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昔から驚いたり怖かったり哀しかったり
事あるごとに泣くくせ、けれど出雲は必ず静かに泣くやつだった。
たまには喚けばいいと言っても、ただはらはらと涙を流して
赤い目を見張り、唇を結んで。
そうして僕の手を握り締めて泣くのが、癖だった。
「出雲」
暗くて狭いとこが苦手なのも変わっていない。
ベンチに座りルシアンという男の手を握りながら涙を流す出雲は、腹立たしくなるほど綺麗だった。
「や…くも…」
「…話がある」
僕の雰囲気を感じ取ったのか男はゆっくりと手を離し此方に歩き出してくると、数秒立ち止まり、僕にしか聞こえない程度に囁いてみせた
「独占欲が強すぎるぜ…?なんてな」
「(コイツ、日本語…!)」
まるで出雲と自分だけの世界があるように英語でだけ話していたのか。
その真意に気分を悪くする。お前の世界になんざ渡してたまるか。
「…?どうかしたの?」
「…出雲、」
ああ、でも、今はそれより。
「頼む。
もう、僕から離れないでくれ」
出雲の瞳が揺れる
同じ血が流れてるとか…もういいだろう、そんな、ことは。
「どうして中学の頃から僕の傍を離れたか、お前が何を知って、何を考えて行動したかなんてもうわかっている。6年前突然いなくなった理由も。帰国が決まっても、僕に会おうとしなかった理由も。
…お前が何に悩んで何を恐れていたのかも。
もう、全部。わかっている。」
「や…八雲…!」
止めようとする出雲を、きつく抱きしめた
「…ずっと。愛している。」
「な、…」
「ずっとだ。お前が隣に現れてから、ずっと…6年の間も変わらなかった」
「ま…待って、八雲…!それは、だめだよ…!」
「どうして。」
「だ、だって僕たちは、血が…!!」
「関係ない。もう終わったことだ。
それに…僕たちで、終わることだ。
奈緒は後藤として生きる。
僕たちは斉藤として、叔父さんの養子であり、息子として生きる。
それの何が悪い」
「っそ、そんな無茶苦茶だよ!!
それに男同士なのに、っ」
「今の時代日本も同性婚が認められようとしているし、日本が駄目なら他の国に移住でもすればいい。」
「八雲!」
「それとも。僕のことは嫌いか?」
「そ、んなわけ…僕が八雲のこと嫌いなわけないじゃない…っ、でも、」
「…いつの間にそんな頑固になったんだ」
「茶化さないで!」
「背中を叩くんじゃない」
「だって…それに、八雲には小沢さんが、」
脳裏にちらつく、ネックレス。
あれを託すのがどういう意味か、わからないはずがない。
あるべき形だろう。だって。
「八雲のことをわかってくれる人がいて、その人は、ちゃんと、女性で。
これから八雲と未来を築ける人でっ…八雲を、暖かくて、明るくて、どんな未来にだって導いてくれる人で…!」
「出雲。」
首に、少しの重みが、重なった
「…なんで、これ、…」
僕と、八雲の瞳と同じ赤色が光に反射して光る
「誤解をするな。これは預かっていてもらったものだ。あげたわけじゃない。
僕が持っているより…この瞳のことを理解してくれた人が持っているほうが、いいと思っただけだ。
それに僕にはもう、これよりも大切なものがある。なんだったら今ここで壊してもいいが?」
「なッ!?だ、だめだよそんなこと!」
「ああ。そういうだろうと思った。
だから出雲、お前がそれをずっと持っていてくれ。僕が壊してしまわないように。…僕のことを、隣りで見張りながら。」
「八雲…それ、どういう意味っ…ん、?!」
「相変わらず馬鹿だな。
こういう時は目を瞑るものだろ」
熱を移された唇に指を当てる。
目の前の八雲はやれやれと揶揄うように唇を舐めて、
「っ~~~~!!
やややくっ、八雲!八雲!!八雲のばか!なにするの!?」
「キス。もう一度するか」
「いッ、いいよ!!そうじゃなくてっ…!なんでっ、!」
もう限界だった。
僕がどれだけ八雲のこと好きか、知らないくせに。
昔から八雲はずるい。
「〜〜っう、うう…!ばか!…八雲の、ばか…!」
止まっていた涙がまた零れて、情けなくも八雲にしがみつく。
「…すき、すきだよ…家族とか幼馴染とかじゃなくて、ふれたいって、ずっと僕が隣にいたいって、おもっ…おもって、た…っ!
八雲の傍を離れたくなかった、小沢さんが羨ましかった、ぼくはっ…!!八雲、八雲、って、いっつもっ…!」
自分の中で塞き止められていたダムが決壊して
がらがらと理性とか意地とか強がりが崩れ去って
「ははっ……やっと、泣き喚いたな」
顔を覆っていた両手を退かされて見えた、八雲の笑った顔
好き
大好き、八雲
初めて涙と共に出した泣き声は、簡単に八雲の唇に吸い込まれていった
赦されてもいいのですか。
僕が幸せを望むことを。