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やぎりウルフ



[02]


「オンルプシカムイ」

「…オンルプシカムイ?」

「そう。君の狼はね、一部からしてみれば神様なんだよ」

「ハイイロオオカミ、ではないんですか。」

「調べたのかい?」

「ええ。けれど神様というのは皆目検討がつきませんね」

「だろうね。君の調査は正しいよ。その有り様からしてそれは確かにハイイロオオカミだ。もう絶滅したといわれているけれどね。
狼は童話なんかでは専ら悪役だけど、関東・中部地方では未だに狼を大いなる神と書いて眷属として奉っている所だってあるんだ。
それがオンルプシカムイ。まあ、ごく一部の呼び名だけどね」

「その神様が、こんな所に現われるんですか?」

「君が喚び寄せてしまったんだよ」

「―――――私、が」

「そう。君が、神様を喚んでしまった。君が神様の力を借りてしまった。大神様が、君を護ってしまった。」

「―――そんな、こと」

「狼について調べたようだけど、気付かなかったのかい?」

「――――何にですか」

「狼少年、って、
知っているだろう?」

「―狼少年?あの、イソップ物語のか?」

「そうそう。
狼に育てられた少年、というのもあるし、狼に変身する少年というのもあるけどね。
けれど君の場合はその、イソップ物語の“嘘を吐く子供”の別名の狼少年だ。
まあ君はお嬢さんだから――――狼少女、かな。
狼が来た、と毎日嘘をついていた少年は、ある日本当に狼が来た時誰にも信じてもらえなかったっていう童話さ。」

「それがどう――関係してくるんだよ」

「そう答えを急ぐなよ、阿良々木くん。何かいい事でもあったのかい?」


忍野の、常套句。
朝霧を盗み見ると、目を逸らしたまま、何かを考えているように微動だにせず凛と立っていた


「―――――嘘…
嘘が、関係しているんですか」

「そうだろうね。さて、ここからは質問タイムだお嬢さん。

君がその狼に遭ったのはいつ?」

「…5歳の時です
ある日―…突然、焼け死ぬような熱さと痛みと共に、これが、現れました」

「その時君はどこで何をしていた?」

「家で…家に…居ました」

「…何を、していた?」

「…それは、」


朝霧が、口を閉ざす


「じゃあ質問を変えよう。
君、家族は?」

「…家族、は…わかりません」

「わからない?どうして。」

「…い――いません
父も、母も、姉も、いなく、なりました」

「亡くなったのかい?」

「おい忍野――!!」


ずかずかと、朝霧の立ち入ってはいけないだろう禁域に入る忍野に制止をかける
動揺を、焦燥を隠そうと必死な朝霧が見ていられなかった。


「黙ってみてなよ阿良々木くん。大丈夫さ、この神様は優しいからね。意外とすんなり見離してくれると思うよ」



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