魔法使いと合コン
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夜も深くなってきた頃、ゲルダが部屋で作業をしているコンコンと扉がノックされた。
既にネグリジェに着替えてしまったため薄手のカーディガンを羽織ってゲルダは扉を開ける。
「こんばんは。ゲルダ」
そこにいたのはシャイロックだった。
「こんばんは、シャイロック。どうしたの?こんな遅くに…」
「今朝作ったハーブワイン、夜に飲むと言っていたでしょう?持ってきたんですが一緒にいかがですか?」
そう言ったシャイロックの手にはゲルダが今朝見かけたボトルと2つのワイングラスがあった。
「…そういえばそうだった。色々なことがありすぎて頭の中から抜けていたわ…」
「おや、珍しいこともあるものですね。疲れているようでしたら今夜はやめておきますか?」
「いいえ。せっかく持ってきてくれたんだもの。付き合うわよ」
「ふふ、ありがとうございます。では、用意しますね」
そうしてシャイロックはゲルダの部屋に入り、窓際にある2人掛けのソファーに腰を下ろす。
この部屋にはソファーとその近くにある丸いサイドテーブルの他にシングルベッドと大きな作業台のような長い机にそれに合わせた椅子、そして様々な瓶が並ぶ棚があった。
瓶の中には液体や乾燥させられた葉や花、水にさらされた生花などが入っている。
机の横には様々なラッピング用紙がロール状になっており、立てかけてある。
机には使いかけの様々な色、幅のリボンがいくかと何本かの黄色の花と水の入った瓶、そしてほのかに黄色がかった液体の入った瓶が置かれていた。
ゲルダは花を水の入った瓶に入れ、それぞれの瓶を片付けると別の瓶をそっと取り出す。
そこの中には様々なドライフルーツが入っていた。
シャイロックはサイドテーブルを中央に移動させ、グラスを置くとワインをそれぞれに注ぐ。
「おつまみはドライフルーツでいい?この間作ったやつがちょうど余っていたの」
「ええ。ありがとうございます」
ゲルダはシャイロックの隣に腰掛け、瓶をテーブルの上に置き、蓋を開ける。
そしてワインの入ったグラスをそっと手に取った。
(感覚が無い分うっかり落としてしまいそう…)
グラスを口元に持っていけばハーブのいい匂いが彼女の鼻をくすぐる。
ワインを一口、口に含むが滑らかな舌触りも冷えているはずのその温度も感じない。
ただ、いつもと変わらない美味な味だけが口の中に広がった。
喉を鳴らしてワインを飲み込んでも食道を液体が通っている感覚はしない。
紅茶を飲んだ時も同じ感覚だったが、彼のワインの魅力が少し落ちてしまったように思えてゲルダは小さくため息をついた。
小さいはずのため息は静かなこの空間にはやけに大きく響いた。
「おや、今回のはお口に合いませんでした?」
「そんなことない。いつも通り最高よ」
「では、ため息なんてついて、どうかしましたか?」
「……厄災の傷よ」
「ため息がですか」
シャイロックは微笑んで冗談めかしながらこちらに尋ねる。
「ふふっ、だとしたら随分と軽い傷ね」
そうだったらどんなに良かったかとかと思いながらゲルダはワインを見つめる。
シャイロックは急かそうとせずにゲルダの出したドライフルーツを摘み、ワインを飲みながら落ち着いた眼差しでゲルダを見つめていた。
「…私の傷は触覚が機能しないことみたい。さっき庭を包んだ炎に近づいた時も、あなたに触れた時も何も感じなかった。そして今も…。温覚、冷覚、痛覚も機能していない。でも、朝、おじやを食べた時は普通だったからたぶん夜だけだと思うけど…」
「それで私のワインもいつもと違うように感じると」
「そうなの。味がするだけで液体の感触は全く無い。それで、このワインの魅力が少し落ちたように思えて…。まあ、このままでも十分美味しいけどね」
「そうでしたか。触覚が無くなるのは厄介ですね…」
「ええ。触れている感覚が無いから気を使うし…。早く治らないかしら…」
「そうですね。私の傷もかなり厄介ですから早く治って欲しいものです」
そうして2人は再びグラスに口をつける。
それからはワインとドライフルーツを楽しみながら2人は色々な話をする。
今日来た新しい仲間たちのことから最近の仕事や厄災のことなど。
他愛もない話を2人は楽しむ。
たまに落ちる沈黙も心地がいいものだった。
そうしてシャイロックとゲルダは2人だけの秘密の晩酌を楽しんだ。