やぎりウルフ
「もう一度訊くよ。
君は12年前に何をしたのかな?」
「―――…12年前―…
12年前、私、は…家で…家で、父と母と姉が…帰って来るのを、待っていました。」
「それで?」
「…さ…3人とも、いくら経っても帰って来なくて、どうしていいかわからなくて……、早く…早く帰ってきて欲しかった」
「帰ってきたかい?君の家族は」
「…帰って、きませんでした。すぐ帰ってくると言ったのに…何日も帰って来なくて、やっと――…やっと、気付きました。
私は、捨てられたんです」
「っ、あ、朝霧―――…っ」
「―…そして君は嘘をついた」
「…―嘘」
「そう。嘘。」
【嘘】
【眞違ツテヰル箏】
【亊実デハ無ヰ箏】
【騙ス爲ニ吐ク箏】
朝霧が誰に嘘を吐いたかなんて、わかりきっていた。
「嗚呼――――…そうですね。
私は、私自身に
嘘をついた。」
【己ニ】
【嘘ヲ】
【嘘ヲ】
「…私は、自分を…嘘で固めました。ええ…そうですね。
私の居場所は此処なんだと、嘘を吐き。私は家族に愛されていると、嘘を吐き。私は幸せだと、嘘を吐き。私は寂しくなんてないと、嘘を吐き。私は大丈夫だと、嘘を吐き。私は全てに、嘘を吐いた。」
【笨档ハ】
【己ノ居処ハ此処デハ無ク】
【家族ニ愛サレテナド無ク】
【倖デ或譯ガ無ク】
【寂シク無ヰ譯ガ無ク】
【大丈夫デ或譯ガ無ク】
朝霧夜霧は、嘘を吐いた。
自分を騙す為に。
自分を証明する為に。
自分を正しくする為に。
真っ赤な―嘘を吐いた。
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