魔法舎に火を放て!
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「……っ、……心臓が……、心臓が燃えてる……っ」
シャイロックは苦痛に顔を歪めて、言葉を絞り出した。
「シャイロック……」
「……っ、……く……」
「痛い?」
ムルは心配なんてしていないようないつもの顔でシャイロックに聞いた。
「……っ、嫌な人……。見ればわかるでしょう……っ」
「辛いんでしょ?無理して話さないほうがいいわよ」
ゲルダは心配そうに顔を歪めながらシャイロックに忠告した。
「どうやら、いよいよ、<大いなる厄災>の影響のようじゃの」
「我ら、<大いなる厄災>と近づきすぎた。昨夜の戦いで、見えぬ傷を負ったのじゃ」
「俺たち全員が……!?」
双子の言葉にヒースクリフが声を上げる。
「そうじゃ。知らぬうちに、魂に深手を負ったのじゃ」
「その傷の形は人それぞれにあらわれる。絵に閉じ込められた我らも、カインの目も、消えたブラッドリーも……」
「……どうすれば……」
カインが呟いた瞬間、兵隊が食堂に流れ込んできた。
「うおおおお……っ!」
「……あいつらがやってきた。賢者様、下がってください!お守りします」
ヒースクリフは晶を下がらせ後ろに庇う。
「でも……」
晶はまだこの状況に迷っているようだった。
「ヒース!ゲルダ!シャイロックを……。スノウ様とホワイト様も頼む!」
「わかっ……。お、多くない!?」
「大丈夫よ、ヒース。スノウ様とホワイト様は今は無機物だし魔法で飛ばせばなんとかなるわ」
「飛ばすでない!」
「丁寧に扱うのじゃ!」
「ムル、一緒に来い。どこに敵がいるか教えろ!」
「わかった!」
「後は頼んだぞ!」
カインはそう言うとムルと共に走っていった。
「わ……、わかった!」
「ヒースクリフ、ゲルダ、シャイロックをお願いします。スノウとホワイトの絵は私が持ちます!」
「わかりました!」
「ありがとうございます!ひとまず、魔法舎の塔に避難しましょう!シャイロック、大丈夫?」
「肩貸そうか?動ける?」
「……っ、さあ、どうでしょう……。代わってみます?」
「嫌よ」
シャイロックの言葉にゲルダは即答する。
「俺も嫌だよ、心臓が燃えるなんて……。……俺の傷、痛くないやつがいいな……」
「ふふ……。そう言ってると……。……っ……」
「黙ってて!痛いんだろう?」
「ほら、行くわよ」
そうしてゲルダは肩を貸すためにシャイロックに触れた。
それと同時に自分の手に違和感を感じる。
シャイロックに触れているというのに何も感じないのだ。
彼の服の質感も、服越しに伝わってくるはずの温もりも本当に触れているのかと疑う程なにも感じなかった。
ゲルダの頭についさっきスノウとホワイトが言った言葉がよぎる。
これが彼女の<大いなる厄災>による傷なのだろう。
自身の手をゲルダはまじまじと見つめるが兵隊の声で我にかえった。
「あそこだ、追え……!」
兵隊たちの声にシャイロックに肩を貸しながら、ヒースクリフが振り返る。
その手には、懐中時計があった。
「《レプセヴァイブルプ・スノス》」
「…………!」
ヒースクリフが呪文を囁くと、ギギギと軋みを立てながら、食堂のテーブルと椅子が蔦のように絡まった。
それはバリケードの代わりに、彼らの道を塞ぐ。
「急いで、こっちに!魔法舎の塔に隠れましょう!」
ヒースクリフの声にゲルダたちは塔の中に逃げ込む。
晶はスノウとホワイトの絵を抱えて、ヒースクリフとゲルダはシャイロックに肩を貸しながら進んでいた。
そして、しばらく進んだ頃、足を止め、ヒースクリフとゲルダはシャイロックから離れた。
「ふぅ、疲れた…」
「ここなら安全……。…………!」
塔の窓から中庭を見れば中庭は轟々と燃えていた。
「っ…!なんてことを…」
その様子にゲルダは悲しそうに顔を歪めた。
「中庭が燃えている!誰かが、火矢を使ったんだ……。……っ、そんなに俺たちが嫌いなのか……」
「そうではあるまい。怖いのじゃ」
「恐怖にかられたものは、自分や大切なものを守るために、なんでもしてしまうものなのじゃ」
「だからって……。…………!」
ヒースクリフが反論しようとすると、塔にも火が回ってくる。
「……っ、ここにも火が……」
「すぐに魔法で消します!《レプセヴァイプルプ……》」
ヒースクリフの呪文が終わる前に兵隊たちが追いついてきた。
それに驚いたヒースクリフの呪文はそこで止まってしまった。
「いたぞ!弓で仕留めろ!」
「早く攻撃しないと、魔法の炎で燃やされる!遠慮するな!魔法使いは不死身だ!」
「そんなわけないでしょうに……。……っ、うぅ……!」
胸の痛みにシャイロックが再びうずくまる。
晶はそれを支えようと手を伸ばし、苦しそうな呻き声にゲルダは反射的にそちらを向いた。
「「シャイロック!」」
シャイロックと晶、そしてゲルダに向かって無数の矢が放たれる。
「射て!」
「賢者様!シャイロック!ゲルダ!」
「………!」
「っ!《ルクス・ディール…》」
シャイロックに気を取られていたゲルダが急いで魔道具を出し、呪文を唱えるが既に矢は彼女らたちの眼前に迫っていた。