・黒曜編・
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しんと静まり返った場に、誰かの、息を吐く音がちいさく響いた。侮蔑の言葉を叫ばれなかっただけありがたい。尤も、叫ぶことすらならないほどの感情に襲われているだけかもしれないけれど。
「…ま…とんでもねー話だよな」
呼吸を整えながら苦笑した愛羅がごろりと天井を仰ぐ。
懐かしんでいるのか、諦めているのか。
その横顔はどちらとも見てとれた
膝の上には目を閉じたままの骸さん。
…大丈夫、もう、離れませんからね。
だからもうすこしだけ、待っていてくれますか
今ここで、終わらせますから。
『…愛羅と一緒に逃げようと、実験室の扉を壊そうとした時でした』
―――――……
「コラ!何をする!」
「やめろ!うわぁぁぁああ!」
『…っっ?!』
目の前の光景に目を疑う。
研究所を染める夥しい血の海。実験に使った子供達のように息絶えたのはまさに、私達を蹂躙していた大人達。
「クフフ…、
言ったでしょう?愛吏。さあ、行きましょう」
―――実験体として統率された白い服を赤に染めて。男の子は手を差し伸べて微笑んだ。
「おや…きみは見たことがありませんが…」
「おれは、おまえもしってる」
「そうですか」
やさしい目の彼は、本当に約束を果たしてくれた。
たった1人で、全てを壊してくれた。
「君達は…」
「…っ」
「……」
私達の他に男の子が2人。同じようにこの状況に唖然としている2人を見た男の子は
「一緒に来ますか?」
「「!」」
差し出された手。
愛羅が握る片方を握り締めて、私は左手を伸ばした
――…ああ、やっと――…
『…やっと…っ
居場所が、できました…………!』
私はその時、この右手を離す事になるなんて、思いもしなかった。
『―――…その後、私達2人は骸さん達とはぐれてしまい…、
宛てもなく行き倒れていたところを、9代目に拾っていただいたんです』
「………そ……そう、だったん、だ…」
『……』
「やっと愛吏を見つけて…やっと揃って!それをッ、おめーらに壊されてたまっかよ!」
「っ、でも!俺だって…!仲間が傷つくのを黙って見てられない!それにっ!
そんなふうに泣いてる愛吏が、このままいなくなるなんてイヤだ!」
『……?!っな、…どうしてそんなことが言えるんですか?!
私はこんな…!こんな、化け物っ…なのに!!!みんなのなかに紛れようとしたのに!騙していたのに!!!』
「全部知ってるから仲間っていうんじゃないよ!
だ…誰だって、秘密とか隠したい事もあって…きっと皆、それに気づきながら一緒にいるんだ…!
ちょっとだけ踏み出して知りたい気持ちを、でもっ、その人のことを想って堪えたりして!
そうやって皆が想いやって…!その人が、誰かが!
君が!!笑ってくれてたら、って…!思ってるッ…!!」
『〜〜――――ッッ…!!
けれど私は、!』
そこにいてはいけないでしょう
「誰が言ったの、そんなこと」
突如聞こえた声に息を呑んだ。
胸の奥から言葉にならない感情が溢れて
今まで堰き止めていた涙が、とうとう流れた
「…愛吏…僕から離れるとか、…許さない、よ…」
『ぁ…ッ、……、…!』
―――無事だった。無事でいてくれた。
この人も、拒絶も畏怖もしないでくれた。
『恭弥さん……っ…!!!』
今すぐ触れたい。離れたくない。でもそれは私の我儘なんです。許されないんです。
ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――――……ッ…!!
「…、…愛吏」
『―――…、ぇ…、?』
とん、と押された背中。
押した人が誰かなんて、わかってる。わかるに決まってる。だって、でも、どうして。
『…骸……さん……?』
意図が、読めずに振り返る
「愛吏は…相変わらずですね。…7年前と何も変わっていない。
ああ…7年前より更に魅力的になっていましたけどね」
そう連ねる骸さんの表情は、まるで普通の少年のよう
「愛吏、自分の所為にしないでください。…これは全て僕が僕の為にやったことです。貴女は何も関係無い。
貴女が責任を感じて、僕達と一緒に来る事は…許しません」
『むくろ、さ』
「愛吏…貴女が今、一緒に居たいのは…貴女の居場所は、」
骸さんが、オッドアイの視線を私からずらして
「―――…雲雀恭弥や、ボンゴレのところなんですね」
泣きながら頷いた。
ああ、この人は、いつも私の事を考えていてくれる。この人は、私のことなんて全て見透していた。この人は、骸さんは、昔も今も変わらず、こんなにも優しい。
『ぃ…しょに……っ一緒に、いたい……!
恭弥さんと、綱吉さま達とっ……!!!み、みなさんと、いたいんです……ッ……!!』
許してくれますか?
受け入れてくれますか?
許されなくとも、
受け入れられなくとも、
それでも私は、此処を望んでいたくて
「――――ああ。僕もだ。」
立っているのもやっとの体を引きずって、恭弥さんが私を抱きすくめた。
骸さんは薄く笑い、けれど瞳のなかの炎はそのままに綱吉さまに向き直る
「勘違いはしないでいただきたい。僕達は愛吏を諦めたわけではありません。…ただ、」
思い出したのだ。
彼女を取り返すのに必死で忘れていたこと。
「…泣かせたいわけではなかった、」
ぽつり。
雨の落ちるようなその言葉は、揺るがない彼の本心だったのだと思う。
彼女を見守る今回の事件の首謀者はまるで取り残されたこどものようだった。綱吉は、なんだかいきなりとてつもなく悲しくなって拳をぎゅうと握る。
彼のしたことは許されない。許されることではない。それは当然だけれど、
…それでも
「ぜんぶ…愛吏のためと思ってやったことなんだろ?」
ふ、と彼が笑う。
彼女のためだった。
そう…、信じていた。
そこよりこちらのほうがいいと、ここなら絶対に傷つかないから、悲しむことがないから。だからはやく、はやくはやく、
本当は思い出させたくはないけれど、自分達のことを思い出してもらうためにはしかたがなかった。
だからその代わりに、めいっぱい甘やかそう、めいっぱい笑わせよう。
だってここには
「彼女を大切にできるのは、僕達だけと思っていた」
キミをまるごと愛してるものしかいないから。
「…クフフっ、…そうか。…そうですね。
僕達の愛吏が…愛されないはずがなかったんです、」
なにより大切な貴女が、そこを望むのなら。
…さびしいけれど、悔しいけれど、
「愛吏がそれを望むのなら…無理に引き離すことはしたくありませんからね、」
「いやお前無理に引き離そうとしてたよな」
「何のことでしょう、愛羅。」
「お前な……」
「骸さん、しらばっくれたびょん…」
「…手のひら返し…」
震える手で彼女の髪を梳く。
いっそ吸い込んでほしいと思った
「愛吏。…また迎えに行きます。
何度でも、僕は貴女の傍に行きますから。」
「…来なくていいよ」
「…雲雀恭弥、
今だけ、愛吏を頼みましたよ」
「「「「(今だけ、を強調した…)」」」」
「未来もだけどね」
「(こ…この2人ッ、子供の喧嘩してるー!!!)」
「医療班が着いたぞ」
『!よかっ…』
「いーや、医療班じゃないよ」
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