出逢いの刻
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深夜、中々寝付けなかったので、少し外の空気を吸って来ようと思い、薄い羽織を纏い庭に出た私。
「まだ…少し寒いな‥‥‥」
暖かくなってきてはいたが、夜風はまだ冷たく、あまり長居は出来そうもなかった。
水でも飲んで部屋へ戻ろうと思い、静かに廊下を歩いていると、真暗な屯所の中に灯りが漏れている一室を視界に捉えた。
「あれは‥‥‥土方さんのお部屋‥‥‥」
昼間、隊士達を纏める事に忙しい彼は、書き物や、書類に目を通す等の勤めは夜にやる事が多いのだと、周りの人から聞いていた。
「本当にこんな時間まで…」
忙しい土方さんに、少しでも休息を取って欲しかったので、お茶を入れ持っていく事にした。
「失礼します…土方さん‥‥一ノ瀬です」
襖の前で膝を付き、静かに声を掛ける。
「ゆきか‥‥入れ」
音を立てないよう慎重に襖を開けた私は、部屋に入り、頭を下げた。
「夜分に…突然すみません…」
彼の邪魔にならないよう、そっとお茶を差し出す。
「ああ…悪いな…其処に置いといてくれ」
視線は書類に落としたまま、口を動かす土方さん。
「はい…」
余計なお世話と知りながら、私は口を開く。
「土方さん」
「なんだ…」
私の呼びかけに、彼は溜息混じりの返答を返す。
「少しは休まないとお体に触ります」
一向に、書類から目を離そうとしない土方さん。
「冷めてしまいますし…お茶くらいゆっくり飲んでください」
負けじと口を挟んだ私を、横目に見た土方さんは、漸く視線を此方に向けた。
「わかった…少し休む」
降参だと言わんばかりの表情を浮かべ、私の入れたお茶を一口含む。
「ゆき、お前には感謝してる…隊士としてだけじゃなく…今は炊事場も任せてしまってるからな」
彼は真剣に此方を見つめ、言葉を続ける。
「初めこそ…何処の間者かと疑いもしたが…今はお前を信頼してる」
僅かに笑みを浮かべる土方さん。
「‥‥有難う御座います」
視線を絡ませたまま、私はお礼の言葉を口にする。
「だが…気を使っての事とはいえ、夜中に男の部屋に来るなんざ…女としての自覚が無さ過ぎだ」
鋭く突き刺さるようなその視線に、思わず目を逸らした私。
「…すみません」
俯いた私の頭を優しく撫で、囁く土方さん。
「今回は許してやるが…次は…襲われても文句は言えんからな」
驚いて顔を上げると、土方さんはそんな私をからかう様に、笑顔を見せた。
最初は、鬼の副長と恐れられる土方さんを、只々厳しい人だと思っていた。
けれど時が経つに連れ、本当は近藤さんと新撰組の事を考え、態と嫌われ役をかって出ている優しい人だという事が分かり、私は彼に指導者として、多大なる尊敬の念を抱くようになった。
「まだ…少し寒いな‥‥‥」
暖かくなってきてはいたが、夜風はまだ冷たく、あまり長居は出来そうもなかった。
水でも飲んで部屋へ戻ろうと思い、静かに廊下を歩いていると、真暗な屯所の中に灯りが漏れている一室を視界に捉えた。
「あれは‥‥‥土方さんのお部屋‥‥‥」
昼間、隊士達を纏める事に忙しい彼は、書き物や、書類に目を通す等の勤めは夜にやる事が多いのだと、周りの人から聞いていた。
「本当にこんな時間まで…」
忙しい土方さんに、少しでも休息を取って欲しかったので、お茶を入れ持っていく事にした。
「失礼します…土方さん‥‥一ノ瀬です」
襖の前で膝を付き、静かに声を掛ける。
「ゆきか‥‥入れ」
音を立てないよう慎重に襖を開けた私は、部屋に入り、頭を下げた。
「夜分に…突然すみません…」
彼の邪魔にならないよう、そっとお茶を差し出す。
「ああ…悪いな…其処に置いといてくれ」
視線は書類に落としたまま、口を動かす土方さん。
「はい…」
余計なお世話と知りながら、私は口を開く。
「土方さん」
「なんだ…」
私の呼びかけに、彼は溜息混じりの返答を返す。
「少しは休まないとお体に触ります」
一向に、書類から目を離そうとしない土方さん。
「冷めてしまいますし…お茶くらいゆっくり飲んでください」
負けじと口を挟んだ私を、横目に見た土方さんは、漸く視線を此方に向けた。
「わかった…少し休む」
降参だと言わんばかりの表情を浮かべ、私の入れたお茶を一口含む。
「ゆき、お前には感謝してる…隊士としてだけじゃなく…今は炊事場も任せてしまってるからな」
彼は真剣に此方を見つめ、言葉を続ける。
「初めこそ…何処の間者かと疑いもしたが…今はお前を信頼してる」
僅かに笑みを浮かべる土方さん。
「‥‥有難う御座います」
視線を絡ませたまま、私はお礼の言葉を口にする。
「だが…気を使っての事とはいえ、夜中に男の部屋に来るなんざ…女としての自覚が無さ過ぎだ」
鋭く突き刺さるようなその視線に、思わず目を逸らした私。
「…すみません」
俯いた私の頭を優しく撫で、囁く土方さん。
「今回は許してやるが…次は…襲われても文句は言えんからな」
驚いて顔を上げると、土方さんはそんな私をからかう様に、笑顔を見せた。
最初は、鬼の副長と恐れられる土方さんを、只々厳しい人だと思っていた。
けれど時が経つに連れ、本当は近藤さんと新撰組の事を考え、態と嫌われ役をかって出ている優しい人だという事が分かり、私は彼に指導者として、多大なる尊敬の念を抱くようになった。