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幸福論
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お風呂上がり、いつも通り一人でソファに座ってテレビをつける。
内容に別に興味はない。
ただ、あまりにも静まり返った空間を持て余すから。
窓の外をちらっと見れば、ちらほら電気がついた徹の家。
徹の家はきっと、テレビなんか付けなくても団欒があったりするんだと思う。
いくら仲が良くても、あたしは踏み込めない空間。
本物の家族ってどんな感じなんだろう。
「あ、そうだ」
携帯見なきゃ。
蛍に今日連絡先教えたんだし、なんか来てるかも知れない。
いそいそとメールボックスを開く。
新着メール2件。
片方は蛍からのメール。
大した用事は無いだろうけど、まあ、付き合った第一歩ってことで。
ちょっとうきうきしながら操作する。
[ あったかくして寝なよ ]
…一言だけかよ!
しかも6月だし寝冷えとか無いし。クーラー付けるほどでも無いんだし。
[ to:蛍
今の時期にあったかくしたら蒸れるでしょ。あとまだ寝ないし ]
メールを返してすぐ、蛍からの返信がくる。
暇なの?
[ 夜更かしするから身長伸びないんじゃないの ]
[ to:蛍
平均身長だしまだ15歳なんで伸びます〜。蛍こそ縮んだら? ]
[ 残念ながら僕も成長途中。君みたいにチビになりたくないからもう寝るね。おやすみ ]
早くない?まだ10時半だよ?
一応あれでもスポーツマンだし、早く寝るのかな。それともあたしが遅いのか。
ていうかチビって腹立つな。そもそもチビではないし。
[ おやすみ。また学校でね ]
返信を終えて、画面を閉じる。
おやすみなんてやり取り、ほんといつぶりだろう。
母親とも元々あんまり喋らないし夜に家で会うのなんて週1回くらいだから、誰かにおやすみって言葉をかけるのはすごく新鮮。
それだけに、蛍がとっても近くに感じた。
付き合うって、こういうことか。
好きな人が近くなる。
初めての感覚だけど、なんとなく嬉しさが込み上げてきた。
「そういえば、もう一件あった気がする…」
もう一つのメールの事を思い出す。
山口くんかな?それとも岩ちゃん?
あたしに用事のある人なんてあんまりいない筈だけど。
[ from: 徹 ]
「…徹ぅ?またあいつ嫌味でも言ってくるつもりかな…」
少々気が重いながらもメールを開く。
どうでもいい事だったらシカトしよう。
[ マイ 時間ある?絶対返信しなさい!! ]
……。
何?急用?
めんどくさいから電話にしよう…
電話帳から徹の番号を呼び出し、電話をかける。
徹はすぐに出た。
「遅い!てかなんで電話なの?」
「お風呂はいってたんだからしょうがないでしょ!で、何?単刀直入に言って」
「今から俺外出るからマイも出てきて」
「はぁ?」
ブツッと電話が途切れた。
仕方なく玄関を開けると、ちゃっかり塀を乗り越えて入ってきた徹が花壇のブロックに座って待っていた。
「なに?今話す事なの?」
「こうでもしなきゃ無視するだろ!」
「しないよ。鬱陶しいことは無視するけど。ていうかうちの中じゃダメなの?」
「夜だからダメ!俺そういう所はちゃんとしてんだから!」
「今更徹とどうこうとか無いよ…」
ため息をついて、徹の隣に座る。
生温い風が頭の上を吹き抜ける。
「なんかマイとゆっくり喋んの久しぶりな感じ?」
「1ヶ月前にあたしと徹と岩ちゃんで遊んだじゃん…」
「ああ、マイがバレーするとか言い出して俺にメッタメタにぶちのめされた時ね」
「サーブとれなかっただけでしょ!」
「あーくそー、あん時バレーさせてなければマイに彼氏なんかできなかったのに〜」
「それは分かんないよ!」
「そもそも烏野に行かせなきゃよかった!」
「言い出したらキリないから。バタフライエフェクトって奴?」
「難しい言葉使わなくていいの!ホント可愛くない!」
「いつも可愛いマイって言ってんじゃん」
当たり障りのない会話。
徹は何を話しにきたんだろう。
「…マイさ、そいつのどこがいいの?」
「はぁ?」
「メガネくんもメガネくんだよ。一言目に"はぁ?"しか言えない女のどこがいいんだか」
「もっとボキャブラリーあるから」
「俺はその印象しかないけど!」
徹がちょっと寂しそうな顔で笑う。
こないだの試合でのこともあって、あたしも心がちくっとする感じ。
「で、どこがいいの?」
「うーん…手?」
「手?!ピンポイントだな…」
「あと、意外と優しい」
「へぇ〜、マイが人の事優しいなんていうの珍しいじゃん。あっ、俺のことも言ってるか!」
「岩ちゃんは優しい」
「俺は?!」
「ちょっとウザい」
「酷い!」
いつも通りの軽い感じで、徹が蛍の事を聞いてくる。
嫌味を言うつもりじゃないみたい。
「そうかーメガネくん優しいのかー全然そんな風に見えないけど」
「うん」
「余計なお世話だとは思うんだけどさ」
「余計な事なら言わなくていいよ」
「いや、折角だから聞いてね?」
徹が真剣な顔であたしの方に向き直る。
別に徹にどきっとしたりはしないけど、やっぱり徹は綺麗な顔をしてる。
月の光に照らされて、余計そう見える。
めんどくさ〜い親衛隊が増えるのも納得。
「メガネくんはさ、マイの家庭事情とかちゃんと知ってんの?」
家庭事情。
仕方ないけど避けて通れない、嫌なこと。
「…うん。知ってる」
「全部?」
「…全部じゃない。母親の事だけ」
あたしはまだ、蛍に全然自分のことを話してない。
母親の事なんてほんの一部分だ。
あたしの家族がもっと崩壊してることくらい、自分でわかってる。
徹と岩ちゃんはずっと前からいっしょにいるから、もちろん全部知ってる。いっぱい助けてもらった。
騙しているようだけど、軽蔑されるのが怖くて、蛍にはまだ言えない。
「…もしマイが全部言ったとして、メガネくんは受け入れてくれそうなの?」
「分かんない。無理だと思う?」
「それは俺に訊かれても知らないよ!」
「だよねー」
いつかはこの面倒くさい事情を言わなきゃいけない時が来ると思う。
もしそうなったら、蛍はどんな顔するのかな。
「まぁ、でもさ」
「?」
「マイが俺たちの居ないところで人間関係築けてるのは、いいことなんじゃない?メガネくんの事認めたわけじゃないけどさー」
「徹は関係ないでしょ」
「関係あるよ!俺と岩ちゃんの可愛い可愛いマイなんだから!」
「何それさっきと言ってること違うけど」
徹は笑顔で話し続ける。
…インハイ予選の時のことは、怒ってないのかな。
「徹さ、こないだの試合ん時のこと怒ってないの?」
「そりゃだいぶムカついたけどさぁ、マイの親離れなんだから見守らなきゃしょうがないだろ?腹立っただけで怒ってないよ」
「そっか」
「でも親として!マイがもしメガネくんに泣かされる事があったら俺と岩ちゃんは黙ってないよ!」
「岩ちゃんにだけ言う」
「なんでだよ!」
冗談を言うと徹はちょっと怒った。
いつもは性格悪いしウザい徹だけど、あたしに親身になってくれるのが嬉しかった。
「マイ」
「なに?」
「メガネくんが分かってくれなかったとしても、俺たちはマイの事全部理解するから。困ったら遠慮なく頼ってきていいからな」
小さい時からずっとある、あたしの大事な居場所。
大好きな大好きな幼馴染とあたしだけの場所。
あの一件でギクシャクしちゃうかと思ったけど、やっぱり徹たちの方が一枚上手で。
さらっとあたしの心を救ってくれる。
「…ありがとう」
「マイがお礼言うとか気持ち悪っ!」
「はぁ?!」
生暖かい夜風に当たりながら、あたしはやっぱり親離れできないな、なんて思った。
お風呂上がり、いつも通り一人でソファに座ってテレビをつける。
内容に別に興味はない。
ただ、あまりにも静まり返った空間を持て余すから。
窓の外をちらっと見れば、ちらほら電気がついた徹の家。
徹の家はきっと、テレビなんか付けなくても団欒があったりするんだと思う。
いくら仲が良くても、あたしは踏み込めない空間。
本物の家族ってどんな感じなんだろう。
「あ、そうだ」
携帯見なきゃ。
蛍に今日連絡先教えたんだし、なんか来てるかも知れない。
いそいそとメールボックスを開く。
新着メール2件。
片方は蛍からのメール。
大した用事は無いだろうけど、まあ、付き合った第一歩ってことで。
ちょっとうきうきしながら操作する。
[ あったかくして寝なよ ]
…一言だけかよ!
しかも6月だし寝冷えとか無いし。クーラー付けるほどでも無いんだし。
[ to:蛍
今の時期にあったかくしたら蒸れるでしょ。あとまだ寝ないし ]
メールを返してすぐ、蛍からの返信がくる。
暇なの?
[ 夜更かしするから身長伸びないんじゃないの ]
[ to:蛍
平均身長だしまだ15歳なんで伸びます〜。蛍こそ縮んだら? ]
[ 残念ながら僕も成長途中。君みたいにチビになりたくないからもう寝るね。おやすみ ]
早くない?まだ10時半だよ?
一応あれでもスポーツマンだし、早く寝るのかな。それともあたしが遅いのか。
ていうかチビって腹立つな。そもそもチビではないし。
[ おやすみ。また学校でね ]
返信を終えて、画面を閉じる。
おやすみなんてやり取り、ほんといつぶりだろう。
母親とも元々あんまり喋らないし夜に家で会うのなんて週1回くらいだから、誰かにおやすみって言葉をかけるのはすごく新鮮。
それだけに、蛍がとっても近くに感じた。
付き合うって、こういうことか。
好きな人が近くなる。
初めての感覚だけど、なんとなく嬉しさが込み上げてきた。
「そういえば、もう一件あった気がする…」
もう一つのメールの事を思い出す。
山口くんかな?それとも岩ちゃん?
あたしに用事のある人なんてあんまりいない筈だけど。
[ from: 徹 ]
「…徹ぅ?またあいつ嫌味でも言ってくるつもりかな…」
少々気が重いながらもメールを開く。
どうでもいい事だったらシカトしよう。
[ マイ 時間ある?絶対返信しなさい!! ]
……。
何?急用?
めんどくさいから電話にしよう…
電話帳から徹の番号を呼び出し、電話をかける。
徹はすぐに出た。
「遅い!てかなんで電話なの?」
「お風呂はいってたんだからしょうがないでしょ!で、何?単刀直入に言って」
「今から俺外出るからマイも出てきて」
「はぁ?」
ブツッと電話が途切れた。
仕方なく玄関を開けると、ちゃっかり塀を乗り越えて入ってきた徹が花壇のブロックに座って待っていた。
「なに?今話す事なの?」
「こうでもしなきゃ無視するだろ!」
「しないよ。鬱陶しいことは無視するけど。ていうかうちの中じゃダメなの?」
「夜だからダメ!俺そういう所はちゃんとしてんだから!」
「今更徹とどうこうとか無いよ…」
ため息をついて、徹の隣に座る。
生温い風が頭の上を吹き抜ける。
「なんかマイとゆっくり喋んの久しぶりな感じ?」
「1ヶ月前にあたしと徹と岩ちゃんで遊んだじゃん…」
「ああ、マイがバレーするとか言い出して俺にメッタメタにぶちのめされた時ね」
「サーブとれなかっただけでしょ!」
「あーくそー、あん時バレーさせてなければマイに彼氏なんかできなかったのに〜」
「それは分かんないよ!」
「そもそも烏野に行かせなきゃよかった!」
「言い出したらキリないから。バタフライエフェクトって奴?」
「難しい言葉使わなくていいの!ホント可愛くない!」
「いつも可愛いマイって言ってんじゃん」
当たり障りのない会話。
徹は何を話しにきたんだろう。
「…マイさ、そいつのどこがいいの?」
「はぁ?」
「メガネくんもメガネくんだよ。一言目に"はぁ?"しか言えない女のどこがいいんだか」
「もっとボキャブラリーあるから」
「俺はその印象しかないけど!」
徹がちょっと寂しそうな顔で笑う。
こないだの試合でのこともあって、あたしも心がちくっとする感じ。
「で、どこがいいの?」
「うーん…手?」
「手?!ピンポイントだな…」
「あと、意外と優しい」
「へぇ〜、マイが人の事優しいなんていうの珍しいじゃん。あっ、俺のことも言ってるか!」
「岩ちゃんは優しい」
「俺は?!」
「ちょっとウザい」
「酷い!」
いつも通りの軽い感じで、徹が蛍の事を聞いてくる。
嫌味を言うつもりじゃないみたい。
「そうかーメガネくん優しいのかー全然そんな風に見えないけど」
「うん」
「余計なお世話だとは思うんだけどさ」
「余計な事なら言わなくていいよ」
「いや、折角だから聞いてね?」
徹が真剣な顔であたしの方に向き直る。
別に徹にどきっとしたりはしないけど、やっぱり徹は綺麗な顔をしてる。
月の光に照らされて、余計そう見える。
めんどくさ〜い親衛隊が増えるのも納得。
「メガネくんはさ、マイの家庭事情とかちゃんと知ってんの?」
家庭事情。
仕方ないけど避けて通れない、嫌なこと。
「…うん。知ってる」
「全部?」
「…全部じゃない。母親の事だけ」
あたしはまだ、蛍に全然自分のことを話してない。
母親の事なんてほんの一部分だ。
あたしの家族がもっと崩壊してることくらい、自分でわかってる。
徹と岩ちゃんはずっと前からいっしょにいるから、もちろん全部知ってる。いっぱい助けてもらった。
騙しているようだけど、軽蔑されるのが怖くて、蛍にはまだ言えない。
「…もしマイが全部言ったとして、メガネくんは受け入れてくれそうなの?」
「分かんない。無理だと思う?」
「それは俺に訊かれても知らないよ!」
「だよねー」
いつかはこの面倒くさい事情を言わなきゃいけない時が来ると思う。
もしそうなったら、蛍はどんな顔するのかな。
「まぁ、でもさ」
「?」
「マイが俺たちの居ないところで人間関係築けてるのは、いいことなんじゃない?メガネくんの事認めたわけじゃないけどさー」
「徹は関係ないでしょ」
「関係あるよ!俺と岩ちゃんの可愛い可愛いマイなんだから!」
「何それさっきと言ってること違うけど」
徹は笑顔で話し続ける。
…インハイ予選の時のことは、怒ってないのかな。
「徹さ、こないだの試合ん時のこと怒ってないの?」
「そりゃだいぶムカついたけどさぁ、マイの親離れなんだから見守らなきゃしょうがないだろ?腹立っただけで怒ってないよ」
「そっか」
「でも親として!マイがもしメガネくんに泣かされる事があったら俺と岩ちゃんは黙ってないよ!」
「岩ちゃんにだけ言う」
「なんでだよ!」
冗談を言うと徹はちょっと怒った。
いつもは性格悪いしウザい徹だけど、あたしに親身になってくれるのが嬉しかった。
「マイ」
「なに?」
「メガネくんが分かってくれなかったとしても、俺たちはマイの事全部理解するから。困ったら遠慮なく頼ってきていいからな」
小さい時からずっとある、あたしの大事な居場所。
大好きな大好きな幼馴染とあたしだけの場所。
あの一件でギクシャクしちゃうかと思ったけど、やっぱり徹たちの方が一枚上手で。
さらっとあたしの心を救ってくれる。
「…ありがとう」
「マイがお礼言うとか気持ち悪っ!」
「はぁ?!」
生暖かい夜風に当たりながら、あたしはやっぱり親離れできないな、なんて思った。