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幸福論
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少し暗めの店内。
前と同じ席にあたしと月島は座ってる。
注文は、前と同じく今日一番出たものとデザート。
月島は饒舌じゃないから、ぽつぽつとこの間の試合結果なんかを喋ってくる。
青城との試合は接戦だったらしい。
一応あたしは烏野の応援で行っていたから、その話はすごく惜しく感じた。
「で、君は烏養さんに何したの?」
「あぁー、それねー」
話が今日の事に飛んだ。
別段何もないんだけど。
ーー遡ること数時間前。
進路指導室で模試の申し込み手続きを終えて、あたしは体育館に向かった。
だらだら歩いてると、入り口の外に人影。
「こんにちはー」
「おう、こんにちは」
こんばんはか迷ったけど、とりあえずこんにちは。
金髪のごつい人は律儀に返してくれた。
誰だろう。
学校の人じゃないし、でもどっかで見たような。
ていうか…
「どうした?誰かになんか用か?」
「おじさんタバコ臭い」
「なっ…?!」
誰か知らないけど近寄ってみるとたばこ臭くて、学校でこれはだめだろと思った。
あたしはバッグからお気に入りの香水を取り出して、見知らぬ?おじさんに振りかける。
臭い消しで、たくさん。
「おいちょっと?!何してんの?!」
「これでいい匂いになったー」
「付けすぎだろ!!!」
「言われてみればそうかも?ていうかおじさん誰ですか?」
「ここのバレー部の監督だよ!!お前こそ誰だ!」
「あっ、まだやってますよねー。中入りますねー」
ーーー
「そんな感じ」
「失礼にも程があるデショ」
気になったから親切でやっただけなのに、月島は呆れ返っている。
「別に怒ってなかったしいいじゃん」
「突飛すぎて怒る気力も起きなかっただけなんじゃない」
「いい事したと思ったのになー」
「もう人に親切にしようとか思わないほうがいいよ」
月島にさらっと酷いことを言われる。
あたしの親切は親切じゃないのか?!
しばらく月島を睨みつけていると、注文した料理が届いた。
今日はアラビアータ。デザートはショートケーキ。
「どーもでーす!頂きまーす」
「いっぱい食べてね」
料理を置くと、店長はニコニコしながらあたし達のもとを離れていった。
月島が当然のように大皿のパスタを取り分ける。
あたしはそれを見て待ってる。
「マイ、ずっと気になってたんだけど」
「なに?」
コトリと小さな音を立てて、目の前にパスタの取り皿が置かれる。
月島は伏し目がちにボソボソ呟きだした。
「なんで青城じゃなくてココ受けたの」
「…またその話ー?」
「僕この話するの初めてですケド」
「あー、蛍だけじゃなく色んな人に言われるんだよ、それ」
くるくるパスタを巻いて、フォークを口に運ぶ。
絶妙な辛味がおいしい。
あたしの口にソースが付いているのに気づいたらしい月島が、ナプキンを差し出してくる。気配りは100点。
「烏野にしたのは、制服が好みだったから。あと公立だし」
「青城に行かなかったのは?」
「んー…なーんかさぁ、疲れちゃうんだよねー」
「…どういう事?」
「なんも関係ない周りの奴に色々言われたりさぁ。ほら、アッタマ悪そうな徹のファンとか」
本当は、こんな話友達にするのは初めて。
この事は徹や岩ちゃんにだって言ってない。
なんでか分からないけど、月島なら聞いてくれる気がした。
「追い払わなきゃムカつくししょうがないから、毎回悪口返しして追い払うんだけど…なんか、そういうのあるから徹たちの近くに居すぎるの、疲れちゃった」
「…そう」
「そんで烏野受けたらね、徹すごい落ち込んでたよー。あたし他に友達居なかったし、絶対自分のとこ来ると思ってたんだろうね。成績の面からしても。岩ちゃんは何も文句言わなかったよ」
内心、本当は特待生になって徹と岩ちゃんがいる所に行けたらいいなと思ってた。
けどやっぱり、そろそろ幼馴染への依存を辞める時期かなとも思った。
「まあそれで、あたしはスッキリしたかな。馬鹿どもにグチグチ言われることも無くなるし、親離れってやつもそろそろしなきゃだしね」
こないだのインハイ予選での事を振り返ると、徹もあたしもまだ依存してるように感じたけど。
どこまでが友情で、どこからが依存なのかあたしにはよく分からない。
だけど、親離れってやっぱり寂しい感じもする。
「聞いといて何ずっと黙ってんの?予想以上に面白くなかった?」
「…誰が聞いても面白い内容ではないデショ」
「そうかもねー」
「でもなんとなく」
「あ?」
「なんとなくそういう理由かなって察しはついてた」
月島がまっすぐ見つめてくる。
もしかしたら、あの時親衛隊がヒソヒソあたしの事を言ってたやつ、聞いてたのかもしれない。
…月島は、あたしのことどこまで知ってるんだろう。
「こう見えていろいろあんのよー。知られたくない事だってさ」
目を合わせたくなくて、視線を逸らす。
全部見透されてしまう気がしたから。
「…僕だって色々あるよ」
「へぇ、そうなんだ」
「相変わらず興味なさそうだね」
「あんまり知られたくない事なんでしょ?なら訊かない。あ、これ全部あげる」
あたしは話題から逃げるように、月島にデザートのケーキを差し出す。
「好きなんでしょ?山口くんにリサーチ済み」
「…うん。どうも」
なんとか月島の興味がケーキに逸れた。
あたしはぼーっと店内を見回す。
すると、斜め前に座っていた一人のホステスと目が合った。
「あっ、マイちゃん?!」
「…ユリさん、こんばんは」
知り合いのホステスのユリさん。
盛りに盛った金髪を揺らして、あたしの方へ歩いてきた。
月島はかなり変な顔をしている。
もういろいろとバレるのも時間の問題かな…
「マイちゃん今日はお客さんなのぉ〜?その子は彼氏?」
「学校の友達でーす」
「え〜ちがうのぉ?そうそう、今日の出勤ママのお店だから宜しく伝えといてねぇ〜」
「はーい頑張ってくださーい」
「あっ、これあげるから飲んどいて〜」
「はーい」
コトリとグラスが置かれる。
ひらひら手を振って強引にユリさんを退場させ、目の前の月島に視線を戻した。
「誰?知り合い?」
「まーそんなもん」
それだけ言って、あたしはユリさんが置いていったグラスを飲み干した。
喉が焼けるような、鼻をつく香り。
「チョット、マイ」
「なに」
「それお酒じゃないの」
「…かもね」
かも、じゃなくて確定。そんなことは分かりきってる。
頭がフラフラする。
頭が悪いってこんな感じなのかな。
月島の顔がぶれて見える。
それでも、なんだかちょっと背伸びしてしまいたい気分だった。
徹や、岩ちゃんや、みんなを置いて。
「…帰ろっかぁー」
「大丈夫なの?」
「うん多分…」
ふらつきながら、店のドアを開ける。
月島が何か言っているけどあまり聞こえず、あたしは1人暗くなった道へ出た。
少し暗めの店内。
前と同じ席にあたしと月島は座ってる。
注文は、前と同じく今日一番出たものとデザート。
月島は饒舌じゃないから、ぽつぽつとこの間の試合結果なんかを喋ってくる。
青城との試合は接戦だったらしい。
一応あたしは烏野の応援で行っていたから、その話はすごく惜しく感じた。
「で、君は烏養さんに何したの?」
「あぁー、それねー」
話が今日の事に飛んだ。
別段何もないんだけど。
ーー遡ること数時間前。
進路指導室で模試の申し込み手続きを終えて、あたしは体育館に向かった。
だらだら歩いてると、入り口の外に人影。
「こんにちはー」
「おう、こんにちは」
こんばんはか迷ったけど、とりあえずこんにちは。
金髪のごつい人は律儀に返してくれた。
誰だろう。
学校の人じゃないし、でもどっかで見たような。
ていうか…
「どうした?誰かになんか用か?」
「おじさんタバコ臭い」
「なっ…?!」
誰か知らないけど近寄ってみるとたばこ臭くて、学校でこれはだめだろと思った。
あたしはバッグからお気に入りの香水を取り出して、見知らぬ?おじさんに振りかける。
臭い消しで、たくさん。
「おいちょっと?!何してんの?!」
「これでいい匂いになったー」
「付けすぎだろ!!!」
「言われてみればそうかも?ていうかおじさん誰ですか?」
「ここのバレー部の監督だよ!!お前こそ誰だ!」
「あっ、まだやってますよねー。中入りますねー」
ーーー
「そんな感じ」
「失礼にも程があるデショ」
気になったから親切でやっただけなのに、月島は呆れ返っている。
「別に怒ってなかったしいいじゃん」
「突飛すぎて怒る気力も起きなかっただけなんじゃない」
「いい事したと思ったのになー」
「もう人に親切にしようとか思わないほうがいいよ」
月島にさらっと酷いことを言われる。
あたしの親切は親切じゃないのか?!
しばらく月島を睨みつけていると、注文した料理が届いた。
今日はアラビアータ。デザートはショートケーキ。
「どーもでーす!頂きまーす」
「いっぱい食べてね」
料理を置くと、店長はニコニコしながらあたし達のもとを離れていった。
月島が当然のように大皿のパスタを取り分ける。
あたしはそれを見て待ってる。
「マイ、ずっと気になってたんだけど」
「なに?」
コトリと小さな音を立てて、目の前にパスタの取り皿が置かれる。
月島は伏し目がちにボソボソ呟きだした。
「なんで青城じゃなくてココ受けたの」
「…またその話ー?」
「僕この話するの初めてですケド」
「あー、蛍だけじゃなく色んな人に言われるんだよ、それ」
くるくるパスタを巻いて、フォークを口に運ぶ。
絶妙な辛味がおいしい。
あたしの口にソースが付いているのに気づいたらしい月島が、ナプキンを差し出してくる。気配りは100点。
「烏野にしたのは、制服が好みだったから。あと公立だし」
「青城に行かなかったのは?」
「んー…なーんかさぁ、疲れちゃうんだよねー」
「…どういう事?」
「なんも関係ない周りの奴に色々言われたりさぁ。ほら、アッタマ悪そうな徹のファンとか」
本当は、こんな話友達にするのは初めて。
この事は徹や岩ちゃんにだって言ってない。
なんでか分からないけど、月島なら聞いてくれる気がした。
「追い払わなきゃムカつくししょうがないから、毎回悪口返しして追い払うんだけど…なんか、そういうのあるから徹たちの近くに居すぎるの、疲れちゃった」
「…そう」
「そんで烏野受けたらね、徹すごい落ち込んでたよー。あたし他に友達居なかったし、絶対自分のとこ来ると思ってたんだろうね。成績の面からしても。岩ちゃんは何も文句言わなかったよ」
内心、本当は特待生になって徹と岩ちゃんがいる所に行けたらいいなと思ってた。
けどやっぱり、そろそろ幼馴染への依存を辞める時期かなとも思った。
「まあそれで、あたしはスッキリしたかな。馬鹿どもにグチグチ言われることも無くなるし、親離れってやつもそろそろしなきゃだしね」
こないだのインハイ予選での事を振り返ると、徹もあたしもまだ依存してるように感じたけど。
どこまでが友情で、どこからが依存なのかあたしにはよく分からない。
だけど、親離れってやっぱり寂しい感じもする。
「聞いといて何ずっと黙ってんの?予想以上に面白くなかった?」
「…誰が聞いても面白い内容ではないデショ」
「そうかもねー」
「でもなんとなく」
「あ?」
「なんとなくそういう理由かなって察しはついてた」
月島がまっすぐ見つめてくる。
もしかしたら、あの時親衛隊がヒソヒソあたしの事を言ってたやつ、聞いてたのかもしれない。
…月島は、あたしのことどこまで知ってるんだろう。
「こう見えていろいろあんのよー。知られたくない事だってさ」
目を合わせたくなくて、視線を逸らす。
全部見透されてしまう気がしたから。
「…僕だって色々あるよ」
「へぇ、そうなんだ」
「相変わらず興味なさそうだね」
「あんまり知られたくない事なんでしょ?なら訊かない。あ、これ全部あげる」
あたしは話題から逃げるように、月島にデザートのケーキを差し出す。
「好きなんでしょ?山口くんにリサーチ済み」
「…うん。どうも」
なんとか月島の興味がケーキに逸れた。
あたしはぼーっと店内を見回す。
すると、斜め前に座っていた一人のホステスと目が合った。
「あっ、マイちゃん?!」
「…ユリさん、こんばんは」
知り合いのホステスのユリさん。
盛りに盛った金髪を揺らして、あたしの方へ歩いてきた。
月島はかなり変な顔をしている。
もういろいろとバレるのも時間の問題かな…
「マイちゃん今日はお客さんなのぉ〜?その子は彼氏?」
「学校の友達でーす」
「え〜ちがうのぉ?そうそう、今日の出勤ママのお店だから宜しく伝えといてねぇ〜」
「はーい頑張ってくださーい」
「あっ、これあげるから飲んどいて〜」
「はーい」
コトリとグラスが置かれる。
ひらひら手を振って強引にユリさんを退場させ、目の前の月島に視線を戻した。
「誰?知り合い?」
「まーそんなもん」
それだけ言って、あたしはユリさんが置いていったグラスを飲み干した。
喉が焼けるような、鼻をつく香り。
「チョット、マイ」
「なに」
「それお酒じゃないの」
「…かもね」
かも、じゃなくて確定。そんなことは分かりきってる。
頭がフラフラする。
頭が悪いってこんな感じなのかな。
月島の顔がぶれて見える。
それでも、なんだかちょっと背伸びしてしまいたい気分だった。
徹や、岩ちゃんや、みんなを置いて。
「…帰ろっかぁー」
「大丈夫なの?」
「うん多分…」
ふらつきながら、店のドアを開ける。
月島が何か言っているけどあまり聞こえず、あたしは1人暗くなった道へ出た。