崩れた塔と鳥の影
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「不気味、ですか……?」
「気色が悪いものですよ。痛みを伴わない快楽には、歯止めが効きません。魔法使いのように心を使うこともなく、人のように体を使うこともなく、石の力で願いが叶うなら……砂場で遊ぶ子供のように、人間たちは世界を作り変えるでしょう」
「何見てるの?すごいもの?面白いもの?」
シャイロックに続いて今度はムルがひょっこりとバルコニーに姿を現す。
「ムルにとっては、すごくて、面白いものなのかもしれないわね」
「ごらんなさい。世紀の天才ムル。あなたの発明した魔法科学技術が、いびつな奇跡を起こしてますよ」
「……ムルが発明した……?」
思わぬ事実に晶はシャイロックに思わず聞き返していた。
「ええ、そうです。マナ石を動力にした魔法科学技術を発明したのは、以前の彼です」
「ムルは哲学者であり、発明家であり、天文学者であり、鉱物学者であり、知的欲求の怪物でした。ですが、自分が暴き立てた世界の秘密が、どのように世界を変えてしまうのかは、関心のない人でした。何度も、何度も、私たちは止めたのに」
「よくわかんない!」
シャイロックとゲルダの言葉にムルは太陽のような笑顔で答えた。
それとは反対に、シャイロックとゲルダはムルを一瞥して、皮肉気に微笑んだ。
「そうでしょうね。だから、私はあなたが嫌いだったんです」
「私も、あなたが嫌だったわよ。ムル」
ムルが何かを言いかける。
それを遮るように、ヴィンセントの声が響き渡った。
「予定通りの進行だ。魔法使いたちに出番はないようだな」
「……っ、叔父上、そのような言い方をなさらずとも……」
ヴィンセントの自信に満ちた声とアーサーの傷ついた声を聞きながらゲルダはバルコニーから姿を消した。
彼女が再び現れたのは城の天辺の屋根の上だった。
「魔法科学技術、ね……」
そう呟くと、ゲルダは瞼を閉じる。
瞼の裏に蘇るのは大好きだった人が石になる瞬間だった。
ゲルダが痛いほどに握っていた手は忽然と姿を消し、力の行き場のなくなった彼女の手は空を掴む。
眼前には人の姿はなく、代わりにそこには先程までそこにいた人物が放っていた魔力の宿る小さな石が鎮座していた。
その人物が横になっていたベッドにはまだ温もりと香りが残っている。
しかし、手に取ったその石はそんな温もりや香りはかけらもなく、とても冷ややかだった。
「はぁ……」
ゲルダが瞼を開ければ、続いて口から重いため息が漏れる。
彼女は親しい人が石になった瞬間を見たその時から、マナ石をただの石として見れなくなっていた。
普通の生物であれば土や墓の中で安らかに眠れるはずの亡骸。
ゲルダにとってマナ石は亡骸と同じ存在に思えてならなかった。
しかし、マナ石の場合は安らかに眠ることは許されない。
どこか無防備に置いておこうものなら誰かに掠め取られ、欲望のために消費され、消えてなくなる。
更にゲルダは魔法科学技術の発展により、西の国で起きた魔法生物の乱獲事件も鮮明に覚えている。
欲望のために命が大量に狩られ、物のように淡々と消費されていく。
ゲルダにはそれが不快でならなかった。
彼女自身の家にあるマナ石はわずか3つ。
そのどれもが消費用や自身が口にするためではない。
彼女の大切な者たちは何重もの結界で守られ安らかな眠りについている。
オズでさえ、破るのは困難だろう。
ゲルダは現在魔法科学兵団がいるであろう中央の門を睨みつけた。