北の魔法使い
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かつ、こつ、と静かに、オーエンが広間を前に進んでいく。
晶が周りを見れば、みな、青ざめた顔で足元を見て、オーエンと目を合わせようとしなかった。
ただ1人を除いて…
「オーエン……!」
「……おや、騎士様。よく似合っているじゃないか。僕の目玉」
(そうだ……。カインはオーエンに、片目を奪われたって……)
「こっちの赤い色の方は、元々俺の目じゃないんだ」
「カインの目じゃない?」
「ああ。性格の悪い魔法使いに、無理矢理、片目をえぐり取られてな」
「え……!?」
「そこに、そいつの目をはめ込まれたんだ」
「オーエンだ」
「……え?」
「俺の目を盗んだやつ。北の魔法使いのオーエンと言う。あいつにはあまり近づくなよ。オーエンに会ったらまず目をそらせ。その次に、オーエンの言葉を聞くな。オーエンと会話をしたら最後だ。しっかり自我を持っていないと、闇の底に引きずられる」
「……わかりました……」
晶はカインから聞いたオーエンのことを思い出して背中に寒いものが駆けていった気がした。
「お前の姿だけ見えるとは……。皮肉なものだな」
カインは眉を顰め、オーエンを睨みつける。
「ふふっ……。何言ってるの」
オーエンはおかしそうに笑みを含んで、扉を振り返る。
続いて姿をあらわしたのは、晶も会ったことのある人物だった。
「ちっ……。北の魔法使いブラッドリー」
「……ブラッドリー……!」
まさか、彼までいると思っていなかった晶は驚きの声を上げた。
いつかの夜、突然姿を消してしまったブラッドリー。
飛んだ先は北の国だったようだ。
「せっかく、自由の身になって、羽伸ばしたっていうのに……。胸糞悪い目にあったぜ」
体についた雪を払いながら、ブラッドリーは、ずかずかと大股で歩き出す。
そんな彼の姿に、ネロは驚愕して、立ち尽くしていた。
「…………」
「よう、ネロ。久しぶりじゃねぇか。俺がぶちこまれている間に、盗賊団からは足を洗ったのか?」
「……盗賊団……?」
先日、料理屋だったと紹介されたネロと盗賊団の関係に疑問を抱いたリケは思わずネロの方を見て聞き返していた。
ネロは険しい顔で、低い声で、言い捨てた。
「……てめぇには関係ねえだろ」
「あっはは!その紋章!おまえもか、ネロ!」
「…………っ」
賢者の魔法使いに選ばれたという事実を示す黒百合の模様。
その模様を左上腕にチラッと確認したブラッドリーは豪快に笑った。
ネロはその様子にさっと目を逸らした。
突然現れた、三人の北の魔法使いたち。
彼らを前に、先程まで華やかだったお城の広間は、恐怖と絶望の空気に満ちていた。
それは圧倒的な、彼らの力を示していた。
ミスラ。
オーエン。
ブラッドリー。
彼らがその気になれば、このお城は簡単に征服できてしまう。
先程、高圧的な態度を取っていたニコラスはもちろん、権力を持つヴィンセントでさえ、身動きひとつ取れない。
少しでも動いたら狩られてしまうような不安と恐怖。
それらが会場に充満していた。
しかし、彼らはこの場にいる者達を攻撃しなかった。
不満げに、誰かを待つように、不可思議な扉を振り返っている。
そして、最後に扉から出てきたのは……
「…………」
「……オズ……」
「……オズ様……!」
魔道具である杖を手にした、オズだった。
オズが出るのを待って、重々しい音を立てて、扉が閉まる。
粉雪だけを残して、幻のように、それは消滅した。
みなが信じられない顔で、オズを見つめている。
オズは何も言わなかった。
(オズ……。もしかして……。私たちの説得を聞いてくれた……?だから、北の魔法使いたちを従えて、ここに……)
晶がそう思っていると、オズが静かに口を開く。
「中央の魔法使いオズだ。これで賢者の魔法使いは揃ったはず。中央の国王の弟よ。他に不服があるなら申してみよ」
「…………」
彼の声は静かだが力強く、凛とこの空間に響いた。