崩れた塔と鳥の影
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「あの、頼りない青年風とか素朴ではありませんでした...。ちゃんと迫力あって怖かったです...」
晶はフィガロをチラリと見ながら告げる。
その声には言葉の通り少しの恐怖と先程の困惑が滲んでいた。
「嘘。勉強し直しだな。怖がらせるつもりはなかったんだ、ごめんね」
悪びれなく謝って、フィガロはミスラたちに向かい合った。
そして、診療前の医者のように腕まくりをする。
「とにかく、今回みたいなことは、これきりにしてくれよ。...さて。ミスラたちの相手だっけ?」
「嫌な男が出てきましたね...」
「フィガロいるなら私いなくてもいいんじゃないかしら?」
「いや、手伝ってくれよ。ミスラもオーエンも手強いし。2:1なんてさ。俺、もう、年なんだし...」
「フィガロ様は若々しいですよ!」
ゲルダの言葉に困った様子のフィガロだったが、次に出たアーサーの言葉に彼は先程とは打って変わった明るい声で答えた。
「ありがとうアーサー。健気な声援があるなら、フィガロ様、頑張っちゃおうかな」
不意にフィガロが口端をあげる。
その様子に、ミスラがピリピリと殺気を放った。
その時...
ガチャリとバルコニーのドアの開く音が響く。
ホールからバルコニーに入ってきたのはルチルとミチル。
南の兄弟だった。
「フィガロ先生ー」
「フィガロ先生いますかー?」
2人の登場と、フィガロを呼ぶ声に彼は動きを止めた。
そして突如、気の抜けた声で、にこやかに振り返る。
「なーにー?」
「ケーキが出てきましたよ!」
「フィガロ先生の大好きな、栗がいっぱい乗っていました!一緒に食べませんか?」
「やったー!食べる食べる!」
アーサーに答えた時よりも明るく、純粋に好物を喜ぶフィガロ。
さっきのピリピリした雰囲気は一瞬にして霧散していた。
二重人格かと疑うほどの素早い変わり様にオズは一瞬沈黙した。
「......。おまえ、自分の生き方に疑問はないのか」
「やかましい。......というわけだ。力になれなくて悪いな」
口ではそう言いつつもフィガロは特に悪びれた様子なく、オズに告げる。
「......栗のために立ち去るのか?」
「栗なんて商人を襲えば手に入る。あの子たちの真心に応えるためさ。俺は善良で優しい男だから。おまえもミスラと仲良くしろよ。ケーキを分け合ったりしてさ。友情や愛情はいいものだよ」
「善良で優しい…ね…」
「何かおかしなこと言ったかな?ゲルダ」
「いいえ、なんでもないわ」
善良で優しい男は世界征服の手助けなんてしない…なんて思い立つ、フィガロの言葉にゲルダは微笑みながら首を振った。
「フィガロ先生、賢者様たちとお話ししていたんですか?」
「大丈夫。もう終わっ.......」
「良かったら、みなさまの分も、こちらに運びましょうか?切り分けてきますよ」
こちらに近づいてきたルチルはフィガロの声を遮り、フィガロへ向けていた視線を晶たちに移して提案してきた。
「あ、いえ、私たちは......」
「ケーキがあるんだ?」
晶が断ろうとするといつの間に彼女の後ろに移動していたオーエンがルチルの言葉に反応した。
「わっ.....!急に後ろにいるからびっくりしました」
「食べようかな」
晶の驚いた様子を気にした様子も無く、オーエンはご機嫌な様子でそのまま続けた。
「では、お持ちします。ええと、オズ様とアーサー様、ゲルダさんとミスラさんは?」
「いや」
「私は結構だ」
「私も大丈夫よ。ありがとう」
「ホタテの殻以外のものなら食べます」
「やっぱり、美味しくなかっただろう」
「前に同じ形のものを食べたら、甘くて柔らかくて美味しかったんですけどね。収穫時期によって味が違うんでしょうか」
「ああ!それはマドレーヌだ。メイドたちに運ばせよう」
「ケーキ、僕はたくさん食べる。大きなお皿に取ってきてよ」
アーサーとミスラが話しているのをそっちのけでオーエンはルチルに話しかけていた。
「わかりました。甘い物お好きなんですね」
「うん」
オーエンは笑顔でルチルの言葉を肯定した。
「何が一番好きですか?あったら、持ってきますよ」
その様子を見たミチルはオーエンに質問をするが、その答えはミチルが予想していたものとはだいぶ違った。
「赤い果物をぐちゃぐちゃに潰して、たっぷりの砂糖と、ぐつぐつ煮立てた、治りたての傷口みたいな食感のやつ」
「............。え......」