魔法舎に火を放て!
まほやく夢小説設定
本棚全体の夢小説設定魔法使いの約束以外の夢小説は一括で変更可能です。
魔法使いの約束は魔法使いの約束の名前変換場所からどうぞ。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その日の夜、ゲルダの部屋は甘い香りで溢れていた。
机の上には様々な液体の入った瓶にスポイト。
その様子はさながら実験室のようだった。
「よし、完成」
ゲルダが指を一振りすれば綺麗な黄金色の液体は瓶の中に吸い込まれ、蓋が閉まる。
「ふぅ…」
一息をつくと何やら騒がしいことに気がつく。
窓を見てみればそこには城の兵士たちがひしめき合っていた。
「!?何が起きているの?」
ゲルダは魔法で全てのものをささっと片付けると急いで階段を降りた。
「すみません……!ドラモンド様に、賢者様を魔法舎の外に、おびき出すように言われました!賢者様さえいれば、後は軍隊で魔法舎を武力制圧して、命令を聞かせればいいって!」
「なんだと!?」
「お、俺が言ったわけじゃないです!そう命令されただけです!……っ、俺だって、魔法舎なんか近づきたくなかったです!魔法使いに殺されるかも知れないし!」
すると途中でカインともう1人聞き覚えのある声が聞こえてくる。
ゲルダが声のする方に行ってみればそこは食堂だった。
昨日出会った書記官のクックロビンと北の魔法使いを除いた魔法使いと晶がいた。
ゲルダは話を聞くために食堂の上の柵に静かに腰掛けた。
「それに……。<大いなる厄災>と戦ってくれた、あなたたちに本当はこんなことしたくないです……。でも、大臣の気持ちもわかります……。魔法使いは、強い力を持っているのに、制御できないから……」
クックロビンは眉を下げて泣き出しそうな声で言った。
「………どうして、俺たちが制御されなきゃいけない」
ヒースクリフの瞳には嫌悪とかすかな傷心が浮かんでいた。
その様子にクックロビンは気まずそうに口を開いた。
「そ……、それは……。世界を救うために……」
「世界を救うために戦ったじゃないか!」
クックロビンの答えにヒースクリフは声を荒げる。
シャイロックも呆れて、もっと、侮蔑をあらわにしていた。
「何をしたって無駄ですよ。私たちが何を犠牲にしても、どれだけ、彼らに微笑みかけようとも。彼らの知らない、彼らより強い力があるというだけで、私たちは彼らの敵になるんです。上辺では、協力なんて言ってもね」
「まあ、貴方たちの気持ちも理解できないわけじゃないですよ」
新しい声が響いてみなは一斉にそちらを向く。
そこには柵に腰掛け、壁に寄りかかったゲルダの姿があった。
「自分より強い力を持っている人がいたら誰だって怖くなる。オズと他の魔法使いたちの関係のように。その力が自分たちに向かないか、不安だから管轄下に置きたいという気持ちも」
「ゲルダ、きていたんですか」
「さっきね」
シャイロックの言葉にゲルダは軽く答えると再びクックロビンを見下ろした。
「…でも、理解はできても従いたくはないです。クックロビンさん、私、言いましたよね?道具のように、奴隷のように扱われるのは嫌だと。私たちは機械じゃない。道具じゃない。貴方達より少し力を持ったただの人間なんですよ。心もありますし、思考もありますし、意思もある。嬉しいことがあったら喜んで、悲しいことがあったら涙を流す。嫌なことはやりたくないし、好きなことをして楽しんで人生を終えたい。でも、貴方たちはそんな私たちの気持ちを無視して自分の意のままに、操ろうと、駒のように扱う。私にしたらそんなことを実行に移そうとする貴方達の方が悪魔に見えますよ。この人でなし」
「っ…!」
そうしてゲルダはクックロビンを睨みつけた。
その視線は絶対零度の氷のように冷ややかで鋭い。
晶は自分が睨まれているわけではないのに背筋に寒気を感じた。
美人が怒ると怖いとは聞いたことがあるがまさにこのことだろうと晶は思った。
そして、その視線にクックロビンは蛇に睨まれた蛙のように怯えていた。
「よせ」
3人の言葉を聞いたカインが苦々しげに首を振った。
「たしかに、ドラモンド大臣や、魔法管理省の人間たちは、魔法使いに対して高圧的なところがある。俺だってやり口は好きじゃない。だけど、すべての人間がそうだと決まったわけじゃない。人間と魔法使いが、うまくやれる方法があるはずだ」
そう言ったカインの表情は本当にそう信じているようだった。
騎士団に人間と一緒にいた彼だから…それかまださほど生きていない魔法使いだからこそそんなことを言えたのかもしれない。
「っ…、そうです!そうです!そういう事が言いたかったんです!」
カインの言葉にクックロビンはなんとか言葉を発して賛同する。
「で、どうする?」
ムルはキョトンとした顔で尋ねる。
「スノウ様とホワイト様に相談しよう」
「いいよ。はい」
カインの言葉にムルは大きな何かを取り出し、皆の前に見せた。
ゲルダは柵から飛び降りるとゆっくりと下に降りてきた。
恐らくこれも彼女の魔法だろう。
彼女はみなのいる食堂に降り立つとムルの方に足を進めた。
「…………?なんだ?この額縁……」
「スノウ様とホワイト様の絵……?」
カインとヒースクリフは戸惑ったように声を漏らした。
ムルが出した大きなものは額縁に入れられたスノウとホワイトが描かれた絵だった。
「賢者よ」
「賢者よ」
「わ、喋った……」
絵の中のスノウとホワイトの口元だけが動きそこから声が漏れる。
「昨晩と同じじゃ」
「絵の中に閉じ込められてしもうた」
「どういうことですか!?」
「あれ、冗談じゃなかったんですか!?」
スノウとホワイトの言葉に晶とカインは驚いて声を上げた。
「あはは!面白い!」
「ムル、流石にこれは笑い事じゃ済まないわ」
「そうじゃ。ゲルダの言う通り、笑い事ではないぞ、ムル」
「絵の中では、何故か魔法が使えん」
「なんとか抜け出そうとしてみたが……」
「「むむっ……」」
すると額縁の中から、ぬるりと2人は姿をあらわした。
「「これが精一杯じゃ」」
「出てこられるじゃないですか。何を遊んでいらっしゃるのです?」
「違うわ、シャイロック。2人の影が絵の中に繋がってる…」
「「そうなのじゃ…」」
ゲルダの言葉に双子は困ったように口を揃えて同意した。
「なんでこんなことに……。何かの呪いを受けたんですか……?」
「呪い……」
「もしや……」
ヒースクリフの言葉に双子は何か思い浮かぶことがあったようで顔を見合わせた。