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「全く、あの2人ったら魔力もほとんど残っていないのに飛び出して…」
「仕方のないことですよ。あの2人はそういう人なのですから。まあ、貴方にも言えたことですが…」
いきなり聞こえた聞き慣れた声にゲルダの肩がビクッと跳ねた。
高くお団子に纏め上げ、ゲルダと同じく横座りに箒に乗っている青年、シャイロック。
あちこちに自由気ままに飛んでおり、風に煽られ、紫の髪が乱れているのも気にしない青年、ムル。
2人がゲルダの後を追ってきていた。
「シャイロック…。それにムルまで…。ついてきたの?」
「貴方も魔力を相当消耗していますからね。1人で行かせるのは不安だったんです。いつもの箒の速さも出ないようですしね」
「あはは…。確かに今はこの速さが限界よ…」
いつも緊急時や急ぎの時は流れ星のような猛スピードで箒を扱うことができるゲルダも今は目で追えるくらいにはスピードが落ちていた。
「俺は面白そうだからついてきた!」
「ムルらしい…」
しばらく3人が飛んでいると眼前には中央の国の塔がはっきりと見えてきた。
賢者はいつもあの塔のエレベーターで現れる。
先に出て行ったカインとヒースクリフも恐らくここにいるだろうとゲルダたちは踏んでいた。
「中央の塔が見えてきましたね」
「2人とも無事だといいけれど…」
「…ええ。そうですね。こら、よそ見をしないで。置いていきますよ、ムル」
「今行く〜」
返事こそしているものの、視線は<大いなる厄災>に釘付けであちこちに飛んでおり、今にも見失いそうだ。
「……シャイロック、先に行きましょう。待っていたんじゃ間に合わない」
「はぁ…。そうですね。いきましょうか」
ゲルダとシャイロックは少し呆れたように苦笑してムルを置いて中央の塔に向かった。
窓から中を見てみればヒースクリフ魔法を使い、騎士団の動きを止めていた。
シャイロックとゲルダは誰もいない踊り場の窓辺へと足をかけ、中に入る。
シャイロックは窓辺に腰掛け、徐にキセルを取り出し、吸うと煙を吐き出した。
彼の吐き出した煙はワインのような甘い匂いを放って辺りを包み込んだ。
異変に気がついた賢者が窓辺を向けば、シャイロックの側で壁に寄りかかっていたゲルダの青い瞳と目が合った。
目があったことに気が付いたゲルダはとても綺麗に微笑んだ。
「「こんばんは」」
シャイロックとゲルダの声がピッタリとハモった。
「シャイロック!ゲルダ!」
「いけない人。カインと二人で無茶をして……。空を飛ぶのもやっとだったでしょう」
「だって、ファウスト先生が……」
「ヒース、分かっているわ。あとは、私たちに任せて」
「…そういうゲルダだって顔色悪いけど?」
「あなたたちを守るくらいできるわよ」
ゲルダの手にはいつの間にかガラスの香水瓶が握られていた。
「《…ルクス・ディールクルム》」
呪文を唱え、ヒースクリフに向かってシュッと一吹すれば、爽やかな香りがヒースクリフの鼻腔をくすぐる。
顔色は幾分マシになった。
「…ありがとう、ゲルダ」
「ただの気休めだからもう魔法は使わないようにね」
ゲルダがヒースクリフと話している中、シャイロックはヒースクリフの後ろにいる賢者と思しき女性に目を向け、優しく微笑みかけた。
「はじめまして、賢者様。私は西の国の魔法使い、シャイロック」
「あ、挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。はじめまして、賢者様。同じく西の国の魔法使い、ゲルダです。よろしくお願いします」
「……魔法使い……」
賢者と呼ばれた女性は言葉を反復する。
状況が飲み込めていないのか目は泳いでおり、声にも動揺の色が濃く滲んでいた。
そんな様子を気にした様子も無く、シャイロックは艶めいた仕草でパイプを口に咥えた。
「ま、魔法使いがまた増えた!」
「ひ、怯むな!<大いなる厄災>との戦いで、力を使い切っているはずだ…!」
シャイロックは何も言わずに、ふう、とパイプの煙を吐き出した。
すると、先程と同じように白い煙が辺りを漂い、ワインのような甘い香りを部屋中に広げていく。
兵士達は酔っ払ったように、急にフラフラし始めた。
彼の魔法が効き始めたのだ。
「ふふ……。あれれ……?なんか楽しくなってきたぞ……」
「へへ……。暖かそうなベッドだ……。もう寝ちゃおう……」
「《ルクス・ディールクルム》」
ゲルダが天井に向かって香水を一吹すれば甘い匂いはさらに強くなり、なんとか耐えていた兵士もあっという間にご機嫌な顔をしながらバタバタと床に倒れていった。
高く足を組み直してシャイロックはパイプから唇を離した。
「いい夢を」
その時、階段の上からカインが駆け寄ってきた。
「シャイロック、ゲルダ、助かった!」
「貸しにしておきますよ。今度、一杯ご馳走してくださいね」
「私もそれでいいわよ」
「一杯と言わず、一晩付き合うさ」
カインは眩しい笑顔で答えたがすぐに真剣な顔になり、女性に手を差し出した。
「賢者様、行きましょう」
しかし、差し出された手を女性は取ることは無く、不安そうに迷ったように視線を彷徨わせていた。
その様子にカインは優しく、真摯に頷いた。
「ああ……。悪かった。賢者様は異世界からやって来るんだよな。じゃあ、あんたは何も知らないわけだ。何も知らないのに、ついてこいって言われても怖いよな。……ええと……」
「カイン。この世界や賢者の役目について、全部説明してる暇はありませんよ」
「わかってる。だが、何も知らない相手を、連れ去るのは騎士の仕事じゃない」
カインは少し考え込んだ。
「…魔力がもっとあれば賢者様にこの世界の記憶を見せられたのに…ごめんなさい」
「いいや。ゲルダが謝ることじゃないさ。…晶、単純な説明をしよう。俺たちはあんたの力が必要だ。あんたの力を貸してほしい」
どうやら女性の名前は晶というらしい。
晶は黙って会話や言葉に耳を傾けていた。
「なんでかっていうと、俺たちがボロ負けしたからだ。毎年簡単に勝ってた勝負に大負けした。油断したつもりも、手を抜いたつもりもない。ひげのじいさんたちは、俺たちがいい加減に、仕事をしたと思って怒ってる。だが、そうじゃない。なんだかわからないまま、俺たちは負けて、仲間を半分失った。もう何も失いたくない……」
カインの声には悔しさと悲しみ、そして決意が現れていた。
「だから、あんたの力を貸して欲しい。もちろんそれは俺達のわがままだ。この世界はあんたの世界じゃないし、あんただってしたいことがあるだろう。あんたには断る権利があるし、それは誰かに責められることじゃない。だけど、俺たちは、どうしても、あんたが必要だ」
晶を真っ直ぐ見つめ、話すカインの姿に魔法使いは誰も口を挟まなかった。
まるでカインの言葉が彼らの総意であるかのように。
「あんたが一緒に来てくれて、力を貸してくれるなら、何だってしよう。俺が示せるだけの勇気と誠意を見せよう。この身で返せるだけの、感謝と礼を示そう。この誓いに形はないが、どうか、頼む。俺たちを信じて、俺たちに力を貸してくれないか」