シュ色の外側






祠が、島の象徴が、ごうごう音を立てて燃えている。心陽は一瞬ことを理解できずに呆然と立ちすくんでいた。
しばらくして、祝詞が微かに耳に戻ってきたときだった。


「―――っあああああッッ!!!」


心陽は、夜を裂く程の声で叫んだ。肺に煙が大量に入ってくるのもお構い無しに。
燃えている。燃えてしまった。永きときを経て私達に伝承し続けていたものが。こんなにも、いともたやすく…。

幼少から辛いときにはこの祠を思い出すことで安心した。自分の行いは鬼神が荒ぶらせていないと感じられるのだ。なのにそんなものが、恐れていた鬼神さえ無かったかのように炎は一層高く燃え上がる。怒られて地下牢に折檻されたときも、仲良くしてくれていた使用人が供物に選ばれて離れ離れになったときも、全部。
意味を成していなかったということなのか?ただの童心の縋りにすぎぬということなのか?


「祠、祠がァ…!!!!」


叫び声と燃え上がる炎につられてやってきた老夫婦が皺だらけの瞼を見開き、唾液が落ちるほど大きく口を開け驚愕する。わなわなと肩は震え、今にも発狂しそうな程正気を保てていないようにさえ見えた。

煉獄だけがこの燃え盛る炎を冷静にじっと見つめる。


「これで嘘偽りの因縁は無くなった。」


嘘…?と呟くなり心陽はうつろな瞳を向ける。怒る気力も何も湧かない。


「刻まれていた文字は読める箇所もあったが、殆どが解読不能だ。誰かの悪戯だったのだろう。海の鬼神などいない。」


俺が思うに、自然災害だと思われる。例えば、離岸流のような人が吸い込まれていく現象や船が難破する…などな。と付け足した。脳がいっぱいいっぱいだった。部外者のはずなのに、そう言われたらそうとしか思えない。
読めない文字すらも鬼神の言葉だと思い込んでいただけだった、ということなのだろう。信じられないが、煉獄の言っていることは嘘じゃないと心陽は思いたかったのだ。


「そんな…」


ぱちぱちとはねる火花が甲に当たり、ひどく痛かった。でもそれ以上に、橙色が反射した煉獄の横顔が幻想的で非現実のようで目が離せなかった。


「それに、この祠の材質である木自体がよくて大正だ。平安からあるとは到底思えん。」


ゆらゆらと風に揺れている。海風が吹いてきたのだ。
奉納する供物は鬼神が眠っている海に供える。そして鬼神が受け取ったならば必ず、風を吹かせ海は静かに凪ぐ。それは儀式が成功したということと等しいと、習わされた…のだ。


「私達がずっとくだらない悪戯を真に受けて、それで私の家が守る限りこの島は永遠に続くと錯覚して……」

「いや。君たちがそう思うのならば、きっとそうなのだろう。」

「つまり、どういうことですか」

「想いは、ものよりも強く人間同士を結ぶ。この祠のように他の者の手によってすぐは壊れない。……君たち自身がこの島の発展と永続性を願い行動するのならば、そうなる運命なのだろうな。」

「煉獄さん!」

「ああ。だが、人をくべるような非人道的な行いは好ましくないな!!くべたところで何も自然は変わらない。ここを使えば多少は何をするべきか、分かるだろう?」


ここ、と頭を人指ゆびでさされる。悪戯な発想ではなく、自身の島民を思う気持ちで…。
うーんうーんと悩ます姿に煉獄はふっと笑った。すぐにでなくていい。焦らずとも考えていこう。それが俺にもできるちいさな祈りなのだからな、と。





終.





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