逸世紀ロマンス



今から約百年前の人物と話したと言っても、おそらく誰も相手にされないだろう。けれども、確かにあのとき生きていた証をここに書き留めておきたい。




私がかつて高校二年生だった頃。盆休みで閉校しているために近所の──と言っても自転車で二十分弱かかるが。公園で自主練習していた夏休み。あの日、初めてあの子を知った。いや、出会った。
公園近くの非常用コンテナの脇に、一通の手紙が置かれていた。公園の近隣の子供が落としたのだろうと思い拾いあげた。だが、宛先が書いていない。肝心な送り主も分からない。持ち主さえ分かれば届けに行ったのだが、どうしようも無かった。私はそれを元に戻そうと地面を見た。すると、乾いた風が吹きすさび、手紙の中身が散ってしまったのだ。否応なしに中身が見えた。


八月十三日月曜日

こんにちは、今日もこちらは晴れております。また、今日の最高気温は三十度にも上るそうです。そちらも暑さにはお気をつけてお過ごしください。

心陽


内容には少々驚いた。丁寧な子供の字ではあるが、子供らしい内容や言葉遣いではない。しかも今日の最高気温は三十度どころの騒ぎではない。
裏面を見ると「独逸の首相様がお変わりになられました。大正の世の中は目まぐるしいものですね」と記されていた。
一瞬目を疑った。しかし、僅かな好奇心もあった。私は公園近くのコンビニでルーズリーフとボールペンを買い、返事を書いた。送ってしまったので内容は手元にないが、覚えている限り端的に内容を表すと、私はおよそ百年後の人間であること、気温が上昇していること、また元号は令和であること……などだ。


翌日も私はそこに出向いた。そこには私の手紙は無く、代わりに白い封筒がまたもや静かに佇んでいた。


八月十四日火曜日

誰に届けようともしていないただの一人遊びのつもりだったのですが、見られていたと知って驚いております。時代が百年も違う方と文通しているだなんて信じられません。ですが、信じていたほうが面白そうです。そもそも私の部屋に置いてあるだけの手紙なのですから、お返事が来ただけで舞い上がるような気持ちです。
父や母には秘密にしておきます。貴方もそうしてくださいね。私の内緒の1人遊びが知られてしまっては恥ずかしいですから。杏寿郎さんと云うんですね、とても縁起が良く音の響きも素敵です。お返事、楽しみに待っております。

心陽


それから今の現代にあるものや私の学校生活などを書いたり、また向こうも友人の邸宅に遊びに行ったとか綺麗な着物を卸してもらったとか、そういうことを話した。話しているうちに分かったが、貿易会社のご令嬢らしい。品の良さは文章の端々から滲んでいたためすぐに納得した。年齢は十五歳で高等女学校に通っていると分かった。好物は和菓子、特に羊羹だという。現代では透明な羊羹の人気があると書いたらとても喜んでいた。技術革新が凄まじく、人工知能が発展していると書いたらとても可愛らしい文面が帰ってきた。
盆休みが明けてもなお、私はそこに行った。


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