて、柔らかな彼の唇が私に激しく喰らいついた。
「…や…めて…くだ…い…」
緩と押し込まれた舌の感触に、身体の力が抜けて行く。
絶間なく襲い来る初めての感覚に、涙が溢れ出す。
息苦しくて、耐えられなくなった私は、精一杯の力で彼の胸を押し返した。
艶めいた瞳で、私を見つめる風間さん。
「煽っているのか…ゆき…その様な格好で彷徨くなど…襲われても文句はいえん」
私は両手で彼を突き放し、言葉を返した。
「煽ってなどいません! 任務中です…離してください」
起きようとする私の身体を、いとも簡単に押さえ付ける風間さんは、愉しそうに口角を上げ囁いた。
「フッ…その願いは叶えてやれそうもないな…」
右手で私の両の腕を捉え、瞳から零れる涙をもう片方の手で優しく拭う。
左手が、私の顎に添えられた瞬間、再び、深い口付けが落とされた。
どれ程の時が経ったのか、わからない。
何度、腕の中から抜け出そうと藻掻いてみても、開放されるどころか、一層きつく私を抱き竦め、離してはくれない。
「もう…離してください‥‥きっと…皆さんが…探しています」
漸く、顔を逸らす事に成功した私は、開放を懇願する。
「矢張…お前を、あの様な人間に預けたのが間違いだった」
彼の言葉に憤りを感じ、反論する。
「見届けてくれるって言っていたのに…約束を破るんですか…」
少し力を緩めた一瞬の隙をついて、漸く彼の腕から抜け出した私。
素早く距離を取り、僅かに乱れた着物を整える。
身を翻し、襖に手をかけた瞬間、風間さんは私を背後から抱き竦め、小さな声で囁いた。
「ゆき…二度と…俺以外の前で…この様な美しい姿を晒すな…」
頬が紅く染まって行く。
慌てて彼を振り払い、部屋から飛び出ると、何やら外は大騒ぎになっていた。
「ゆき!」
私を見つけた斎藤さんが、勢い良く此方に向かって来る。
「どこに居たんだ!ゆき!急ぎ屯所に戻るぞ!」
強い力で手を引かれ、逃げるように角屋を後にした私達。
屯所へ戻ってからも、心は紅い瞳に囚われたまま開放などされない。
手首についた跡。
私の中に深く刻まれた、彼の感触を指でなぞる。
何故か涙が頬を伝い、それが苦しい。
私は、この涙の意味を、未だ知らないでいた。
その宴会場で、“角屋に 雪村 綱道 が出入りしている” との情報を得た私達。
真相を探る為、私と千鶴が角屋の芸子達に混ざり、潜入する事となった。
「ゆきさんまで付き合わせてしまって…申し訳ありません…」
潜入したいと、手を上げた千鶴が小さく呟く。
「そんな顔しないでください…その着物、凄く似合ってますよ」
優しく微笑んで見せる私。
「本当ですか‥‥?嬉しいです…ゆきさん…ありがとうございます」
千鶴の芸子姿は本当に可愛くて、潜入中に酔っ払いに絡まれないか心配だったので、平助君に護衛を頼む事にした。
「おうっ!任せとけ!」
意気込む彼に千鶴を預け、私も急いで着替える。
「ゆきさんの着物はこれです…!」
千鶴が町で仲良くなった千という女の子と、君菊という角屋の芸子さんが着物を貸してくれ、着付けも手伝ってくれた。
「出来ました…!千鶴ちゃんも可愛かったけど…ゆきさん…凄く綺麗です!」
賛辞の言葉と、久し振りの女の装いに照れた私は、俯きながら礼を述べる。
「ありがとうございます…本当に助かりました」
豪華な着物の家紋に、見覚えがある。
気にはなったが、今は大切な任務中だった為、いずれ詳しく尋ねようと、何も聞かず私は部屋を後にした。
「斎藤さん、お待たせしました」
部屋の外で、待っていてくれた斎藤さんと合流する。
「ゆき…!」
私も、千鶴の後を追い、座敷へ向かおうと歩を進めるが、同行する筈の斎藤さんが、何故かその場から動こうとしない。
「斎藤さん?」
近くまで戻り、彼の顔を覗き込む。
「ちょっと待ってくれ…!」
凄い勢いで私に背を向け、何やら呟き始めた斎藤さん。
「よし…もう大丈夫だ!ゆき、行くぞ」
漸く此方を向き、一歩踏み出そうとした彼だったが、目が合うと、再び背を向けてしまった。
「ゆき、すまないが先に行っててくれ‥‥」
何やら大変そうな斎藤さんを置いて、私は攘夷浪士達が居る座敷へと、歩を進める。
目的の場所へは、あと一つ角を曲がれば着くというところで、思わぬ人と出くわしてしまった。
「ゆき、何故そんな格好をしている…新撰組は何を考えている」
無表情で在りながら、僅かに怒気を含ませた男の声に、焦りを覚える。
「風間さん…! これは…」
理由を述べようとしたが叶わず、近くの使われていない座敷へと、無理矢理腕を引かれる。
「離してくださいっ…!風間さん!」
勢い良く組み敷かれ、真紅の双眼に睨まれた私。
吸い込まれるような瞳に、動けずにいると、一泊の間を置いて、柔らかな彼の唇が私に激しく喰らいついた。
「…や…めて…くだ…い…」
緩と押し込まれた舌の感触に、身体の力が抜けて行く。
絶間なく襲い来る初めての感覚に、涙が溢れ出す。
息苦しくて、耐えられなくなった私は、精一杯の力で彼の胸を押し返した。
艶めいた瞳で、私を見つめる風間さん。
「煽っているのか…ゆき…その様な格好で彷徨くなど…襲われても文句はいえん」
私は両手で彼を突き放し、言葉を返した。
「煽ってなどいません! 任務中です…離してください」
起きようとする私の身体を、いとも簡単に押さえ付ける風間さんは、愉しそうに口角を上げ囁いた。
「フッ…その願いは叶えてやれそうもないな…」
右手で私の両の腕を捉え、瞳から零れる涙をもう片方の手で優しく拭う。
左手が、私の顎に添えられた瞬間、再び、深い口付けが落とされた。
どれ程の時が経ったのか、わからない。
何度、腕の中から抜け出そうと藻掻いてみても、開放されるどころか、一層きつく私を抱き竦め、離してはくれない。
「もう…離してください‥‥きっと…皆さんが…探しています」
漸く、顔を逸らす事に成功した私は、開放を懇願する。
「矢張…お前を、あの様な人間に預けたのが間違いだった」
彼の言葉に憤りを感じ、反論する。
「見届けてくれるって言っていたのに…約束を破るんですか…」
少し力を緩めた一瞬の隙をついて、漸く彼の腕から抜け出した私。
素早く距離を取り、僅かに乱れた着物を整える。
身を翻し、襖に手をかけた瞬間、風間さんは私を背後から抱き竦め、小さな声で囁いた。
「ゆき…二度と…俺以外の前で…この様な美しい姿を晒すな…」
頬が紅く染まって行く。
慌てて彼を振り払い、部屋から飛び出ると、何やら外は大騒ぎになっていた。
「ゆき!」
私を見つけた斎藤さんが、勢い良く此方に向かって来る。
「どこに居たんだ!ゆき!急ぎ屯所に戻るぞ!」
強い力で手を引かれ、逃げるように角屋を後にした私達。
屯所へ戻ってからも、心は紅い瞳に囚われたまま開放などされない。
手首についた跡。
私の中に深く刻まれた、彼の感触を指でなぞる。
何故か涙が頬を伝い、それが苦しい。
私は、この涙の意味を、未だ知らないでいた。