魔法使いのいる世界
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景色が戻るとシャイロックは楽しそうに微笑んだ。
「私たちは奉仕系なので、ねだられるまえに、ついサービスをしてしまいました。次は愛らしいおねだりを聞かせてくださいね」
「ふふっ。魔法使いは、心で魔法を使うんです。だから、愛が大好きなんですよ。同時に、愛が恐ろしくて憎いんです」
「そのくせ、男にも、女にも、動物にも、星にも、魔法使いは恋をします。風に恋をして、世界中を追いかけて、花を恐れて、世界中を闇に覆おうとして、一生を終える魔法使いもいます」
「馬鹿らしいかもしれませんが、どうか、笑わないでください。賢者様。私たちは、私たちなりに真剣に、自分の性質と、それらが選ぶ日々を受け入れて、楽しんで、幸せを探しているんですよ」
ゲルダはそう言うと紅茶を飲み干して椅子を立つ。
シャイロックもワインボトルの湯気が小さくなって、テーブルの上を片付けると、立ち上がった。
「お邪魔してしまいましたね。どうぞ、読書の続きを楽しんで」
「ごゆっくりどうぞ。賢者様」
ゲルダが恭しくお辞儀をして去ろうとすると晶は口を開いた。
「あ……。いえ……。また聞かせてください、魔法使いの話。とても面白かったです。魔法使いの話、私は好きです」
晶の言葉にシャイロックとゲルダは顔を見合わせて瞬きをする。
そして、嬉しそうに笑い合った。
「もちろん、喜んで」
「いつでもお話致しますよ」
そうして2人は食堂を後にした。
時間は過ぎ、正午になると月は完全に隠れ、スノウとホワイトをはじめ、別々の場所にいた魔法使いたちが新しい魔法使いを召喚するために集まってきた。
みなが集まったことを確認するとスノウは口を開いた。
「やり方は儀式をしながら教えよう。OJTじゃ」
「OJT……?」
聞き慣れない言葉だったのか晶は首を傾げる。
「前の賢者が伝えた言葉じゃ。実践しながらやり方を教えるのはOJT」
「座学で伝えるのは研修」
「話し合いはミーティング」
「まとめ役はトレーナー。我々は先生と呼んでおるがの」
スノウとホワイトの言葉に晶は納得したように頷いた。
「わかりました……。あの、ひとつだけ先に聞いてもいいですか?痛かったり、怖かったりしますか……?」
晶の言葉にシャイロックとムルとゲルダは目を見合わせた。
「私たちには、痛そうだったり、怖そうだったり、見えませんでしたけど」
「前の賢者様は泣いてたかな?」
ムルの恐怖心を煽るような言い方に晶は怯んで、後ずさった。
「きっと、大丈夫ですよ。まあ、前の賢者様はすごい咳き込んでましたけど…」
「ま、待ってください。賢者の書を読んでからでもいいですか?前情報を入れてから挑んでも……」
「もちろんだ。召喚の儀式について書いてあるといいが」
カインの了承の言葉に晶は持ってきていた賢者の書をパラパラとめくる。
「……あった!」
そして数秒の後、該当するページを見つけたようで晶は声を上げる。
少しして顔が強張ったが、晶は意を決したように本を閉じた。
「…………よし、やります」
『掌理のゴブレット』をスノウが晶に手渡す。
その中にホワイトがマナ石を入れればたちまちゴブレットの中身は黒い水で満たされる。
その匂いにみなが顔を顰めた。
晶は覚悟を決めてゴブレットに口をつけ、黒い水を一気に飲み干していく。
「……っ、ぷは……っ」
「よくやった」
「よくやったぞ、賢者よ」
「の……、飲みました……。うぅ……っ」
晶の目には不味さのあまりに涙が滲んでいた。
「……よく飲めるな……」
ブラッドリーは引いたように晶を見つめていた。
「頑張ったな、晶!」
「後で美味しいコーヒーいれますね!」
カインとヒースクリフは晶を褒める。
「やっぱり泣いた!」
「私でも号泣するでしょうね」
「同感ね」
ゲルダは苦笑いをして晶を見つめた。
「賢者よ。『掌理のゴブレット』を頭上に翳すのじゃ」
「何があっても、ゴブレットから手を離してはいかんぞ」
スノウとホワイトの言葉に晶は涙目になりながらも言われた通りに、両手で頭の上にゴブレットを翳す。
「…………!」
すると、晶の周りに風がぶわあっと渦を巻いて現れた。
彼女の服を、髪を風が巻き上げる。
それでも彼女は懸命にゴブレットを頭上に翳していた。
そんな晶をゲルダは静かに見守っていた。