賢者の魔法使い
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「あなたも彼と同じように、遠い世界から来てくださったのでしょう?」
「はい。元の世界に帰りたくて……。その方法を一緒に探してくれたっていうあなたに会いたかったんです」
「そうでしたか……。王子としての務めのためとはいえ、駆けつけるのが遅れて、誠に申し訳ありませんでした。残念ながら、異界から訪れる賢者様を、異界へ帰す方法は、まだ見つかっておりません」
晶はアーサーの表情から、所作から心底申し訳ないという気持ちがまっすぐに伝わってくるのを感じた。
「ですが、優秀な学者たちを集めて、異界と行き来する方法について、探求を続けております。賢者様と紋章に選ばれた魔法使い……。この世界の仕組みは私たちにとっても謎だらけです。前の賢者様のお役には立てませんでしたが、調査を続けて、今度こそ、異界に帰す方法を見つけ出したいと思っています。それまで、どうか……。私たちに力を貸していただけませんか」
アーサーは不安そうに晶に問いかける。
その声に含まれる誠実さを感じて、晶はしばらく沈黙する。
その表情は少しの不安が滲んでいるものの、絶望などには染まってなどはいなかった。
それは晶が魔法使いのことを、この世界のことを少しでも理解し、興味を持ったからかもしれない。
「……わかりました」
「………賢者様………。ご期待に添えず、申し訳ありません」
「いいえ。気にしないで。あ……。本当のことを言うと、帰りたくて仕方なかったんですけど。あなたも、みなさんも、優しくしてくださるし……。もう少し、この世界を見たい気がするし……。……それに、今夜……。魔法使いと、人間が争うのを見て、何か私に出来ることがあればなって……」
そう言って晶は中庭を見やる。
そこはゲルダが早急に火を消したからか大事には至っていないもののまだ煙がくすぶったままだ。
あの炎を最初に付けたのは魔法使いなのか、それとも人間なのか。
双方、炎を付けた覚えがなく、魔法使いは魔法使いを信じ、人間は人間を信じるのだから話はどこまでも平行線だった。
そのため、この話は早急に切り上げられ、真相は分からずじまいとなった。
晶が目を伏せれば、アーサーはその様子に何かを感じとったようで深く頷いた。
「賢者様。私も同じ思いです。魔法使いと人間は、もっと、いい関係を築けるはずです。魔法使いと人間が互いを信頼し合って、力を合わせていくことが出来るよう、どうか、賢者様のお知恵をお授けください。よろしくお願いいたします」
そうしてアーサーは晶の手のひらをそっと握った。
その手の甲には、賢者の魔法使いであることを示す、あの百合の形の紋章が浮かんでいた。
手のひらの暖かさと、偽りのない笑顔の明るさに、晶はアーサーと仲良くなれそうな気配を感じていた。
「はい!私でよければ喜んで」
「ありがとうございます。賢者様」
晶の返事にアーサーは嬉しそう笑った。
不意に、アーサーの視線が辺りを彷徨う。
そわそわと何かを探している様子だった。
その様子にアーサーが育ての親同然であるオズを探しているのだろうとゲルダにはすぐに想像がついた。
キョロキョロとオズを探すアーサーはゲルダの瞳にはさぞ可愛らしく映っているのか彼女はアーサーのことを微笑ましそうに眺めていた。
アーサーは晶と目が合うと、あどけない緊張を浮かべて、おずおずと尋ねた。
「あの……。オズ様はどちらに……」
アーサーの言葉に晶はハッとしたかと思うと口を開いた。
「あ……。今はいないんです。だから、大丈夫ですよ」
晶の言葉にゲルダは疑問を覚える。
アーサーとオズは特に仲が悪いというわけではないと記憶していたゲルダだったが晶の言葉ではまるで2人が犬猿の仲のようだ。
しばらく会っていないうちに何かあったのかとゲルダは少し不安になった。
「そうなのですか……」
アーサーは残念そうに息を吐いた。
そして、晶の言葉を拾って、パチパチを瞬きながら不思議そうに尋ねる。
「大丈夫とは……?」
アーサーの反応から先程の自分の考えは違ったのだとゲルダは思い直してホッとした。
「あっ、いや……。会いたくないものかなと……」
「オズ様がそうおっしゃったのですか?」
明るい瞳を、悲しげに見開いて、アーサーはショックを受けていた。
その様子に晶は慌てて首を振った。
「いえ、私が勘違いしただけです。すみません、気にしないでください」
「そうですか……」
アーサーはほっと胸をなでおろした。
一方、ゲルダは賢者の書にどんなことが書かれていたのか興味が湧いたが、文字に関しては前の賢者に教えてもらえていないため読めないことを少し残念に思った。
「アーサー王子は、オズと知り合いなんですか……?」
「アーサーとお呼びください、賢者様。知り合いというか、私とオズ様は……」
「アーサー殿下!一通り、魔法舎の片付けが終わりました」
晶の質問に答えるアーサーの言葉を遮って、クックロビンが2人の元に駆けてくる。
「まだ細かいところは残っていますので、必要があれば、このまま作業を続けますが……」
「いや、今夜はもう遅い。みな、疲れ果てているだろう。今夜は帰って、また改めて修理に来てくれ」
「わかりました。アーサー様はどうなさいますか?」
「私は残って、他の魔法使いたちと、もう少し話してから帰る」
「では、護衛のものを……」
「必要ない。ここは戦場ではないのだから」
「でも、夜道は危ないですよ」
「危ないものか。深窓の姫君ならわかるが、おまえたちと違って、私は空を飛べる。今夜のように明るい夜に怖いものはないよ。私の方こそ、おまえたちの帰りが安全なように、魔法で光を灯して、見守っていよう」
心配そうなクックロビンにアーサーはいたずらっぽく微笑んだ。
ふわりと風をまとって、アーサーはゆっくりと、夜空に舞い上がり、大きな月の真下で静止した。