崩れた塔と鳥の影
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シャイロックはムルが粗相をしないように彼が向かった方に歩いて行った。
それから少しして、ゲルダは急に手に持っているグラスの感触が不意に消えたことに気がついた。
(もう夜か……)
窓を見れば夕焼けのオレンジは無くなり、代わりに夜を表す紺碧が窓を彩っていた。
ゲルダは残り少なくなっていたシャンパンを一気に煽る。
先程まで感じていた炭酸の心地よさなどはやはり、感じることができなかった。
心の中でゲルダが少し落胆していると、いくつかの空のグラスと数種類のドリンクを乗せたトレイを持った男性が彼女に声をかけた。
「おかわりはいかがですか?」
「いえ、大丈夫です」
「では、空のグラスはお預かりしますね」
「ありがとうございます」
そうして男はゲルダからグラスを受け取る。
しっかりと受け取ったことを目で確認するとゲルダは指を離した。
ゲルダからグラスを受け取った給仕の男はグラスをトレイに乗せて背を向けて歩いていった。
そして次の瞬間、気がつくとゲルダはバルコニーにいた。
目の前にはミスラとオーエンの姿。
近くにはヴィンセントの姿も確認できる。
隣を見ればフィガロがおり、後ろを振り向けばそこにはオズと晶とアーサーがいた。
「あれ?オズ、お前が呼んだのか?」
「ん、急に何?」
「……ふぁ……。弱い魔法なら、なんとか使えるようだ……。……だが……、眠い……」
オズは眠そうに欠伸をすると少し目の端に溜まった涙をさっと拭う。
「こら。人を呼びつけて欠伸をするな」
「失礼よ」
突然、呼び出されたことに動揺もしない2人に、オズは告げた。
「一時的に魔力を失っている。ミスラとオーエンからアーサーを守れ。おまえたちならできるだろう。フィガロ、ゲルダ」
「…………」
「ああ、もしかして、厄災の傷かしら?正直、あまり相手はしたくないけれど……可愛いアーサーが殺されるところを黙って見ているわけにはいかないわね」
ゲルダとフィガロの言葉を無視し、要件を伝えたオズにフィガロは苦笑いを浮かべ、ゲルダは察したように微笑むと、その手の中に香水瓶が現れた。
「……フィガロとゲルダならできる……?フィガロたち南の魔法使いは、力が弱いんじゃないんですか……?」
「フィガロは北の魔法使いだ。私より長く生きている」
「私も元北の魔法使いですよ。賢者様」
「え……!?」
オズもゲルダの言葉に晶は驚き、2人を見やった。
しかし、この場で驚いているのは晶のみ。
アーサーやミスラ、オーエンは驚いた様子は無く、普段と変わらない表情でそこにいた。
「おまえさあ……」
フィガロはオズに向かってぼやいた。
「こうやって毎回、俺のスローライフを邪魔するのは止めてくれないか?」
「スローライフとは」
「のんびりした平穏な生活のことよ。前の賢者様が言っていたわ」
オズの疑問にゲルダが淡々と答え、フィガロはその言葉に同意した。
「そうだ。いいか、オズ。俺は善良な一般市民でありたいんだよ。南の国で俺はただのちょい悪オヤジなんだ」
「ちょい悪オヤジとは」
フィガロはオズの次の質問には答えずに言葉を続ける。
「ルチルやミチルは俺の過去を知らない。フィガロ先生は何もできないんだから、なんて言ってくれるんだよ。最高だろ?」
「本当はなんでもできるくせに……」
「フィガロ様はなんでも出来る方ですよ!」
ゲルダが小声で呟いた声はアーサーの声にかき消された。
「ありがとう、アーサー。相変わらずアーサーはかわいいね。偏屈な男に育てられたっていうのに」
フィガロはアーサーの頭を撫でた後、晶の方を振り返って、困った顔をした。
「ああ、賢者様にも知られちゃった。頼りない青年風味で、素朴に迫ってたのに」
「賢者に迫ったのか……」
「賢者様に迫ったんですか?」
「賢者様に迫ったの……」
オズとアーサーは驚いたように、ゲルダは少し呆れたように呟いた。