逸世紀ロマンス




「何か先輩宛に落ちてますよ」

「むっ!?よもや!!」

「わ、なんですかいきなり!」

「俺から離れてくれ、これは君に見られたくないのでな!」

「ええっ、ひどいです。後でちゃんと見せてください」


つい昨日に──これは令和での昨日のことだ。私宛の手紙が落ちていた。暫くその場所に来ていなかったことも有り、雨や泥まみれになっていた。それでもはっきりとそれはそこに佇んであった。



五月五日火曜日

お久しぶりです。元気にしていらっしゃいますか?
あの日以来、お手紙が返せなくてごめんなさい。嫁いだのはもう少しあとなのですけれど、地震の影響でまた株が荒れてしまい、京の方にある御相手様の邸宅に住まわせてもらっておりました。私の家は堅牢なもので、崩れませんでした。硝子は割れましたけれど、頑丈でした。二年程経ったので景気も安定しております。
貴方も私のことを想ってくれて本当に嬉しいです。ですが、ごめんなさい。あの時のものは子供の戯れだと笑ってください。あの時の私は確かに貴方を慕っておりました。貴方への想いを忘れたわけではなく、私が大人になったのです。今の私は夫のことを愛しております。つい先日、長男が誕生したんですよ。
それと、不思議なことに夫の名前は貴方と同じです。もっと早くお返事できれば良かったのに。こんな偶然ってあるんですね。

心陽



「先輩、なにか落ちましたよ。写真?あっ、赤ちゃんだ。この女の人だれですか?……私より若くないですか?……先輩、先輩!聞いてるんですか、もう……」


俺はその手紙をポケットにしまい、滑り落ちた写真のことで騒いでいる彼女に目を向ける。俺に向けてこの人軍人じゃないですか?と指を差して、いつの時代のものなんです?と言いかけたところで俺は口を開けたのだ。


「帰るぞ!!」

「え?これだけで帰るんですか?折角暑い中来たのに」

「用は済んだ!」

「……今度アイス奢ってください」


彼女が手にしているモノクロ写真を見ると、軍服を身に纏った穏やかな笑みをする男性と、小さな赤子を抱え幸せそうに微笑んでいる女性。写真が撮られた日時は1925……。


「心陽」

「なんですか?」

「名前を呼びたかっただけだ」

「なんなんですかさっきから!」


あの日から苦しいまま歩んでいた道も彼女と交わり、穏やかになった。そしてまた俺も「奇遇にも」君と同じ名前の素敵な女性と出会ったことをいつか、伝えたい。

君は確かにあの時代、生きていた。私がこれからはこのノートに遺しておく。



終.


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