「ゆきちゃん、隙だらけだよ…今なら斬っちゃえそうだね」

庭掃除が手につかず、ぼんやりしていた私。

「沖田さん…！体調は…大丈夫なんですか？」

突然現れた、沖田さんに驚く。

「うん、今日は大丈夫みたいだよ」

近頃の彼は、体調が優れないようで、部屋で伏せっている日が増えていた。
　
「無理しないでくださいね…」

私の心配を余所に、悠々とした態度を取る、沖田さん。

「はいはい…風邪くらいで大袈裟だよ…君も、考え事は程々にね」

後ろを振り返った彼は、ヒラヒラと手を靡かせながら、去って行った。

彼が心配して声を掛けてくれた事は、理解していた。

沖田さんの背に向かって礼を述べ、庭の掃除を再開する。

再び、頭の中を埋め尽くす、あの夜の事。

一ノ瀬の名前で、私の正体に気付いてた風間。

総本家の鬼が、人間と共に居る事が許せないのか。

彼らを、裏切りたい訳じゃない。

私には、まだやらなければならない事がある。

「話せばわかってくれると…思ったのですが…」

消化しきれない想いを、小さな声で呟いた。

「何を話したんですか？」

（‥‥‥‥‥！）

驚いた私は、思わず後ろへ飛び退いた。

「山南さん！ やめて下さい心臓に悪いです」

悪戯が成功した時のような、無邪気な顔で笑う山南さん。

「ここのところ、何か悩んでいる様子でしたので」

思い悩んでいたのは確か。

「すいません‥‥心配掛けてしまって」

彼は、ゆっくりと首を左右に振った。

「いいんですよ…皆何かしら抱えているものです…ですがゆきさん、貴方には私達がついている…あまり思い悩まないで誰かに相談してくださいね」

優しい声色が、心の中に染み渡る。

「有難うございます…」

山南さんも、沖田さんも、思うように闘えず、自分のことで精一杯の筈。

それなのに、私の心配をしてくれる。

二人の優しさに励まされた私は、考えるのを辞めにした。

「やはりゆきさんは…笑顔のほうが素敵ですね…何かあったらいつでも頼ってください」

微笑みを浮かべ、その場から立ち去る山南さんの背中を見つめながら、私は再び、心の中で礼を述べた。