シュ色の外側




9年に1度、この祭祀は島宮神社で執り行われる。そして、朔間は主体となって島の繁栄と安らぎを願う。最後は供物を海に流し奉納するのだ。


「失礼します。」

「……」


朔間の一族が奉納せねば、鬼神に祟られ島は破滅する。海に眠っている鬼神を鎮めるためのいわば一大行事を担っているのだ。


「帰って参りました。」

「おかえり。」


白の礼装、白い布で目元を覆った人間たちに一礼する。線香の嫌な濃い匂いが漂っていた。

静かな父の声が凛としたがらんどうの空間に響く。


「よろしく頼んだよ。」

「はい。」

「ところで配偶者はできたのかい?」

「いえ、まだ。」

「心陽も分かっていることだとは思うが、朔間は寿命が短い。家業を完全に継ぐためにも早く婿を迎え入れて欲しい。」


島の永続性を約束する代償として、我々朔間は50までしか生きられない。だから私は祖父母の記憶というものが全く無いのである。寿命の短さは不可抗力なものは分かってはいるものの、身を固めようとはすぐに思えない。

…だが「生きている間に孫が見たい。」と言うのだ。きっと、島の安泰のためには朔間が途絶えてはいけない。きちんと未来を託せたのか、確認したいのだろう。血を繋ぐ行為が奉納なのだから。一線を越えた契り、人の営みも神事に相当するのだ。


「今日は楽しみにしているよ。」






午後7時。

境内には島人全員が集まっていた。
提灯がゆらめているのが分かる。神楽の舞台からは、よく見えるはずだ。しかし、私はいま神に向き合う者であるが故に布で顔隠しをしている。


「皆様、此度もお会いできること嬉しく思います。」母の声がする。私の役目は父から受け継いだものだ。父は優しい人だった。


このとき以外では。神楽を舞う時だけは怪人の一種に見えた。まっすぐ伸びた背筋に、神経をあますことなく通わせた指。剣を構えた片手は銀にきらめく。それは、どこまでもどこまでも美しかった。


「オロソ、オロソ、ミタマフルエ
イツノネ、サクワラ、ホトホトノ」


母の祝詞に合わせて妹が弦楽を奏でる。私は指先まで神経をとがらせる。父の見様見真似ではない。私のやり方で。もう今は、緊張や期待などという言葉で頭を悩ます小娘ではなかった。ただ私は神を降臨させ、鎮める者なのであった。


「クシミタマ、アラミタマ、ニギミタマ、サキミタマ
ツグモリ、ツグモリ、アマツカゲ」


銀の鋼が月光に照って輝く。


「ヒトツハ クラエ、ヒトツハ シヅメ、ヒトツハ カエセ
オロロ、バラエ、モモソノ、カカカ…」


この島の輝やかしい未来を約束するために。


「カミノハラ ニ イレヨ、カミノチ ニ カエセ」


剣が鈍ることは無い。


「オロソ、オロソ、ミタマフルエ……」


島民が歌い始めたところで舞台から降り、聖域へと踏み込んだ。










──これは明らかにおかしい。外部の者だからではなく別の、この世と隔離されたものであるかのように感じられる。確かに彼女の、朔間の舞は美しい。だが、どうも変だ。
後ろから押し寄せる人の波に逆らってここから去った。

俺を異端とみなす者は無いほど、舞台に皆見入っている。

何か、この島についてのものは……。











供物がこちらを見る。 恍惚としているものの震えているのが分かる。俺、俺…と発した後、狂ったような文字にもならないへんてこな鳴き声をあげる。
供物として選ばれた者は皆こうやって喜ぶのだ。赤子のように、意味のない母音だけを並べ。


カミノハラ ニ イレヨ、カミノチ ニ カエセ……


島民の声もよくきこえる。風向きのせいだろうか。





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