グランヴェル城でのパーティ
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「乾杯!」
「乾杯」
「乾杯、去年よりはいいシャンパンですね」
「それっていいこと?」
「お酒好きのシャイロックにとってはとてもいいことじゃないかしら?」
「ふふっ、ええ、とても。ゲルダにとっても良いことなのではないですか?」
「お酒は好きだけどシャイロックほどじゃないわ。私がシャイロックの店に通っていたのは他でもない貴方が作るお酒とあの店が気に入っていたからよ」
「おや、光栄ですね」
「おお!あなたはもしや、高名な哲学者のムルではありませんか?」
3人が話をしていると1人の男がムルに声をかける。
「ニャーオ!」
「…………!?」
鳴き声を発しながら振り向いたムルに男は驚いて言葉に詰まった。
「人違いですよ。ただの野良猫です」
「突然鳴きだしてしまって、すみません」
シャイロックとゲルダはそう言ってシャンパンを一口飲んだ。
会場では食事をする者、談笑をする者、楽器の生演奏に合わせて踊る者と様々だ。
ゲルダが談笑しながら食事に舌鼓を打っていると、ふと嫌な気配がこちらに来るのを察した。
(この気配はニコラスとヴィンセント王弟殿下の…)
魔法化学兵団団長ニコラスと中央の国王の弟ヴィンセント王弟殿下。
ゲルダの中の嫌いな分類に入る人間たちだ。
西の国を訪れ、魔法科学技術の知識をつけ、中央の国に戻った元中央の国の騎士団長。
国民のことよりも自身のことしか興味がなく、アーサーが戻ってくるまでこの国の政務を引き受け、この国を自分の思うがままに操っていた王弟殿下。
人間が魔法使いを恐れ、忌避する限り、仲良くなれる人物など極少数であることは承知の上ではあるが、魔法科学技術が生まれたことと、それを身に付け、手元に置くことが叶った故のこちらを見下すような態度。
魔法使いのこと知ろうとも、理解をしようともしない。
更には力を持ったが故に、魔法使いを侮辱し、踏みにじり、存在すら否定する。
西の魔法使いながら、中央の国に幾度となく出入りをし、このグランヴェル城からも依頼を受けたことのあるゲルダはそれをよく知っていた。
2人に似た考えを持つ人物は西の国で腐るほど見てきたゲルダだが、その度に少しの憂さ晴らしにその人物を転ばせてたり、持っていた荷物の紙袋の底を魔法で裂いて困らせてやったりなどちょっとした悪戯を仕掛けるようなことはよくあった。
しかし、今回は違う。
彼らはこの国を統べる王家の血筋と軍の長だ。
少しでも手を出せば国際問題になりかねない。
更に彼らには軍を動かす権力がある。
最悪、魔法使いと人間の戦争が始まってしまう。
(それだけは避けなければならない…)
彼らに会うのを回避するべく、ゲルダはバルコニーの方へ足を向けた。
「おや、ゲルダ。どこに行くんですか?」
「……ちょっと外に出てくるわ」
「…分かりました」
シャイロックはゲルダの心境を察したのか理由を聞かずに彼女を送り出した。
グラスを持ち、バルコニーに出れば先程とは違い、空は夕焼け赤と夜の紺のグラデーションに染められていた。
もうすぐ夜が近いのだろう。
ゲルダは屋根の上に上がり座ると指を一振りする。
すると1匹の黒猫が忽然と姿を現した。
その猫の首にはキラキラと輝く小さな氷花の飾りが青いリボンでくくられている。
「久しぶり。屋敷は変わりないようね」
「はい。変わりないです、姉様」
黒猫の口から出たのはニャーという猫の鳴き声ではなく、少年のような男の声だった。
ゲルダのことを姉様と呼んだ黒猫は膝に顔を擦り寄せる。
「ふふっ。カイはいつでも甘えたがりね」
「ダメですか…?会えるのが久しぶりなので、つい…」
「ふふっ、ダメなんて言ってないでしょ?よしよし」
カイと呼ばれた黒猫は顎を撫でてやれば気持ちよさそうに猫らしくゴロゴロと喉を鳴らした。
彼はゲルダの使い魔の黒猫だ。
150年前程までは言葉を話さない普通の黒猫だったが、ある事件がきっかけでこうして話せるようになったのだ。
その事件はまあ、後程…。
北の国にある屋敷には強固な結界を貼ってあるが、異常があった際にはすぐに知らせるように命令をし、屋敷を常時警備している。
更には猫とは思えない知能で屋敷の植物の管理をできる限りしていた。
首の氷花の飾りには転移魔法がかかっており、カイが呪文を唱えれば、一瞬で主人であるゲルダの元に飛ぶことができるという代物だ。
「今年もお役目ご苦労様です。姉様。無事で何よりです。この前一度屋敷に帰ってきましたよね?すぐに戻ってしまわれましたけど…」
カイの声は少し不満なのか拗ねているように聞こえた。
「ふふっ、もしかして、妬いているの?可愛い子ね」
「…僕はいつも妬いてますよ。姉様と多くの時間を共有しているあの人が羨ましい…」
「あの人って、シャイロックのこと?」
ゲルダの言葉にカイはコクンと頷く。
「……まあ、悪い人じゃないことは知っていますし、姉様が幸せなら僕は構わないです」
「……そうね。今、とても幸せよ。貴方とまだこうして話せていることも含めて、ね。今度こそ、貴方を守りきってみせるわ」
そうしてゲルダはカイをそっと抱き上げると優しく抱きしめた。
「!姉様…」
カイは嬉しいような、苦しいような声で呟くと、ゆっくりとゲルダに身を委ね、彼女の温もりを感じながら目を閉じた。